経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

半導体振興で新展開 企業間連携によって見える新たな動き 

リョーサン 稲葉社長

 われわれの生活や経済活動はありとあらゆる面において半導体という極小のチップに支えられている。その恩恵は一企業、一国家の発展のみにとどまらず、地方創生や国際連携などにまで及ぶ。

 日本においては半導体産業がかつての輝きを失って久しいが、ここにきて日本政府が国家プロジェクトとして、復活へ向けて動き出し、海外企業の誘致、地方での新工場の建設、国際的な合弁会社の設立など、新たな動きが各所で見えている。それに呼応するかのように、国内で新しい企業活動も始まり出した。

 半導体商社であるリョーサンは、2023年9月に中国の電気自動車(EV)市場に向けて半導体を供給するために、日中合弁会社の設立を発表した。これにより国際協業の新たな可能性を示すことになり、日本の半導体産業が国際競争力を取り戻すためのステップにつながる。

 地方においては、半導体製造工場の建設が急ピッチで進み、早いところでは24年末にも稼働開始する。これにより、地元での新たな雇用を創出できる。一方で産業全体で半導体製造に必要な技術者と製造工場を支える周辺産業などの人材不足が大きな課題だ。

 OSナノテクノロジー(OSNT)は人材派遣大手のアウトソーシングと、その子会社の共同出資で23年4月に設立された会社だ。国内の半導体製造工場に特化した人材派遣会社で、自社内で作業員を育成して最短1カ月で工場に派遣できるとし、人材需要に応えていくという。

 両社社長のインタビューからも、その熱意が伝わってくる。聞き手=佐藤元樹(雑誌『経済界』2023年12月号「日本半導体の行方特集」より)

中国のEV市場向けに半導体を供給する 稲葉和彦 リョーサン

リョーサン 稲葉社長
稲葉和彦・リョーサン社長

 われわれの生活や経済活動はありとあらゆる面において半導体という極小のチップに支えられている。その恩恵は一企業、一国家の発展のみにとどまらず、地方創生や国際連携などにまで及ぶ。

 日本においては半導体産業がかつての輝きを失って久しいが、ここにきて日本政府が国家プロジェクトとして、復活へ向けて動き出し、海外企業の誘致、地方での新工場の建設、国際的な合弁会社の設立など、新たな動きが各所で見えている。それに呼応するかのように、国内で新しい企業活動も始まり出した。

 半導体商社であるリョーサンは、2023年9月に中国の電気自動車(EV)市場に向けて半導体を供給するために、日中合弁会社の設立を発表した。これにより国際協業の新たな可能性を示すことになり、日本の半導体産業が国際競争力を取り戻すためのステップにつながる。

 地方においては、半導体製造工場の建設が急ピッチで進み、早いところでは24年末にも稼働開始する。これにより、地元での新たな雇用を創出できる。一方で産業全体で半導体製造に必要な技術者と製造工場を支える周辺産業などの人材不足が大きな課題だ。

 OSナノテクノロジー(OSNT)は人材派遣大手のアウトソーシングと、その子会社の共同出資で23年4月に設立された会社だ。国内の半導体製造工場に特化した人材派遣会社で、自社内で作業員を育成して最短1カ月で工場に派遣できるとし、人材需要に応えていくという。

 両社社長のインタビューからも、その熱意が伝わってくる。

―― 昨今の政府方針によって日本の半導体産業が非常に盛り上がりを見せています。半導体商社として、今の流れをどのように受け止めていますか。

稲葉 今まで落ち込んでいた半導体産業を政府が再評価してくれたことは、とても喜ばしいことです。半導体は安全保障や経済安保の観点からとても重要なアイテムです。とはいえ半導体単体では何もできません。結局、半導体が何に使用されているかが大事です。

 当社では、国内外のさまざまな半導体メーカーから半導体を仕入れ、電機メーカー等に対して供給や技術提案を行っています。

―― 中国のIAT Automobile Technology社(IAT)との合弁会社「四川芯世紀科技有限責任公司(以下、四川芯世紀)」の設立を発表されました。設立の経緯を教えていただけますか。

稲葉 当社は50年ほど前に中国に進出して、日本の半導体などの電子部品を仕入れて現地の企業に供給してきました。しかし、この間に中国国内では、部品メーカーが続々と立ち上がり、ものすごいスピードでシェアを拡大していきました。当時当社が行っていた日本の部品1点1点を紹介するスタイルでやっていると、時間がかかり、とても中国企業のスピードに追いつけません。ソリューション設計を提供している中国企業と共に、中国の白物家電メーカー向けに事業を展開したところ、これが非常に成功した事例がありました。このビジネスモデルを家電だけではなく、今後、EVの需要が高まる自動車業界に展開させていきたいと考えていました。

 一方で、IATは20年以上、中国拠点の自動車メーカー向けに、半導体設計を請け負っている企業です。しかし昨今、設計だけではなく、モジュールやソリューションを提案してほしいという要望が増えているのですが、IATは物を売った経験のない企業なので、そういう実績のある企業と組んでビジネスを展開したいと考えていました。

 IATと合弁で設立した四川芯世紀では、自動車産業の中で共通のプラットフォームを展開・提案する新しいビジネスモデルの創出ができる可能性があると思っています。

 既存の自動車産業は、いわゆるケーレツという、メーカーを頂点とした垂直統合型のビジネスモデルが主流でした。

 四川芯世紀では、IATの持つ枠組みを超えたネットワークと、当社が持つソリューションの提案力と半導体供給網を共通のプラットフォーム化することで、各自動車メーカーに半導体を提供できるようになります。

 メーカーごとに車の特色やデザインの違いはありますが、使用している電子部品は同じものを使っていることがほどんどです。また、メーカー側から見ても、電子部品一個一個各メーカーごとに検討していては、大幅な時間ロスとなります。そういったニーズをIATのネットワークを通じて営業していけば自動車メーカーの課題解決につながります。

1カ月の研修で半導体工場に人材を派遣  森本健一 OSナノテクノロジー

森本健一 OSナノテクノロジー
森本健一・OSナノテクノロジー社長

―― OSナノテクノロジー(OSNT)設立の経緯を教えてください。

森本 国内の半導体産業というのは、1986年の日米半導体協定を皮切りにずっと右肩下がりでした。それに合わせて人材ニーズもいわゆるシリコンサイクルの影響で増減しながらも、トータルで減っています。

 それが日本政府の方針により半導体産業への投資が盛んに行われて、熊本県にTSMCの誘致が行われ、人材ニーズが増えてきたというマーケットの変化があります。

 また、アウトソーシンググループとしても、技術領域と製造領域で人材を分けていましたが、工場の自動化が進むにつれ、境目が曖昧になってきました。それにより製造から技術まで一貫して請けられる会社のニーズが出てくるであろうと考え当社を設立しました。

―― OSNTでは、研修1カ月で技術者を工場に派遣するそうですね。

森本 半導体製造工場の技術者を自社で研修し、各工場に派遣しています。現在はドライエッチングと呼ばれる工程で使われる装置のメンテナンスに特化しております。通常、一人の作業員が他の作業もしながら、ミスなく確実にできるまでには経験が必要になってくるので、どうしても3か月以上の時間が必要となります。また、工場でメンテナンス不備によるミスが出ると数億円単位の損害となるため、入ったばかりの新人に任せるにはリスクが大きく、一定のスキルがないと現場には入れません。実際に工場で使っている装置を使用して研修を行うため、未経験者でも即戦力になる人材を派遣することができます。

 またメンテナンス以外の作業もカリキュラムを用意しているので、希望者は受講することができ、作業員としてのキャリアアップにつなげることができます。

―― 人材はどこから確保するのでしょうか。

森本 現在は、九州地方を中心に人材を集めていて、九州の大学・専門学校や求人サイトなどで募集をかけています。集まりやすいニーズとして大学が近いとか、実家が近いという理由が多いです。ただ今後の人口が減少していく中では国内の人材だけでは限界があり、外国人の雇用も進めていきたいのですが、就労ビザの関係で海外人材の獲得には課題があります。アウトソーシンググループとしては日系人に特化した人材サービスも行っているので、今後日系人の雇用には期待しています。