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キャッシュレス社会は現金主義の延長にはない 福田好郎 キャッシュレス推進協議会

福田好郎 キャッシュレス推進協議会

大々的なポイント還元キャンペーンやマイナポイント事業など、経済的なメリットでキャッシュレス決済を広げる動きは一段落した気配がある。ここからさらに普及させる場合、一体何がトリガーになるのか。文=福田好郎 キャッシュレス推進協議会事務局長(雑誌『経済界』2023年9月号 「さよなら現金!! キャッシュレス本格到来」特集より)

福田好郎 キャッシュレス推進協議会
福田好郎 キャッシュレス推進協議会

さらなる効率化のために社会的意義を強調する

 2018年、25年までにキャッシュレス(CL)決済比率40%達成を目指す「キャッシュレス・ビジョン」が経済産業省で策定され、それを推進する母体としてキャッシュレス推進協議会が設立されました。とはいえ、経産省からお金が出ているような団体ではなく、CL決済の推進を目指す法人等の年会費で運営しています。CLに関連する事業者団体はいくつかありますが、当協議会の特徴は、金融・IT系の決済システムやサービスの提供側だけでなく、小売りや飲食など導入する側、そして消費者団体等からも幅広くご参加いただいていることです。

 日本がCLを推進すべき最大の理由は、少子高齢化という世界でも特異的な課題を乗り越えていくため社会を効率化すること。経済産業省が示す25年のCL決済比率40%達成は現実的な目標になってきたと思います。ただ、比率としてはもう少し高まらないとCLのメリットが十分に発揮されません。

 これまでポイント還元や、店舗等へ決済端末を無償で提供するようなキャンペーンを政府や民間事業者で行ってきました。これらの施策をメリットと感じていただける層には、一定程度普及した感触がありますので、ここから一層CL決済の比率を向上させるためには、個人の利得や利便性とは別の観点から「日本社会にとって有意義なものである」と理解してもらう必要があると感じます。

 例えば、環境面でのメリットを周知するといった方法が有効と考えています。

 少し古いデータですが、17〜18年にかけてオランダ中央銀行が行った研究によれば、決済に必要なすべての事項を踏まえて算定すると、決済1回当たり排出している二酸化炭素の量は、現金4・6グラムに対しデビットカード3・78グラムという結果が示されています。現金の場合、ATMの運用に伴う排出量(主に電力)が多くを占めます。CL決済の普及により、サステナブルな社会を実現するための脱炭素社会につながることが分かると思います。

 もちろん、こうした社会的な意義の面から訴えかけることがすべての人に刺さるとは思いませんが、さらなるCL決済の普及のためにはこれまで以上に多面的なメリットの周知が必要だということです。

 また、「キャッシュレス」という言葉は、現金の代替物、現金の新しい形というイメージを抱きがちですが、CL社会は現金社会の延長線上にはないと考えた方が変化のインパクトを正しく理解できると思います。ガラケーがスマホに置き換わったような生活様式の変化を引き起こし、言わば、CLという生活様式になるわけです。

 キャッシュレス推進協議会では、小学生や中学生くらいの子どもを対象にした授業も行っています。お小遣いを現金ではない手段でもらうような「キャッシュレス・ネイティブ」な世代が世の中に増えてくれば、より本格的な変化が起きることになるはずです。(談)