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歯科業界にイノベーションを決済加盟医院は1万院に 玉井雄介 スマートチェックアウト

スマートチェックアウト 代表取締役 玉井雄介

歯科医院向けにクレジット決済サービスの「Pay Light」(ペイライト)などを展開するスマートチェックアウト。サービス開始からわずか3年で加盟医院は1万院に迫る勢いだ。玉井社長は診療履歴を共有化するプラットフォームの構築を目指して歯科業界のイノベーションに取り組む。(雑誌『経済界』2023年9月号 総力特集「人材育成企業2023」より)

スマートチェックアウト 代表取締役 玉井雄介
スマートチェックアウト 代表取締役 玉井雄介(たまい・ゆうすけ)

歯科で料率最安の分割決済診療履歴の共有化を目指す

ノンバンク系企業で金融や決済のサービスを学んだ玉井社長。高額な美容関係の決済プラットフォームに分割払いを組み込むなど独自のアイデアで顧客を開拓した。7年ほど勤めた後に会社を辞めて、「地元に戻ろうか」と思っていたところに元顧客企業から、「決済サービス会社を買い取らないか」と持ちかけられた。それが現在のスマートチェックアウトだ。

2017年に会社を継いだ。システムと信販会社との契約があるだけの決済サービス会社で、社員はわずか1人だった。20年歯科医院向けの決済サービス「ペイライト」をスタートすることになる。

「歯科はインプラントや矯正など高額な自費診療も多いので、この業界なら自分が分割払いで培った決済サービスが活用できると感じた」

顧客はゼロから開拓した。電話でアポイントを取って毎日、歯科医院を巡る日々が続いた。決済手数料は通常3%が一般的なところだが、同社は半分の1・5%の料率でサービスを開始。5大ブランドのカードが使えることもあり、加盟医院が増えるのにそれほど時間はかからなかった。現在は料率1・35%と最安値の手数料で業界最大手のシェアを獲得している。

一方、足しげく歯科医院を回るうち、玉井社長は業界が抱える課題に気付く。

「歯科医と言えば資産家をイメージするが医院数はコンビニよりも多いと言われ、その競争は激しい。開業から半年間も無給で働く先生もいたほどです。優秀な歯科医でも常に新規患者が来ないと続けられません。保険診療を主軸としている医院では、経営が厳しいと患者を次々と受け入れなければならなくなる。患者を幸せにする歯科医を増やすためにはどうするべきか考えるようになりました」

玉井社長が目指すのは患者一人一人の既往歴を共有できるデータベース・PHR(パーソナル・ヘルス・レコード)の構築だ。過去にどの歯科医でどのような治療を受けたのかが分かれば歯科診療に役立てられる。

「例えば自宅近くの医院でレントゲンを撮影しても、会社近くの医院を受診すれば再び撮影しなければならない。これは患者の負担と同時に医療費の無駄。患者と向き合って、28本全ての歯を死ぬまで残せるような歯科医と患者の関係であってほしい」

玉井社長は将来的には「ペイライト」の加盟医院を中心としてPHRを普及させたい考えだ。

求める人材は「変わり者」「非日常」が創造性を養う

スマートチェックアウトの社員は50人。当初は紹介を通じたリファラル採用(自社の従業員から友人・知人などを紹介してもらう採用方法)のみで従業員を獲得しており、2年前から媒体を通じた募集を少しずつ始めた。求める人材像は「人とは違う経歴や考え方の持ち主」だ。

「高学歴や大手企業からの中途採用者よりも、大学を休学したり、就職せずに世界一周旅行をしたり、いろいろな生き方を経験している人間の方が魅力的です。採用基準は一言で言えば、柔軟性のある『変わり者』(笑)。柔軟性の高い人間は他者に対する共感意識や思いやりも強いですから」

「非日常の体験」も玉井社長が掲げる人材育成のやり方の一つ。屋久島へ幹部を連れて登山に出かけたり、山形県の農家でサクランボ収穫のボランティアを行うなど、業務とは関係のない体験に重きを置く。

「大切なのは非日常の経験。ずっと日常にいると便利さに気付かないし、創造性が欠けてきます。当たり前と思っている日常の便利さやありがたさに感謝するには非日常を体験させること。苦しい時もありますが、例えば山を登り切った時の達成感や感動を皆にも味わってほしい。事業活動以外に身を置くことがイノベーティブな創造につながります」

今夏は徳島の阿波踊りにも参加する予定。社内で有志を募ったところ、全社員の過半数の約30人から応募があったという。業務外でも会社の将来やビジョンについて、社員と話し合うことも多い。「語り合う夢があるからできること。社員は社会貢献意識が強いので、将来のビジョンを示せばゴールに向かって進んでくれます」

オフィス環境にも配慮し、今年は東京駅前の「JPタワー」の18階に移転した。低層には商業施設の「KITTE」もある一等地だ。カリフォルニアをイメージしたガラス張りのオフィスからは東京駅周辺が一望でき、社員からは「出社したくなる」などの声が聞こえる。

「優秀な人材を獲得し続けるにはオフィス環境も重要です。人材育成には多面的な投資が必要で、少しは背伸びもしなければなりません。育成における損益を見れば最初のうちは債務超過かもしれませんが、長い目で見れば必ず育った人材のリターンはあります」

目標のPHRの構築・普及を実現するまで、スマートチェックアウトの挑戦は続く。 

会社概要
設立 2013年3月
資本金 2,600万円
売上高 457億円
本社 東京都千代田区
従業員数 50人
事業内容 決済代行サービス業
https://www.scogr.co.jp/