SBIホールディングスは7月に台湾の半導体ファウンドリのPSMCと共同で記者会見を開き、両社で日本に半導体工場を建設すると発表した。台湾メーカーが日本に工場を建設するのは、地政学リスクを軽減させる意味もあるが、組んだ相手が金融機関のSBIであるところが面白い。TSMCの日本工場が同じく半導体を製造しているソニーと、自動車関連メーカーのデンソーであることと比較するとその意外性がよく分かる。間もなく建設予定地が発表されるが、その総投資額は9千億円に達するだけに、SBIも大きなリスクを背負うことになる。なぜ、SBIが半導体製造に乗り出すのか。北尾吉孝社長に真意を聞いた。聞き手=関 慎夫 (雑誌『経済界』2023年12月号「日本半導体の行方特集」より)
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北尾吉孝 SBIホールディングス社長のプロフィール
―― なぜ金融機関のSBIが半導体製造に乗り出すのですか。
北尾 半導体業界にはシリコンサイクルという大きな市況の波があります。市況がよければ大きな利益を上げることができるが、悪化すれば大きな赤字が出るという厳しい業界です。しかし常に勝ち続けるには、ダウントレンド時においても投資をし続けなければならない。そのためには資金調達が必要です。
かつてDRAMで世界トップの技術があったエルピーダメモリは、資金調達がうまくいかず、結果的に売却されました。一方、サムスンは巨大な資金力を背景に投資を続けるとともに、韓国政府が積極的に支援した。その違いが、かつては50%を超えていた日本半導体のシェアが、10%まで落ち込んだ一つの要因となっています。
ただしここに来て日本政府も半導体産業育成へと舵を切りました。しかもEVなどで半導体需要も増えていく。PSMCは実績もある。しかもロジック半導体を中心に製造し、世界でも稀なファウンドリです。これなら勝算があると考えた。
製造や研究開発はPSMCに任せるが、資金調達や取引先の開拓など一部マーケット分野についてはSBIが関与。両社の強い部分を組み合わせていく方針です。
―― 提携発表時には地方創生の側面も強調していました。
北尾 半導体工場ができれば、その地域の所得や雇用面でも、大きなインパクトがある。日本経済の活性化、とりわけ地方経済における効果は非常に大きい。SBIでは過去5年以上、地方創生に取り組んできており、その意味でもこの事業の意義は大きいと考えています。
幸い、全国30以上の自治体から工場誘致の話が寄せられました。その中から厳選して話を進めており、間もなく立地を発表する予定です。
―― 4200億円の当初資金は集まりそうですか。
北尾 現在、政府をはじめ、金融機関や世界各国の投資家と話をしていますが、皆、非常にポジティブです。金利動向など不透明なところはありますが、手応えは十分です。