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特損1200億円を出してまで火力発電所を断念した関西電力

関西電力が昨年12月19日、和歌山市で計画していた火力発電所の建設を中止すると発表した。社会が二酸化炭素(CO2)など温室効果ガスを出さない脱炭素を目指す方向へシフトし、火力発電への風当たりが強くなっていることが背景にある。文=ジャーナリスト/小田切 隆(雑誌『経済界』2024年3月号より)

脱炭素化の進行で火力発電所への厳しい目

 関電が建設をとりやめたのは和歌山火力発電所。液化天然ガスを使用し、出力は370万キロワットと原発3~4基分に相当する出力で、関電の火力発電所の中では最大規模になる見込みだった。

 計画はもともと1991年、和歌山市と住友金属工業(現日本製鉄)が火力発電所を誘致する構想を発表したことに端を発する。

 97年に政府の審議会が承認。98年に関電が沿岸部の土地を買い、2000年に工事をスタートした。

 しかし、電力需要の低迷を受け04年に工事を中断する。11年の東日本大震災と東京電力福島第1原発の事故後に国内の全原発が止まったため、一時、工事に再び着手する機運が高まったものの、最終的に再開することはなく、結果としておよそ20年間、計画はたなざらしのままだった。そして、今回の決断を下すにいたった。

 建設が予定されていた場所の一部には、脱炭素、半導体などの関連の企業を関電、県、市が協力して誘致していく方針だ。

 なお和歌山火力発電所の建設計画中止にともない、関電は24年3月期連結決算で約1230億円の特別損失が出る。純利益の予想については、従来の4050億円から2900億円へと大きく下方修正した。

 関電はこれまにでも、火力発電所の建設中止や廃止を相次いで進めてきた。和歌山では05年に御坊第2火力発電所(御坊市)の建設を取りやめ、19年には、海南火力発電所(海南市)を廃止。23年には、兵庫県相生市の火力発電所2基と、京都府宮津市の火力発電設備を廃止している。

 さらに和歌山火力発電所の建設中止にあわせ、出力規模が小さい関西国際空港エネルギーセンター(大阪府田尻町)1、2号機と、姫路第1火力発電所(兵庫県姫路市)のガスタービン2基を、それぞれ3月31日に廃止することを発表している。

 関電が「脱火力」を進める背景には、まず、社会の脱炭素化が進み、火力発電所に対する目が厳しくなっていることがある。和歌山火力発電所で使うことを考えていたLNGは、石炭を使うよりも少ないとはいえ、発電の際、CO2を出す。

 政府が21年10月に3年ぶりに改定したエネルギー基本計画では、30年度の温室効果ガス排出削減目標を実現させるため、「できる限り電源構成に占める火力発電比率を引き下げていくことが基本となる」と明記、同時に「火力発電の脱炭素化に向けた環境対応に取り組みつつ、環境対応下での火力の競争力の強化・経済効率性の向上といった課題に取り組んでいく」とした。

 そして、30年度に電源に占める火力の割合は、それまでの計画の56%から41%に減らした。

 その内訳をみると、LNG火力は37%から27%に、石炭火力は32%から26%に、石油などの火力は7%から3%に減らすとしている。

 また、関電自身も「ゼロカーボンビジョン2050」を掲げ、50年のCO2排出ゼロを目指している。今回の和歌山火力発電所の建設中止は、こうした流れに沿ったものであるといえる。

高止まりする燃料費が建設中止を後押し

 さらに新型コロナウイルス禍からの世界経済の回復やロシアのウクライナ侵攻で原油価格が高騰していることも大きい。

 LNG価格は原油価格に連動しており、原油の高騰によってLNGも高騰している。

 財務省の貿易統計速報によると、22年度のLNGの輸入額は21年度比77・6%増の8兆8923億円で、大きく増えた。輸入数量は1・3%減少だった。さらには、石炭の輸入額は2・4倍の8兆5805億円。石油製品や液化石油ガスなども含めた燃料全体では、輸入額は77・0%増の35兆1924億円まで膨らんだ。

 足元では燃料価格は落ち着きつつあるものの、依然として高い水準だ。関電の中でも、LNGなどの燃料を使った火力発電に頼る危なさが強く意識されるようになったといえるだろう。

 しかも関電は、ほかの電力会社よりも原発の再稼働が進んでおり、火力に依存しなくてよくなっている。

 関電は昨年9月15日、福井県高浜町にある高浜原発2号機の原子炉を再起動させた。これで関電は、動かせる原発7基すべてを再稼働することになった。具体的に再稼働を果たしたのは、いずれも福井県にある高浜1~4号機、大飯3、4号機、美浜3号機だ。

 高浜2号機は、東電福島第1原発事故後の11年11月末から定期検査に入っており、およそ12年間、稼働を止めていた。

 高浜2号機は再稼働した時点で、運転を始めてから47年を経過。廃炉になっていない国内の原発の中では、昨年7月に再稼働した高浜原発1号機に次ぐ古さだ。原則40年以内に制限された運転期間を超えて再稼働するのは、全国で3例目となる。

 高浜2号機に関しては、21年に福井県と高浜町が再稼働に同意していたものの、原子力規制委員会に火災防護対策が不十分であると指摘を受けて追加工事が必要になり、再稼働を延期していた。

 関電では、原発を動かしていくための〝周辺条件〟の整備も進みつつある。その一つが、原発の使用済み核燃料を一時的にためておく「中間貯蔵施設」建設だ。

 関電と中国電力が中間貯蔵施設の共同開発を目指している山口県上関町では23年8月、町議会が開いた臨時議会で、西哲夫町長が建設に向けた調査を容認する考えを示した。建設まで進めば、青森県むつ市に続いて2例目になる。

 昨年10月には、福井県が関電の原発から出る使用済み核燃料について、フランスに搬出するとした同社の計画を正式に容認した。関電はそれまで、年内に県外の搬出場所を決められなければ、運転を始めてから40年を超えた原発3基(美浜3、高浜1、2号機)を停止するとしていた。県がフランスへの搬出を受け入れたことで、40年超原発の稼働停止を避けることができるようになった。

 原子力は火力と違い、エネルギー価格の変動の影響を受けにくいため、低コストでの発電が可能となる。このため、電力会社の経営状況を良くすることができるようになる。さらには、「電気料金の値下げ」によって、物価高騰に苦しむ国民の暮らしを楽にすることができる。さらには、発電するときCO2を排出しないため、社会が脱炭素を目指す動きにもそぐうことになる。

 先ほど述べた最新のエネルギー基本計画でも、原子力を次のように位置付ける。

 「燃料投入量に対するエネルギー出力が圧倒的に大きく、数年にわたって国内保有燃料だけで生産が維持できる低炭素の準国産エネルギー源として、優れた安定供給性と効率性を有しており、運転コストが低廉で変動も少なく、運転時には温室効果ガスの排出もないことから、安全性の確保を大前提に、長期的なエネルギー需給構造の安定性に寄与する重要なベースロード電源である」

 30年度の電源に占める割合を20~22%とし、それまでの計画で掲げてきた水準を維持した。

 関電も火力発電所の建設を取りやめたり廃止したりすると、当然、原発の比率が高まることになる。関電による和歌山火力発電所の建設中止は、原発を重要な基幹電源と位置づける政府の方針に沿ったものでもある。

関電以外の電力会社は火力頼みがまだ続く

 原発を活用していくのは世界的な流れだ。

 23年12月2日には、アラブ首長国連邦(UAE)で開催されていた国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)首脳級会合に合わせ、日本や米国、英国、カナダ、韓国といった約20の有志国が、50年までに世界の原子力発電能力を20年比で3倍に拡大するとした宣言を取りまとめた。

 宣言は気温の上昇を1・5℃におさえる目標を達成するためには原子力が重要な役割を果たすとし、世界の原発能力を拡大していくとした。拡大に向け、各国が資金投入などで協力していく方針だ。 

 関電が和歌山火力発電所の建設中止を発表したことは、改めて「脱火力」を進めることを力強く宣言したことに等しい。こうした姿勢は、ほかの電力会社の刺激となり、火力廃止の動きが広がっていくきっかけになる可能性がある。

 実際、「火力離れ」の動きは関電以外でも出始めている。

 東京電力ホールディングス(HD)と中部電力が折半出資する発電会社JERAは22年3月、原油を使う大井火力発電所(東京都品川区)1~3号機、LNGが燃料の横浜火力発電所(横浜市)5~6号機、知多火力発電所(愛知県知多市)1~4号機の合計9基を廃止すると発表。23年10月には、福島県広野町の広野火力発電所1、3、4号機を廃止した。

 いずれも稼働を始めてから年数がたっており、老朽化して採算が合わないことなどが廃止の理由だ。

 だが本格的に「脱・火力」の動きが広がるためには、まずは全国的に原発再稼働が進まなければならない。

 今の時点で原発が再稼働しているのは、関電のほか、九州電力、四国電力と、西日本ばかり。東電HDをはじめとして、東日本では1基も動いていない「西高東低」の状況が続いている。

 原子力規制委員会は12月、東電柏崎刈羽原発(新潟県)について、「テロ対策が不十分」として同委が出していた運転禁止命令を2年8カ月ぶりに解除した。再稼働へ「一歩前進」といえるが、まだ地域住民の同意が必要であり、再稼働が100%「確実」というわけではない。

 全国的に「脱・火力」の動きを進めるには、西日本に続き、東日本の原発再稼働を進める必要があるが、まだまだハードルはいくつもあるのが実情だといえる。