熊本県下でシェアトップの住宅メーカー、シアーズホームグループHD。資材高騰の影響で一時下がった業績も、営業のDX化が奏功してV字回復の見通しだ。2024年を〝本格飛躍〟の年にするための鍵は「人」である。(雑誌『経済界』「半導体特需に沸く九州特集」2024年1月号より)
業績改善で売上高300億円完工棟数1千棟が視野に
「熊本ではどの会合に行っても、本人や親族が当社で家を建てたという人に会います。本当にありがたいことです」
そう言って笑みを見せるのは熊本県トップの住宅メーカー、シアーズホームグループHDの丸本文紀代表取締役だ。同社は、丸本氏が1989年に地元の熊本県で創業。熊本県下のシェアは8%とトップで、2位に圧倒的な大差をつけている。現在では福岡や佐賀、鹿児島でも事業を展開しており、累計で9300棟以上の施工実績がある。また、リフォーム、不動産、ホテル、金融などの分野にも進出し、2022年からは持ち株会社体制に移行した。
近年は業績の伸びも顕著だった。売上高は21年4月期が前期比19%増の230億円、22年4月期が同18%増の272億円。完工棟数も21年4月期が837棟、22年4月期が933棟と右肩上がりで、23年4月期は当初、売上高300億円、完工棟数1千棟が視野に入っていた。
そこに襲ってきたのが〝ウッドショック〟による資材価格の高騰だ。「創業以来初めてと言っていいほどの影響でした」と語る丸本氏。1棟当たり140万円ほどコスト高となったため、やむなく販売価格を上げたところ、受注が減り、その結果、23年4月期は売上高が前期比2・5%減の265億円、完工棟数は同10%減の842棟と大きく落ち込んだ。
しかしながら24年4月期には売上高323億円、完工棟数で1051棟というⅤ字回復を見込んでいる。「(業績の回復が見込めるのは)ひとえに社員の頑張りのおかげです」と丸本氏。そこには、同社が実践する営業のDX化の効果もある。
同社ではクラウド型の営業支援ツールを導入。個々の営業社員の営業状況が可視化され、上司もリアルタイムで確認できる。例えば担当する顧客との間で、初期の商談から購入までのどの段階にあるのかも可視化される。アポ入れやフォローといった各段階での顧客対応が遅れている社員には、上司が指導し、対応を促す。丸本氏によれば、DX化によって一部の優秀な社員がさらに伸びるだけでなく、全体の底上げにもつながっているという。
インバウンド対応でホテルや1棟貸し高級別荘も計画
24年4月期でのⅤ字回復が見込めるとはいえ、資材価格の高騰、人口減によるマーケット縮小など業界を取り巻く環境は依然として厳しい。その中で、丸本氏は会社が継続するためには「常に成長し、新しい事業を生み出していくしかないのです」と強調する。
その一環として、主力の住宅部門では23年夏から新たに法人向け営業に乗り出した。同社と法人契約を締結した企業の社員は、同社の住宅を値引き価格で建築・購入できる。締結先の企業にとっては、自社社員への福利厚生にもなる。営業開始から2カ月で、熊本や福岡の有力企業など25社と契約が取れている。
住宅部門以外では、再び拡大が見込まれるインバウンド需要への対応を強化する。
グループのシアーズアセットビジネスは24年4月、インバウンド向けの「レジデンシャルホテル」の新棟を、JR博多駅に程近い福岡市博多区内にオープンする予定。これまで同区と東京都内に合わせて3棟展開しており、3年ぶりの新棟開業となる。
また、阿蘇山の南東に位置する熊本県阿蘇郡高森町において、1棟貸しの別荘を合計4棟建築する計画だ。コンシェルジュが常駐する1泊20万円相当の高級別荘で、24年10月頃のオープンを予定している。
人材力強化を推進して次代を担う後継者育成も
「24年は〝本格飛躍〟の年にしたいですね」と語る丸本氏。キーポイントとして、「何よりも人です」と強調する。そのために実践しているのが人材力の強化だ。
同社は従来から、自社の人材育成に力を入れてきた。代表的な施策が営業部門や技術部門で行われる独自の社員教育「シアーズアカデミー」。現場のリーダー層が、社歴の浅い社員に仕事で求められるスキルを1年かけて教え込む。
このほか、後継者育成にも積極的だ。社員の中から次代の経営層の候補を選抜し、疑似役員会を設ける「ジュニアボード制」を導入。丸本氏ら現経営陣と同社の将来について議論を交わしている。
「会社を継続、成長させる武器は最終的には人しかありません。まずは人をつくる。そしてお客さまが喜ぶ家をつくる。当社の姿勢は今もこれからも変わりません」。丸本氏は最後にこう力説する。