独立系VCのデライト・ベンチャーズは今年7月、150憶円規模の2号ファンドとともに、ビジネスパーソンの起業を支援する15億円規模のデライト・ビルダーファンドを設立した。スタートアップ創出には、投資額を増やすだけではなく、根本的な起業家教育が重要となる。文・本誌=金本景介(雑誌『経済界』2023年10月号 第2特集「疾走するベンチャーキャピタル」より)
渡辺 大 デライトベンチャーズマネージングパートナーのプロフィール
DeNAが出資しつつ、あくまで独立系VCとしてファンド運用をするデライト・ベンチャーズのデライト・ビルダーファンドは、企業に勤めている人が本業を続けつつ、事業アイデアの段階から、起業に挑戦できる仕組みだ。経済規模1千億円以上の大きな課題解決を目指す事業が、投資の条件となる。起業のハードルを下げ、日本から多くの起業家を創出すべくサポートしていくと渡辺氏は同ファンドの役割を語る。
「スタートアップ設立にあたり、事業とプロダクトをつくる初期の段階が一番ハードルが高い。ここを乗り越える支援をします」(渡辺氏)
起業家候補は、アイデアが本当に事業化できるかどうかの検証を経て、実際にプロダクトをつくるタイミングから、EIR(客員起業家制度)で、デライト・ベンチャーズに有期雇用される。その後、事業が軌道に乗れば、外部資金調達を経て、完全な独立となる。依然として課題も多いものの、日本での起業環境は以前よりは良くなりつつある。
「米国では、起業が失敗しても、会社を畳みやすく、その後に起業家人材として、テック企業から引く手あまたです。つまり実質的なセーフティーネットがあります。日本はそれに対して失敗した起業家が再起しづらい環境にありました。ただ、近年は起業に失敗した人でも、他のスタートアップに転職し、活躍する人の姿も目立ってきました。環境は昔よりも改善されつつあります。誰しもが考えるほどには、起業にリスクはないのです」(同)
日本が起業への挑戦を後押しし、世界に伍するスタートアップを生み出していくには、中長期的な目線から教育のあり方を見直すべきだと渡辺氏はいう。フランス政府は2013年から始めたスタートアップ創出強化の経済政策も奏功し、目標とされた25社を超えるユニコーンを輩出した。その鍵はやはり教育にある。
「日本にとっては、フランスの外国語教育と、起業家教育はひとつの成功モデルとして参照すべきです。日本の大学生の起業志望者数が世界最下位なのに対して、フランスでは今や7割が起業志望者です。日本政府は、27年にはスタートアップへの投資額を10倍にする方針を打ち出していますが、それ以上のペースで起業家が増えなければユニコーン創出の取り組みは、確実に失敗します。世界市場で勝負できるスタートアップを生み出すために、単純に投資額を増やせば良いわけではありません。教育を変えていくことで、状況は確実に好転するはずです」(同)