経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

世界各国で猛威を振るう異常気象への抜本的対策

すでに暦の上では秋を迎えた。しかし猛暑の夏は一向に収まる気配がない。これは日本だけの話ではなく、世界中で異常気象が人類を脅かしている。そのため地球温暖化の原因であるCO2削減は待ったなしだが、果たして今の対策だけで十分なのか。別のアプローチを探ってみた。(雑誌『経済界』2023年10月号巻頭特集「防災テックで身を守れ!」より)

CO2削減に影を落とす先進国と途上国の対立

 7月16日、中国・新疆ウイグル自治区のトルファン市郊外で、日中の気温が52・2℃に達した。中国の過去の最高気温は2017年7月に記録した50・5℃だったが、これを大きく上回り記録を更新した。

 地球上で、過去もっとも気温が高かった地点はアメリカのデスバレー国立公園(カリフォルニア州)で記録された56・7℃。これは100年以上前の1913年の記録だが、観測機器の不備から疑問視もされている。それを除けば2020年の54・4℃が一番高い数字となるが、今年7月には53℃と過去2番目の暑さとなった。世界一の酷暑地帯として知られるデスバレーだが、8月にその年の最高気温を記録していることが多いことを考えると、もしかしたら本誌発売時には、世界記録を更新しているかもしれない。

 このように、世界各地を熱波が襲っている。日本でも7月の東京は過去最長となる連続8日間の猛暑日を記録、6月末から7月にかけて熱中症で100人近くが死亡した。

 暑いばかりではない。昨年末、北米を大寒波が襲い、ニューヨーク州で緊急事態宣言が出されたことは記憶に新しい。日本でも毎年のように冬になると豪雪により幹線道路でトラックが立ち往生している。少し前まではあまり見られなかった光景だ。

 このような極端な気候の変動は、地球温暖化によるものだ。しかも今年は太平洋南米沖の海水温が上昇するエルニーニョ現象が発生したことで、異常気象に拍車がかかる。エルニーニョは28年頃まで継続するとみられていることからすると、今後数年は、さらなる覚悟と備えが必要になってくる。

 地球温暖化は、CO2をはじめとする温暖化ガスの増加によるものだ。そこで世界各国でCO2削減に取り組んでいることは今さら言うまでもない。再生可能エネルギーへとシフト、さらにはエンジン車から電気自動車(EV)に切り替えることでCO2を削減し、アメリカ、中国、EUなど多くの国・地域が、35年までのCO2排出量ゼロを目指している。ただしその道のりは険しい。先進国がCO2削減に取り組んでも発展途上国の多くは、地球環境よりも経済発展を優先するためだ。

 日本の商社の多くは、東南アジアなどの発電プラントに関わってきた。その中心はこれまで火力発電だったが、CO2削減のためにこれを見直しつつある。最近でもある大手商社が、東南アジアの一国で進めていたガスタービン発電計画を中止している。

 しかしその一方で、別の大手商社トップは次のように語っている。

 「コロナが明けてから、東南アジアを回り、地球環境問題に対する当社の取り組みを説明してきましたが、その反応はとても鈍い。先進国の都合になぜ自分たちが付き合わなければいけないかという態度がありありでした」

 今年は5月に広島サミットがあったが、それに先立ち4月に札幌で「G7札幌 気候・エネルギー・環境大臣会合」が開催された。この会合にはG7以外にもインド、インドネシア、UAEなどが参加した。ヨーロッパからの参加国は当初、主張する石炭火力発電の廃止時期の明示を求めていたが、これに対してG7以外の参加国が反発、結局、共同宣言には盛り込まれなかった。

CO2を貯留・利用する「CCS」と「CCUS」

 このように、エネルギー源の脱化石燃料化は容易なことではない。そこで、CO2が発生してもそれを大気中に放出しなければいい、という取り組みが注目を集めている。それがCCSだ。

 CCSは「Carbon dioxide Capture and Storage」の略で、CO2の回収・貯留技術のことだ。火力発電所や製鉄所から出てくるC
O2を分離・回収し、地中深くに圧入し、貯留する。日本では10年前から北海道苫小牧市で資源エネルギー庁が中心になって実証実験を行っており、実用化されれば、CO2の大気中への放出を大幅に削減することができる。環境省の資産によると、出力80万キロワットの石炭火力発電所にCCSを導入すれば、年間340万トンのCO2排出を抑制できる。これは日本の年間CO2排出量の0・3%に該当する。

 さらに最近ではCCSを一歩進めて「CCUS(Carbon dioxide Capture Utilization Storage=分離・貯蔵・利用)」という考えが主流になりつつある。貯めるだけでなく、それを利用することでCO2を削減し、さらに経済的メリットも享受しようという試みだ。分かりやすい例で言えば、アメリカの古い油田では、圧力をかけたCO2を送出し、CO2を貯留すると同時に、その圧力で油田に残った原油を生産している。

 さらに最近では、排出されたCO2から新たな資源を生み出そうという試みが行われている。具体的には、CO2と再生可能エネルギーによって水を電気分解して生じた水素を化学反応させ、メタンに生まれ変わらせようというものだ。メタンは液化天然ガス(LNG)の主原料であり、ガス火力発電や都市ガスなど、既存のエネルギーインフラで使用することができるため、エネルギーの循環サプライチェーンを構築することができる。

 普及するためには、既存のLNGと同等のコストに引き下げる必要があり、そのハードルはまだまだ高い。しかし日立造船などが現在実用化に向けた取り組みを行っており、現在、30年代での本格的な運用を目指している。

 以上見てきたように、CO2削減のためのさまざまなテクノロジーが生み出されつつある。しかし、それでも15年に合意されたパリ協定の目標「世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1・5℃に抑える努力をする」が達成される保証はどこにもない。前述のように発展途上国はCO2排出量よりも経済成長に比重を置くのもその理由のひとつだ。

 そこで、地球温暖化をこれ以上進ませないために、CO2削減とはまったく違うアプローチも始まっている。

太陽光線を遮って地球温暖化を阻止

 三畳紀からジュラ紀、白亜紀にかけ、1億6千万年間、地上を支配し続けた恐竜が、突如として絶滅したのは、隕石が衝突したことで大量のチリが舞い上がり、それが太陽光線を遮ったことで氷河期に突入したためだともいわれている。規模は違うものの、1991年にフィリピンのピナトゥボ火山が大噴火を起こした時には、大量の火山灰が成層圏に残留し、それにより地球の平均気温が0・5℃下がったともいわれている。

 つまり、空気中に大量のチリを撒くことができれば、地球そのものを冷やすことが可能だということだ。それを目指しているのがジオエンジニアリング(気候工学)の研究者たちだ。

 提唱者は、ノーベル化学賞を受賞したパウル・クルッツェン博士で、2006年に成層圏にエアロゾル(大気中を漂う粒子)を散布する実験の必要性を論文で訴えた。

 この構想に対して、マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏なども賛同、19年には米ハーバード大学の研究チームが気球を打ち上げ、成層圏における炭酸カルシウム散布の実験を行うと発表した。また韓国でも同様の実験を21年に予定していた。しかし現段階でこれらの計画は中止され、実験は今のところ行われていない。

 中止になった理由のひとつは、この実験がどのような影響を及ぼすか分からないこと。さらには仮にいい結果が得られた場合、それがCO2削減の動きにストップをかけてしまいかねないとの批判を受けたためだ。しかしCO2削減が進まずに温暖化がさらに深刻化すれば、再び検討されることは間違いない。

 さらに今後、演算スピードが桁違いに速い量子コンピューターが実用化されれば、より確度の高いシミュレーションも可能になる。それにより成層圏でのエアロゾル散布の弊害がそれほど大きくないことが明らかになれば、研究は一気に進むことになる。

 太陽光線を物理的に遮ることで地球温暖化にブレーキをかけるという構想はほかにもある。猛暑が続き、街では日傘をさす人があふれている。最近では女性だけでなく男性の日傘も珍しくなくなった。これと同じことを地球全体でやってしまおうという計画だ。

 18年に発行された日本機械学会誌に面白い論文が掲載された。要約すれば、300キロ四方の「日傘」を12枚、衛星軌道上に置くことができれば、地球を冷やすことができるというものだ。問題は、300キロ四方の巨大な物体をどうやって打ち上げるのか、さらにはそれをどうコントロールするか。それだけを考えると、荒唐無稽で実現不可能のようにも思えてくる。しかし研究者やベンチャー起業家の中には、荒唐無稽だからこそチャレンジしたいと考える人も多い。つい最近もハワイ大学の天文学者が、衛星軌道にシェードを打ち上げ、それを安定させる重りとして小惑星を利用するアイデアを提唱、話題となったばかりだ。

 19世紀に『月世界旅行』や『海底2万里』などを書いた「SFの父」ジュール・ベルヌは「人間が想像できることは、必ず人間が実現できる」との名言を遺した。いくら現実離れした構想でも、実現不可能と決めつける権利は誰にもない。人類の叡智を結集すれば、今の危機は必ず克服できる。

 栄華を誇った恐竜は、6500万年前の隕石直撃とそれに伴う氷河期襲来を前に何もできなかった。しかし現在直面する異常気象は人類が自らの手で招いたものだ。ならば打つ手はいくらでもあるはずだ。