経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

最終回 アイデアを考えるのはAIではなく人間です 加藤昌治

加藤昌治

【連載】『考具』著者が教える、自ら企画し行動する社員の育て方

こんにちは。加藤昌治です。社員あるいは部下の方々から「アイデア入りの企画」を出しやすくする環境マネジメントを実践的に考える本連載。とうとう最終回です。今回は「アイデアの整え方(丸め方)」の具体的な3つの方法について解説していきます。ぜひご一読の上、実践してみてください。(文=加藤昌治)

加藤昌治氏のプロフィール

加藤
加藤昌治(かとう・まさはる)
1994年広告会社入社。情報環境の改善を通じてクライアントのブランド価値を高めることをミッションとし、マーケティングとマネジメントの両面から課題解決を実現する情報戦略・企画の立案、実施を担当。著書に『考具』(CCCメディアハウス)、『発想法の使い方』(日経文庫)、ナビゲーターを務めた『アイデア・バイブル』(ダイヤモンド社)のほか、新著『仕事人生あんちょこ辞典』(共著:角田陽一郎。KKベストセラーズ)など。角田陽一郎と加藤昌治の「お悩み”あんちょこ”ライブ相談会」(YouTube)
(https://www.youtube.com/channel/UCbUSxWWmauPazkahrFrBXhQ/videos)

今回も、まずは読者からのご質問と前回の復習

質問:アイデアを企画に仕上げるときのポイントはどこになりますか?

質問:社内で議論するのに適切な企画の詰め具合がわかりません。

今回が本連載の最終回。これだ! というアイデアが見つかったら、どうやって「企画」としてまとめていくのか。ドキュメントの提出やプレゼンテーションも視野に入れた上での、企画(書)作成において重視したいことは何? で締めます!

【これまでの記事】

第7回 アイデアを「選ぶ」時、ダメなアイデアに同情は不要です

第6回 アイデアの幅を広げる「云い換え」技を覚えよう

第5回 上司は正しいブレーンストーミングを覚えて実施しよう

第4回 「直感的な云い出しの技「死者の書」でアイデアを考えてみよう

https://net.keizaikai.co.jp/60794

第3回 アイデア出しの技「云い出し」と「云い換え」って?

https://net.keizaikai.co.jp/60794

第2回 アイデアは大雑把でいい。「質より量」でいい

https://net.keizaikai.co.jp/60466

第1回 「企画」と「アイデア」は同じモノではありません

https://net.keizaikai.co.jp/57991

アイデアの「整え方」=「丸め方」が大事

さて、ここまでの作業を通じて、「お題に対して効果あり、のアイデア」を出し、選び出すことができた・・・はずです。しかし、連載第1回から延々と申し上げている通り、アイデアと企画とは別物。選ばれたアイデアを企画として「整える」プロセスが必要になります。「整える」は、精緻化する、裏を取る、と云い換えることもできますね。つまり、アイデアとはある意味で理想100%のピュアな状態。

ほとんどの場合、そのままでは実施できません。予算が全然ハマらなかったり、日程的に間に合わなかったり、新たな設備投資が必要だったり・・・。ピュアなアイデアのどこかを調整する必要があります。すなわち「整える」です。当初100だったアイデアは、90なり、85なりに減衰せざるを得ない、のが現場の事情だと思います。

そして、ある程度のキャリアを持っているビジネスパーソンの皆さんには別の言葉が脳裏に浮かんだかもしれません。「丸める」というワード。読者の皆さんがどうか、わかりませんが、乱暴な一般論で申し上げると、ビジネスパーソンたちは「丸め上手」。放っておくとツルツルのマルマル、に丸めてしまいがち。あれ、アイデアはどこに行ったの? 状態です。

ということで大事にしたいのは「整え方」、下世話に云えば「丸め方」です。100のママは厳しいでしょうから、実際丸めるんです。丸めること自体はOK。でも、丸め方次第ですよ、という構造、進行のプロセスです。

整え方ってイメージ的には2種類あります。最初は「全体のカタチはそのままに、相似形的に整える(丸める)」方法。ピュア100%のアイデアがギザギザな、ウニみたいなカタチだったとしたら、カタチには変化なく、面積や体積が小さくなるパターン。もう一つは、「尖っているパーツだけは、そのまま残す。他はかなり丸めても赦す!」なパターン。もう、いろんなところは諦めるけど、アイデアのアイデアたる所以だけは、何としても残したい場合です。

アイデアを企画として整える、のプロセスでは、ビジネスパーソンとしての実務経験は有効です。見積もり、納期確認、品質はどこまで追求するのか・・・いわゆる「裏の取り方」は、過去経験の活用が可能です。ベテランの技、ですね。

この時、ベテランがやってはいけないのは「すぐ諦める(丸める)」「過去事例と同じようなカタチに丸める」ことです。アイデア通りの100は厳しい。それはわかっている。フツーにやったら、ココを丸めて85の着地だなぁ、なんてベテラン故に“先”が見える。ですね、経験あるから見えるでしょう。で、そこからどれだけ粘れるか、が本当のベテラン技への期待です。フツーだったら85のところ、「ん~、Hさんに頼んだら、90行くかも?」とか「既に発注済みのS案件の部品を流用できたら、91で着地できるかも?」。

経験不足の若輩者には思いもつかない整え方法を知っている!? のはベテランだからこそ。そして目の前にあるアイデアの「どこが素晴らしいのか」を共有できていれば、その好いところをできるだけ残して丸めたくある、整えたくなるはずですよね?

「アイデア入りの企画」にするための3つのポイント

では、アイデアを企画として整えて着地させていくプロセスでは、どんな点に注意していくと、その企画が単なる「アイデアなしの企画」ではなく「アイデア入りの企画」になるのでしょうか?

このプロセスについては、いろいろな方がそれぞれの持論をお持ちです。読者の皆さんと、各持論との相性がよいものを選んで欲しいな、と思いつつ、ワタクシの持論です。

アイデアを企画に整えていく段階で、3つのポイントを大事にしてください、と伝えています。その3つというのは、

1)そのタイトル、一読して「アイデア」がわかりますか?

2)5W、とにかく譲れないWは明確ですか?

3)「一番のシーン」としてアイデアを見える化できますか?

「ワークショップ・考具」では、この3つを1枚に格納してもらう「1枚企画書」を作成してもらっています。以下、それぞれ詳しく解説します。

  • 1そのタイトル、一読して「アイデア」がわかりますか?

読んで字のごとく「企画の名称」です。でも多くの企画書に記載されているタイトルを読んでも、「ああ、●●みたいなことなのね?」と、ツーカーでその「アイデア入り企画」の肝となるアイデアや全体的な概要イメージが伝わりません。なぜか。タイトルがタイトルしてないからです。

第1回で、新規事業を考えてきて欲しい、と社員に依頼した社長さんの話がありました。で、出てきた企画書の表紙には「■■社の新規事業について」とだけ書いてある。どんな新規事業をするのか? タイトルを一読しただけではわかりません。続くページに記載されている「アイデア入りの企画」についての説明になってません。いやいや出し惜しみをしてるんですよ、なんて明確な「隠す意図」があるなら別ですが、忙しい社長さんが1ページめくる時間がもったいない。

「本社がスイーツ工房に! キッチンカーによるスイーツ製造販売@本社駐車場」とか「支店の2階部分をシェアオフィスに!」など、一読してわかる書き方ってあるはずなんです。

途中の過程で「アイデアスケッチ」を描いている場合は、メインのアイデアとして採用されたアイデアスケッチにズドンと記載されている1行が、ほぼそのまま企画(書)のタイトルとして転用できることもあります。要は、提案する企画のコアとなる価値、すなわちアイデアって何? がわかる1 行だからです。「アイデア入り企画」のタイトルは、もっとビシッと書くことが可能です。例に出してみた「スイーツ工房」でもう少しだけ展開してみましょう。

皆さん「スイーツ」と聞いて(読んで)、どんなスイーツを脳裏に浮かべましたでしょうか? 可能性、いろいろありますよね。和菓子? ケーキ? シュークリーム系? アイスクリーム? 大学いも?

タイトルに続く企画書を読み進めていくと、その新規事業とは「大学いも」のみを販売する事業起案だったとしましょう。タイトルに「スイーツ」としか書いてなければ、提案を受ける側が「大学いもを想像」する確率は当然下がります。それ、プレゼンテーションとしてうまくいってます? という話。ちなみに「大学いも」と「スイーツ」って同じ4文字。だったら「本社が大学いも工房に! キッチンカーによる大学いも製造販売@本社駐車場」と具体的にアイデアを記述した方が、理解が早くなるわけです。

でも・・・具体的に書くのは、ちょっと怖いですよね。タイトルから「大学いも」と書いてあって、「ん? ワシは大学いも、好かん!!」なーんて反応が返ってきて、企画書がほぼ無駄になるのは嫌・・・。なので最初は抽象度を上げて「スイーツ」から始めて、企画説明の途中で「実はスイーツといっても、大学いもです」と種明かしするプレゼンテーションのシナリオ、あるあるです。

そのシナリオ、否定はしません。しませんが、仮に「大学いも」がダメならば、プレゼンの最初か最後はともかく、いつかはダメになる話。だったら最初からスパッとわかりやすい方が好いケースもあるのでは? とまじめに考えてます。

むろん「大学いも」を提案したけども、社長からの返しで「これからはシュークリームだろう?」とアイデアが変更になることもあります。採用するかどうかは別問題ですが、具体的に「大学いも」と打ち出したからのレスポンスです。アイデアは具体的な方が好い、の原則は変わりません。

そのタイトル、「企画のアイデアを語っている?」視点で見直してみてください。字数の変更、ほとんどナシで、もっともっとピシッとコアなアイデアを説明する1行になれるはずです。

  • 2)5W、とにかく譲れないWは明確ですか?

さて、タイトルは大事なんですが、さすがにタイトルだけで「アイデア入り企画」の概要全てを語ることはできません。おなじみのフォーマット「5W」を使って整えていきます。

Wから始まる5つの疑問詞、Who,Why,What,Where,WhenはOKでしょうか。5つのWが埋まると全体しての「How」が見えてきます。

サンプル続きで、「本社が大学いも工房に! キッチンカーによる大学いも製造販売@本社駐車場」を5Wに整理をすると、こんな感じでしょうか。

それぞれのW疑問詞にどんな“答え”が入るのか、は云うまでもなく、企画次第です。(上図はワタシが適当に書いてます。正解じゃありませんのでご注意ください)

そして、大事なのは、この5つのWの中で、どのWが一番大事なんですか? という問いに答えられることです。大事にしたい=最後まで丸められたくない、という意味にもなります。つまり、その大事にしたいWに「アイデア」がリンクしているはず、なんです。

上図で見ていきましょう。例えば「What」が大事ということは、販売する商材は「大学いも」にこだわりたい、という意思表示。社長が何とおっしゃられようと「シュークリームはダメ」が基本スタンスであるべき(あって欲しい)。最後は社長に押し切られるかもしれませんけど、アイデアを大事にするべきですから、ここ主張ポイントです。で、「What=大学いも」は譲れない分、他のWについては柔軟に整える。本社駐車場じゃなくても、駅前の空きスペースを借りるでもOKです、直接人件費を抑えるために最初はアルバイトではなく社員がやります、などなど。

あるいは「本社駐車場を使うことが大事」ってアイデアもあり得ます。その場合は「大学いも」じゃなくても駐車場で売れるもの、他にあればそちらも選択肢でしょう。要は大事したい=譲れない/譲りたくないアイデアがはっきりしていないと、ツルツルのマルマルになりますよ? です。

  • 3)「一番のシーン」としてアイデアを見える化できますか?

最後にご紹介するのが「ビジュアライズ」。企画って、アイデア入りであろうとなかろうと、提案の時点ではまだ実施されていません。なので物理的に写真を撮ることはできません。じゃあ何をビジュアルにするの? なんですけれど、こういう想定で考えてください。

①その企画を実施することになった

②企画実施中に、とあるメディア(新聞など)が取材に来てくれることになった

③記者だけじゃなく、カメラマンも連れてきた

④カメラマンが「この企画を紹介するに一番のシーンってどこですか?」質問した

⑤さあ、企画の監督であるあなた、どこを撮ってもらいます?

一番のシーンですよね。先ほどの5Wと強く関連しているべきですよね? だから大事にしたい(丸めたくない)Wは、当然写り込んでいて欲しいはずです。

けれど、タイトルと同じように、「絞るの怖い」モードが発動してしまう人が多数いらっしゃいます。そんな方々がやってしまう失敗が2つあります。

一つは「上空から撮った全部入り航空写真」。確かに企画の要素がすべて網羅されているかもしれない。しかしどこにも焦点が当たっていない。つまりアイデアが何なのか、さっぱりわからないビジュアライズの失敗例。

もう一つが「時系列を最初から最後まで押さえた4コママンガ」。企画の種類によっては数時間かかるもの、お客さまも出入りあるタイプの企画、あるでしょう。しかししかし、長時間かかる中でも「やっぱりこの一瞬」ってあるんだと思うんですよね。でもその瞬間にフォーカスするのが怖いので、時系列を全部押さえたくなってしまう抽象化の誘惑。

一般的に新聞記事って、1つの記事当たり写真は1枚です。だからこそ、その1枚には何が写っていて(あるいは写る必要がなくて)、どの瞬間が「そのアイデア入り企画の価値を伝える写真」として最適なの? を想像、妄想して欲しい(まだ実現してないですから、この時点では想像です)。そして勇気を持って、想像上のカメラマンさんに伝えてください。これでバッチリ「ビジュアライズ」です。

企画書上で「ビジュアライズ」する際には、工夫できた方が素敵ではあります。建築物だとCGなんかを駆使して「未来図」を描いたりしますね。そういう「なんちゃってなシーンをホントに絵にする」技術と準備があればベストですが、そこまで行かなくても大丈夫。取材されている現場で、カメラマンさんに対してCGは不要です。話し言葉でどんなシーンが撮れそうなのか、共通認識をつくること、できるはずです。

つまり、企画書上は言葉だけ、であっても説明者である自分の頭の中で「そのシーン」がクリアになっていれば、十分伝えられるわけです。

ちなみに、このビジュアライズがハッキリしていると、企画提案後のQ&Aセッションもまったく怖くありません。「一番のシーン」に写っているアイテムはもちろんですが、写ってないモノ・コトもイメージできていますから、まあ大概のご質問には楽々と解答できます。少々とっつきにくいのですが「ビジュアライズ」オススメです。

アイデアを考えるのはAIではなく人間

第1回〈「企画」と「アイデア」は同じモノではありません〉から今回まで、業種業態、単価の違い、あるいは事業規模の違いを超えて普遍性のある「アイデア入り企画」のつくり方、をたどってきました。限られた文字数の中、説明不足な点もあろうかと思います・・・お赦しいただけると幸いです。また2022年には生成型AI/対話型AIが大幅に進歩し、アイデアづくりの現場への活用も始まっています。けれどアイデアを考えるのは、やっぱり人間。読者の皆さん、そして部下の皆さん。この基本構造は変わらないはずです!

昨日も今日も、そして明日も日本のどこかで、誰かが「アイデア入りの企画」を思いつき、見える化し、提案していることでしょう。上司である皆さんは、その思いをしっかりと受け止めてください。そして迷っている後進がいたならば、「こうやってみたら?」とサポートしてあげてください。どうぞよろしくお願いします。

上司と部下とのコラボレーションで、日本がアイデア大国になることを夢見て。

かとう拝

※本連載では読者の皆さまから加藤氏へのご質問もお待ちしております。質問は全て加藤氏にお届けします。その質問、送ってください!

質問送り先:企画編集担当・大澤osawa@keizaikai.co.jp(タイトルに「加藤氏連載の質問」とご明記のうえ、本文に「質問内容」と、記事の感想なども頂けたら嬉しいです)