(雑誌『経済界』巻頭特集「社長の選び方特集」2024年1月号より)
熊谷正寿 GMOインターネットグループ グループ代表のプロフィール
GMOイズムを前提に経営をする組織に育ててきた
1991年に創業して、30年以上がたちました。私も60歳になりましたが、誰が経営をするかということよりも、組織全体が成長する仕組みを作ることの方が大切だと創業時から考えてきました。そもそも創業者1代では、企業を100年単位で指揮していくことはできない。必ず何代かの経営者が必要になります。そこで組織の成長をその時々の経営者の才能だけに任せるのは、ギャンブルのようなものです。
永続する組織を作る仕組みを、私は宗教の外形的な在り方から学んでいます。宗教は千年単位で続いているものもあり、一般的な企業よりもずっと歴史が長いからです。宗教では、続く後継者が誰であろうとその教典は変わらない。そこでGMOインターネットグループの「教典」として、会社のビジョンや経営に関するマインドなどを明文化し、「GMOイズム」として全パートナー(社員)に浸透させる取り組みを創業時から行っています。
他にも、宗教から取り入れた要素として、「同じ場所に定期的に集う(グループパートナー全員で行うミーティングなど)」、「同じものを身に着ける(名札、社章、Tシャツなど)」、「同じポーズをする(ナンバーワンポーズ)」などがあります。
もちろん宗教が永続する理由の本質には、精神的な面で人を幸せにしているということもあるはずです。しかし、その本質だけで何千年も続いているのではなくて、やはり組織が続くための仕組みがあるんですね。それでその要素を企業経営にも取り入れています。
私も当然年を取りますから、そう遠くない将来後継者を指名する時は必ず来ます。その時はこれまで仕事で残してきた成果を重視して選ぶつもりでいますが、その人にも教典である「GMOイズム」を前提に経営をしてもらわなければ困る。というより、初めからそうなるように組織を育ててきたのです。
完成した仕組みの上で後継者を指名する
経営でも何でもそうですが、初めから失敗するつもりで臨む人はいません。それなのにうまくいかないことがあるのはなぜか?と考えた結果、私は「他の企業と同じやり方をすれば続かない」と結論づけたんです。組織作りにあたっても、どのような組織から学び、どのような組織を目指すのか、何もかも他の企業と違うオリジナルの考え方を採用しました。
創業者から後継者へのバトンタッチがうまくいっていないケースも多々ありますが、創業者があまりに有名だとそういうことも起こりうるのだと思います。起業を志してさまざまな組織や企業を研究していた20代の頃、『ビジョナリー・カンパニー』に「創業者の名前が言えるような企業は長続きしない」と書かれているのを読みました。そこから私は、自分という創業者の名が一般的には知られないような状況を作ってきたんです。とはいえIT業界に入って長いですから、業界の人々には「GMO=熊谷正寿」のように思われている面もあるのかもしれませんが、それを良いことだとは思っていません。
また少なくとも私は、あらかじめ退任の期限をはっきり決めるのは、その後何があるか分からないのでリスキーだと考えます。ひとまずバトンを渡す仕組みを作ることに注力し、実際引き継ぐ時期については走りながら考える。その仕組みが万全に機能するかどうかを見た上でバトンを渡すのが正しいのだと思います。
成長し続けるための仕組み作りが万全にできていれば、誰が経営をするかは大きな問題にはならないはず。私にもいずれ経営を引き継ぐ時が来ますが、永続する組織の仕組みをその時までに作り上げます。(談)