ITbookホールディングスグループのNEXTは、IT技術者を派遣するビジネスモデルで急成長を遂げてきた。一方で成長企業が陥りがちな大量採用・大量離職の状況にならないよう、社員を重んじるさまざまな社内改革が奏功している。(雑誌『経済界』2023年9月号 総力特集「人材育成企業2023」より)
やりがいと働きやすさで技術者の離脱を防ぐ
大和証券の海外部門の社長・会長を歴任し、ITbookホールディングスの取締役として経営に携わってきた松場清志社長は、2022年4月にNEXTの社長に就任し、これまでのビジネスモデルを抜本的に見直すCNN(Challenge New NEXT)会議の設置からスタートした。
「顧客から感謝されるビジネスモデルをつくるには、大量採用・大量離脱するビジネスモデルではなく、商品である人財を重視することが第一だと考えました」と松場社長は語る。
闇雲に人員を大量に採用することで成長していた時代は終わった。21年度には赤字となり、社員が大幅に退職していく状況に陥った。
この退職を防ぐためにまず技術者をきちんと評価し、給与に反映させる体制を整えることから着手している。
また、採用基準の見直しも行い、未経験者から経験豊富なレジェンドまで、応募者に応じた基礎研修・OJTを用意しながら即戦力人材を送り出している。
技術者は、仕事に対して目の前の顧客から「ありがとう」という一言をもらいたい。そのために適所を探し、適材を送り込む。そうなれば派遣先からの信頼も増し次の依頼につながる。
一方で、社員同士でコミュニケーションを取りやすい環境づくりのための予算も付けた。
「技術者は派遣先の企業で働くため、不満があってもそれを吐き出す機会が少なく、退職につながる一因になっていると思います。ただの集まりではなく、『参加してみたい』と思ってもらえる社内イベントを設けています」
一つはグループ会社のクリードパフォーマンスの著名なパーソナルトレーナーによるストレッチトレーニングだ。週1度、朝8時から虎ノ門のオフィスで開催している。オンラインでも参加でき、社員の心身両面の健康づくりに役立てている。
もう一つは、平日の夜でも社員同士でコミュニケーションを取れるよう、プライベートクラブの活用も始める。
「例えば月曜と水曜は誰か役員もいるから、来たい人がいれば気軽に参加してくださいというスタイルです。プライベートクラブという、現場とは全く異なる場を提供しコミュニケーションを深めて欲しいと願っています」
こういった予算を付けることができたのは固定費が削減できたことも大きい。首都圏の拠点を統廃合し、分散していた7拠点を全て虎ノ門の本社1拠点に集約した。
「おかげで一人一人の技術者に目が届きやすくなり、顧客の声も吸い上げやすくなりました」
また、以前はスーツ着用が義務付けられていたが、カジュアルエブリデイを実践。封建的な社風を柔らかい雰囲気に変えることで、働きやすさもアピールしている。
こうした一連の改革によって、業績はV字回復を遂げた。就任前の21年度の営業利益は約7千万円の赤字だったが、22年度は8200万円の黒字となり、成果が数字として明らかになっている。
女性やシニアの積極採用で競合他社との差別化を図る
クラウドやサーバ、ネットワーク、データベース、セキュリティなどの分野に強みを持つ同社。派遣先は大手企業がほとんどで、優秀なIT技術者が多く在籍する。
一方、技術者の採用は簡単ではなく、他社との差別化を図るための取り組みもスタートした。女性とシニアの採用である。
女性はITコンシェルジュとして、大企業のITサポートやIT知識のある秘書役として活躍することができる。
シニアはITバトラーとして、技術サポートを必要としている会社のIT相談役として働いてもらえる。
「親会社であるITbookホールディングスは『社会課題への挑戦』という企業ミッションを掲げています。女性やシニアの活躍を推進し、ストライクゾーンを広げていきたいと考えています」
また、さらなる会社の成長のためにシステム開発分野への進出も検討している。
「やる気はあっても技術がない社員はすぐに企業に派遣することができません。社内外で開発をしていれば、実践も兼ねてそのチームで仕事を覚えてもらえます」と松場社長。
「ITbookホールディングスは、建設業のサムシングとの経営統合によってスタートしています。IT化が遅れている土木・建築や農業の分野での貢献も視野に入れています。例えば、グループ会社のITbookテクノロジーでは、工事現場の安全を守る最先端技術のIoTサービスを提供しており、強みとなる分野として可能性を感じています」
松場社長の下、新生NEXTとして飛躍していく同社。人財を大切にする改革の大きな成果が期待されている。
会社概要 設立 2012年3月 資本金 1億円 売上高 27億4,000万円 本社 東京都港区 従業員数 294人(2023年4月現在) 事業内容 ICTサービス事業、IoTサービス事業、エンジニアリングサービス事業 https://nextkk.co.jp/ |