経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

二次流通の大切さを肌で感じコメ兵の意義を再認識しました 石原卓児 コメ兵ホールディングス

石原卓児 コメ兵ホールディングス

日本最大級のリユースデパート「KOMEHYO」を展開するコメ兵ホールディングス社長の石原卓児さん。「二次流通があることで一次流通が発展し、職人も含めた皆が豊かになる」と話します。コロナ禍の全店休業を乗り越え、過去最高益を出す同社の強さの秘密に迫ります。聞き手&似顔絵=佐藤有美 構成=大澤義幸 photo=市川文雄(雑誌『経済界』2023年8月号より)

石原卓児 コメ兵ホールディングス
石原卓児 コメ兵ホールディングス社長
いしはら・たくじ 1972年愛知県生まれ。英国暁星国際大学卒業後、MBA取得。大手家電量販店に勤めた後、98年コメ兵入社。新宿店店長、常務取締役などを経て、2013年4代目社長就任。20年より現職。日本リユース業協会会長。

コロナ禍に全店舗を休業。「充電期間」を経て進化

佐藤有美 石原卓児
佐藤有美 石原卓児

佐藤 コメ兵4代目社長の石原さんは大学卒業後、自ら志願して外部の会社で修行されたそうですね。

石原 商売で接客は避けては通れません。接客を学ぶ機会を求め、大手家電量販店で約2年間修行しました。

佐藤 家を継ぐぞ、という気概を感じます。そこで学ばれたことは。

石原 二次流通の重要性です。カメラ売り場で毎年のように新製品を購入されるお客さまがいました。その際に中古品を下取りしますが、金額に満足いただけないことがあり、「一次流通で新品を売るだけでなく、二次流通がしっかりしていないと買い取り金額が上がらない。この買い取り機能を持つことも重要だ」と気づきました。ここでコメ兵の存在意義を再認識できたのは良かったですね。

佐藤 循環型社会の形成にも必要ですしね。今は世間の中古品への抵抗感も薄れ、リユース業界の拡大期にありますが、コロナ禍は御社も全店休業を余儀なくされたそうですね。

石原 はい。全国的に客足が落ち、従業員のストレスもたまり、接客で楽しさを提供するのが難しくなりました。そこで約2カ月間の全店休業に踏み切りました。東日本大震災の時は従業員の不安が募る中で営業を続けましたが、その反省からお客さまと従業員の安全を考えた次第です。

佐藤 英断ですね。休業中の仕事の指示はどうされたのですか。

石原 休暇ではないので、学びを深めたり新サービスを考えたり、お店の営業を再開した時にお客さまに喜んでもらえるレベルアップを図ること、誰もリストラしないことなどをオンラインで伝えましたね。

佐藤 営業再開後、実際に仕事の仕方はどう変わりましたか。

石原 従業員発案のプロジェクトがスタートしています。例えば、再開後も非対面接客や三密回避が推奨されていたので、コンタクトセンターを新設して非対面の電話やチャットで対応し、それでも現物を見たいというお客さまは予約対応としました。また、従業員に専用スマホを持たせ、お客さまとLINE交換して商品の入荷連絡をするなどマンツーマンに近い接客を標準化しています。お客さまを大事にしたい気持ちを具現化できたのは心強かったですね。

佐藤 コメ兵が進化するための良い充電期間になったのですね。会社としてはコロナ禍の特別な施策は。

石原 弊社はモノの買い取りができれば、店舗、オークション、ECなどで販売できます。そこでこの時期は買い取り専門店を出店し、買い取りに集中しました。また販売については、3つの手段のバランスを心掛けました。店舗販売は利益率が高く収益が安定するので、珍しい商品や人気商品をお店に並べて丁寧な接客で販売する。オークションは手数料がかかり利益率も低めですが現金化が早いので、相場変動の激しい流行りものなどを販売する。ECもテコ入れし、販売比率を約2倍に引き上げました。

佐藤 危機を乗り越える適切な施策で会社を強化されていますね。

AI真贋ソフトを導入し目利きスキルの伝承も容易に

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佐藤 御社独自の機能として、全店舗で買い取り時にAI真贋ソフトを導入されているそうですね。

石原 実はそれも従業員の発案です。ブランドバッグと財布小物の真贋を見分けるソフトを開発し、2021年度末に全店に導入しました。100%に近い精度の判定ができますが、万が一間違っていたり、判定のできないものがあっても、従業員が最新のイミテーションを学ぶ機会になる。愛知県の商品センターでは年間86万5千点を入荷しており、データベース化の過程でAIを育てています。

佐藤 誰でも操作できるのですか。

石原 誰でもソフトの指示に従ってマイクロスコープで商品の画像を撮るだけで、商品のモデル名、正規品か偽物かなどが分かります。弊社で培ってきたノウハウと外部の協力を得てソフトを開発しました。

佐藤 人の経験に頼りがちな目利きのスキルの精度を高め、伝承の壁も超えているのは素晴らしい。

石原 AI真贋はベテランと新人のスキルの差を埋め、買い取りスピードを上げ、接客時の自信も深めます。さらにはグローバル展開でも、日本よりも人材流動性の高い海外で安定したサービス提供を可能にします。世界でもブランドリユース業界のトップを狙います。

佐藤 社長就任10年目を迎え、23年度も過去最高益を出しています。この間、意識してきた改革は。

石原 弊社は現在、連結売上高800億円超、従業員1千人強の規模となりました。事業開発は時代に合わせてアップデートを繰り返し、他にないビジネスモデルを強みとしています。また人材教育チームを設置しました。買い取りについて教えることで販売の知識も広がり、お客さまに楽しさを届ける接客ができるようになります。その上で、皆が挑戦する組織風土を醸成してきました。

佐藤 想いを持って取り組んできた結果はうそをつきませんね。この先の展開も楽しみにしています。

石原卓児 コメ兵ホールディングス イラスト
石原卓児 コメ兵ホールディングス イラスト