経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

蒲島郁夫・熊本県知事、吉本孝寿・菊陽町長に聞く半導体と地域活性化

熊本県蒲島知事貰い写真

(雑誌『経済界』2023年12月号「日本半導体の行方特集」より)

九州全域で未来を担う人材を育成する 蒲島郁夫・熊本県知事

熊本県蒲島知事貰い写真
蒲島郁夫・熊本県知事

―― TSMCが進出したことで熊本県は盛り上がりを見せていますが、一方で人材不足が懸念されています。

蒲島 人材育成と確保は急務です。育成に関しては国が主催している「九州半導体人材育成等コンソーシアム」と連携をして、九州全体で半導体人材の育成に取り組んでいます。コンソーシアムメンバーには熊本大学が参画しており、来年の4月に新たに「情報融合学環」という学部が創設されます。これにより毎年140人を超える人材の輩出を目指しています。また熊本県立技術短期大学もあり、ここも来年4月から新たに「半導体技術科」を設置します。同学科から熊本大学への編入も可能となり、新たなアプローチで人材育成ができるようになり、九州全体で人材育成に取り組んでいます。

―― 県民への生活に対しての課題はあるのでしょうか。

蒲島 直接関わるところでいうと交通渋滞が大きな課題だと思います。今までも工場周辺においては渋滞が起きていましたが、これがさらに混雑するようでは、せっかくの歓迎ムードも台無しになってしまいます。まず工業団地周辺の県道を現在の2車線から6車線化も可能な幅員で計画を進めています。また、横軸となる中九州横断道路が熊本〜大分まで整備を進めていきます。この高速道路が開通すれば渋滞は大きく緩和されると思います。

 さらにこの高速道路と工業団地を結ぶアクセス道路の整備も検討しており、国からの支援を頂ける予定となっています。

―― 半導体製造には大量の地下水を使います。地域住民からすると環境汚染への不安もあると思います。

蒲島 持続可能な地下水利用が図れるよう企業に求めるかん養目標を、「地下水採取量の1割」から「採取量に見合う量」に見直す指針改正を進めています。また工場排水などによる環境面の影響については、新たな工場の稼働前後に変化がないか8月からモニタリングを実施して、環境への影響の有無を客観的かつ科学的に確認しています。

先人の想いを受け継ぎ、新しい菊陽町をつくる 吉本孝寿 熊本・菊陽町長

熊本 吉本孝寿 菊陽町長
吉本孝寿 熊本・菊陽町長

―― 熊本県にTSMCが誘致されましたが、なぜ菊陽町に工場を建設することになったのでしょうか。

吉本 熊本県の環境が半導体製造に適していることや、2018年から整備を始めた第二原水工業団地がTSMCの希望に合致したこと、合弁パートナーのSSSの半導体工場の隣接箇所であることが主な要因だと思います。

―― 台湾人など多くの外国人が菊陽町に移住してきていますが受け入れの課題はありますか。

吉本 菊陽町はもともと海外と接する機会が少ない地域でした。今回のTSMC進出をきっかけに外国人移住者の増加に対して、町民は歓迎する一方、言語や文化の違いなどから少なからず不安を感じているようです。そのため町主催で台湾の文化を体験できる住民参加型のイベントを企画開催する、また町が抱えている問題に対しても台湾の方とは共に考えていくなど、多文化共生の体制を整えていきます。

―― 菊陽町の将来像について、どのように考えていますか。

吉本 現在、町の人口は約4万3千人です。これを移住者を受け入れながら5万人程度までに増やし、市制施行を目指して人口のバランスを保っていきたいと思っています。今回のTSMCの誘致は、私以前に歴代町長を務めていた方々が脈々とつないできたまちづくりへの情熱が実った結果だと思っています。

 ―― 菊陽「市」になるためにどのような取り組みをしていきますか。 

吉本 TSMC効果によって、町の財政が豊かになってくると予測されています。その収益を元にさまざまな政策を打ち出すことができると考えています。

 政策として、菊陽町町民のシビックプライドの醸成をします。まずは町職員には新しい菊陽をつくっていくんだという誇りを持ってもらうために胸につける町章を全員に配布しています。今後は、特に若い世代が町の外に出た時に、故郷を自慢できるようにしていきたいと思います。