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4カ月後に迫った「物流2024問題」対応急ぐ物流事業者と政府の取り組み

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政府の働き方改革の一環としてトラックドライバーの長時間労働規制が強化される2024年4月1日まであと4カ月。従来ほど長距離、長時間にわたる荷物の運搬ができなくなる。そのため、さまざまな混乱が懸念される「物流2024年問題」は間近に迫っている。文=ロジビズ・オンライン編集長/藤原秀行(雑誌『経済界』2024年1月号より)

2030年には3割の荷物が運べない

 政府の働き方改革の一環としてトラックドライバーの長時間労働規制が2024年4月1日から強化される。トラックドライバーは従来ほど長距離、長時間にわたって荷物を運ぶことができなくなるため、物流現場でさまざまな混乱が生じると懸念される「2024年問題」への危機感が高まっている。物流事業者は輸送形態の見直しなど対応に奔走。荷主企業も協力が求められるが、物流事業者からは「まだまだ荷主の危機感は乏しい」「結局は物流事業者が何とかしてくれると思っている」と懸念する声も多く聞かれる。物流事業者自体、資金力や人員に余裕がない中堅・中小企業の間では、具体的に何をすればいいのか分からず戸惑う向きも多い。

 政府は10月、2024年問題への対策をまとめた「物流革新緊急パッケージ」を策定。長距離輸送の担い手をトラックから鉄道貨物や内航海運に切り替える「モーダルシフト」の普及支援、自動フォークリフトなど物流業務の自動化・省人化支援などを列挙しているが、このタイミングでの対策の取りまとめに、物流事業者や荷主企業などから「遅過ぎる」との批判が出ている。官民挙げての総力戦で対策を急ぎ講じていく必要がある。

 トラックドライバーに関しては24年4月以降、時間外労働時間の上限が年間960時間と定められ、違反した事業者には罰則が科される。野村総合研究所は23年1月、現状のまま推移した場合、30年には全国で約35%の荷物を運べなくなる可能性があるとの試算結果を公表。特に東北や四国は40%台に達し、秋田県では5割近くになるなど深刻な姿が浮き上がった。野村総研は「料金の割り増しや運送頻度の低下が生じる恐れがある」と警告する。

 働き方改革関連法の施行と同じく24年4月には、トラックドライバーの労働時間などを規制する厚生労働大臣の「改善基準告示」も改正される。1年間の拘束時間(始業から終業までの休憩を含めた時間)は現状の3516時間から原則として3300時間、1カ月当たりでは「原則293時間・最大320時間」から「原則284時間・最大310時間」に短縮することなどを定めている。

 物流事業者が守っていない場合は労働基準監督署から是正勧告や指導を受けたり、所管の国土交通省から車両の運行停止などの行政処分を科されたりする可能性がある。そのため、働き方改革関連法と同様に、同告示がトラックドライバーの長時間労働を縛ると見込まれる。

 ヤマト運輸は23年4月、「宅急便」の配達に関して6月以降、一部エリアで受付の「翌日」から「翌々日」に1日延長する方針を発表した。首都圏・新潟県・山形県と中四国地方の一部エリアの間で配送する荷物などが対象。同社は天候不良時にも無理なく配送できるようにすることや、ドライバーの負荷を軽減することを理由に挙げており、その背景には2024年問題で物流業界全体が従来のように長時間労働ができなくなることを念頭に置いている。

 佐川急便と日本郵便は10月、配達先が不在でいったん営業所に持ち帰った佐川の荷物を郵便局で受け取ることができるサービスを開始した。佐川が指定の郵便局に荷物を送った上で、利用者にその旨を通知する。再配達を減らすことで、ドライバーの負荷を軽くしたいとの思惑がある。

 長距離輸送に関し、中継拠点を置いて複数のドライバーが分担して荷物を運ぶ「中継輸送」への取り組みも進む。NIPPON EXPRESSホールディングスは6月、倉庫の空きスペースを解消したい倉庫事業者と荷物を預けたい荷主企業などを引き合わせるサービスを手掛けるスタートアップのsouco(ソウコ)と資本・業務提携した。soucoが持つ倉庫スペースのネットワークを生かし、中継輸送に生かせる案件を確保することを視野に入れている。

 日本梱包運輸倉庫は9月、岩手県胆沢郡金ケ崎町で新たな拠点「(仮称)金ヶ崎倉庫」を建設する計画を発表した。営業開始は25年2月を見込む。首都圏と北東北を結ぶ中継輸送拠点として運営し、配送能力を拡大させたいと考えている。

「ダブル連結トラック」で2倍の輸送量を実現

 物流業界全体で荒波に立ち向かおうとする動きも見られる。傘下に西濃運輸を収めるセイノーホールディングスは現行の中期経営計画の中で、2024年問題を克服していくため「オープン・パブリック・プラットフォーム」の概念を打ち出した。セイノーグループの輸配送網を外部の物流企業にも開放し、長距離の輸送が必要な荷物を同業の物流企業から引き受けるなどして、業務を広く効率化していこうという構想だ。

 その一環として、10月には大阪に、九州向けの長距離輸送の案件を手掛ける専門の営業店をオープンした。九州方面の荷物をこの営業店に集めた上でJR貨物を使い、セイノーグループが九州に構える別の営業拠点へ搬送。そこから九州の各地にトラックで送り届けていく流れで、自社以外の荷物も引き受ける方針。同業の物流企業の負荷も減らしていくことに主眼を置く。

 2024年問題は一般的に、宅配にフォーカスされる傾向があるが、実際には長距離の輸送が難しくなるだけに、製品や原材料の調達といった企業間物流に及ぼす影響が非常に大きいとみられる。セイノーもオープン・パブリック・プラットフォームを運営する上で、長距離輸送をいかに維持していくかを注視している。セイノーの田口義隆社長は「競争を繰り返していたら無駄はなくならない。物流業界や関係者が企業や業界の垣根を越えて共生・共創することが必要」と語る。

 物流業界などの関心を集めているのが日野自動車の子会社で長距離輸送を手掛けるNEXT Logistics Japan(NLJ)だ。人手不足が深刻化する長距離輸送を、先進技術を活用して効率化し、継続させられるようにすることを目指している。1台のトレーラーで通常の2倍の荷物を運ぶことが可能な「ダブル連結トラック」を毎日、首都圏と関西圏の拠点間で運行し、飲料や紙製品、加工食品といったさまざまな商品を詰め合わせて運んでいる。

 NLJには日清食品ホールディングスやアサヒグループジャパン、江崎グリコ、ブリヂストン、住友ゴム工業、三菱UFJ銀行など多彩な顔触れも出資。物流企業も鴻池運輸、キユーソー流通システム、澁澤倉庫、ニチレイロジグループ本社などが参加しており、荷主と物流事業者の横断的な活動になっている。

 19年12月の事業開始以来、NLJが運んだ荷物は10万トンを超えた。独自に開発した、量子コンピューターを使って荷物の最適な積み合わせを自動計算するシステム「NeLOSS(ネロス)」を採用、トラックの荷台の積載率を業界全体平均の約4割を上回る6割まで高めることに成功するなど成果を上げている。

 NLJの梅村幸生社長CEOは「今後も物流の無駄を見える化し、生産性を徹底的に上げていく。輸送効率を最大限高める」と説明。トラックドライバー1人でより多くの荷物を運ぶことができる姿を実現し、賃金アップや待遇改善につなげ、定着率を高めたりドライバーを目指す若い人を増やしたりすることにつなげていきたいと意気込む。

鉄道やフェリーが代替する「モーダルシフト」に期待

 「『物流2024年問題』という変化を力に変え、わが国の物流の革新に向けて、政府一丸となって、精力的に取り組んでいただくようお願いする」。岸田文雄首相は10月、物流革新緊急パッケージを取りまとめた関係閣僚会議の席上、参加者に対して各種政策を迅速かつ着実に進めるよう指示した。

 パッケージは30年にトラックが大幅に不足する恐れがあるとの各種予想を踏まえ、取り組むべき領域として「物流の効率化」「荷主・消費者の行動変容」「商慣行の見直し」を掲げている。その具体策として、トラックドライバーの負担軽減に資する自動化機器やシステムの導入を支援したり、宅配の再配達削減のためコンビニ店頭での荷物受け取りを選択した消費者へポイントを付与したりといった政策を列挙している。

 この中で目立つのが、モーダルシフトへの期待の大きさだ。パッケージは今後10年程度で鉄道と内航海運の輸送量を現状の2倍にまで拡充する方針を表明。併せて、鉄道輸送に使うコンテナを大型化し、一度により多くの荷物を運べるようにすることなどを盛り込んだ。政府は長距離輸送を鉄道やフェリーに任せることで、トラックドライバーの長時間労働を減らせると見込む。

 また、荷主に対する規制も強化する。一定程度以上の事業規模がある荷主企業に対し、物流業務効率化の計画作成や物流業務の効率化を統括する「物流経営責任者」の選任を義務付ける新法を24年の通常国会に提出する。物流業界では以前より、物流センターで長時間、トラックドライバーが荷積み・荷降ろしのために待たされることが問題視されており、入出荷の時間を短縮するなどして、長時間労働規制を強化しても物流に支障をきたさないよう促すことを意図している。

 さらに、国交省が任命した、荷主による物流事業者への行為をチェックする「トラックGメン」による監視を強化し、不当な運賃値下げの強要などを抑制することも示している。

 ただ、鉄道は台風や大雨といった災害に弱く、すぐ運休に追い込まれていることなどから、政府の思惑とは裏腹に近年、貨物輸送量は横ばい傾向が続いている。フェリーなど内航海運も船員の高齢化が進み、トラック以上に事業を継続できるかどうか不安視されているだけに、狙い通り輸送量を2倍に増やせるかは不安が残る。

 2024年問題で人手不足解消へ低い運賃や賃金の改善についても言及はあったが、政策パッケージの中では具体的にどの程度まで改善を目指すのかは示されなかった。トラックの自動運転など自動化・省人化で人手不足をカバーするには時間がかかるだけに、人をつなぎとめるために運賃の適正化に官民がより注力していくことが不可欠だ。

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