北海道では2024年以降、国の経済政策の中でも重視されるプロジェクトが数々と動き出す。北海道経済産業局の岩永正嗣局長に、重要プロジェクトを中心に、今後の経済産業振興で注目すべき施策を聞いた。(雑誌『経済界』「攻勢に転じる北海道特集」2024年4月号より)
岩永正嗣・経済産業省 北海道経済産業局長のプロフィール
政府がイニシアチブを取って産業振興をサポート
北海道経済産業局には、大きく分けて2つの役割があります。1つ目は、政府機関として、国の重要事業を北海道で進めていくこと。2つ目は、地域の実情に合った独自の経済政策を、イニシアチブを取って進めていくことです。
本省では日本全体を見て産業政策を推進していますが、北海道に赴任してみて、全国とは産業構造が異なることを改めて実感しました。基幹産業は食と観光であり、特に農業や水産業の割合が高く、工業も3分の1を食品加工業が占めています。経済産業省の組織上で「食・観光産業課」があるのは北海道のみです。
また、生活してみて実感したのが、札幌市の環境の良さです。自然が多く、四季の変化の中で過ごしやすい気候が保たれています。約200万人の都市でありながら、通勤の混雑は少なく、首都圏に比べれば移動距離も短い。北海道は広域分散型でそこから生まれる社会課題もありますが、三大都市圏が過密になる中、広さと豊かな自然は今後、発展していく上での大きなメリットとなり得ると思います。
人口減少問題は日本全体が抱える大きな課題ですが、北海道はより深刻な地域の一つです。人が生きていく上では仕事がなくてはならず、雇用の少ない地方から首都圏への人口流出は産業政策としても大きな課題であると私たちは捉えています。
わが国では過去においては特定産業を保護育成する政策を、構造改革以降は市場機能を重視した新自由主義的な政策を取ってきました。しかし民間投資は思うように進まず、実質賃金も上がってきませんでした。日本のような産業政策に否定的だった欧米でも政府の投資は積極的になってきています。そうしたことから、政府は新たに政府自身が踏み込んで社会課題に対応していく「ミッション志向の産業政策」という新機軸を2021年に打ち出しました。
半導体産業の成長に欠かせないデジタル人材育成も急務
半導体やデジタル関連産業の育成強化は、国の経済安全保障の観点からも重要なものであり、北海道でのラピダスの半導体工場やソフトバンクなど各社データセンターの設立は、国の戦略とも合致したプロジェクトです。
また、洋上風力発電をはじめとする再生可能エネルギー関連産業の育成は、脱炭素という大きな課題への対応という意味はもちろん、地域の発展にとっても重要であり、着実に進める必要があります。
特に次世代半導体拠点のラピダスには、政府からも2年間で3300億円の支援を決定しており、今後もさまざまな面で事業を支えていきます。北海道には半導体産業のサプライチェーンがないので、人材の確保や関連資材の供給など、北海道や周辺自治体のあらゆる協力が必要となります。当局では特に人材育成を重視し、北海道半導体人材育成等推進協議会を23年6月に立ち上げました。半導体関連企業や経済団体、教育機関、自治体など53の機関が参加し、道内半導体企業への就職者を30年度までに現在の3倍規模にすることを目指し、ネットワーク強化に励んでいきます。
また、ラピダスが作る半導体のユースケースも増やしていくことが必要です。さまざまなところでデジタルツールの導入、活用を進めていかなければなりません。経済産業省では文部科学省と共に、デジタル人材育成推進協議会を設置しており、その初めての地方版を北海道で立ち上げました。
学校だけではできない教育や、実務家の派遣などを進めていく予定です。ラピダスの経済効果を、半導体製造だけでなく消費地、ユーザーとしても享受していけるよう、DXに積極的に取り組んでいきたいと思います。
食の輸出を促進し、北海道発スタートアップの支援を
人口減少への対応、地域の経済活性化は、包摂的成長とも呼んでいますが、産業政策の大きな課題です。北海道においては、2つの方向があります。1つは、生産性を向上させることです。例えば、基幹産業である一次産業や食料品製造業において、さらに生産性を高めていくことが必要です。
食の一大産地である北海道では、食関連産業が産地や地域経済に与える波及効果は大きく、食の輸出拡大による新市場の開拓は、地域の基盤強化につながります。北海道経済産業局は北海道農政事務所、札幌国税局、JETRO北海道、中小機構北海道本部と協働して「Do★食輸出Platform」を設立し、生産者や事業者に、積極的に輸出拡大に取り組んでもらうための支援を行っています。
生産者や事業者にとっては、生産性向上や製造能力の増強、販路の開拓、海外のニーズや規制への対応、輸出実務を担う人材の育成など、課題が多い中、本プラットホームを通じて新たな取り組みによる輸出へのチャレンジの促進やネットワークづくりなどをサポートします。
とりわけ生産性向上という意味では、「Do★食輸出Platform」のサポーター企業であるトヨタ自動車北海道と連携し、トヨタの生産管理手法である「カイゼン」を農業現場に応用した取り組みの促進や、ものづくり補助金等の支援策を通じて、一次産業分野から食品加工分野までのスマート化や生産性向上を多面的に支援していきます。
もう1つの柱が、新規事業への挑戦や起業を支援する取り組みです。スタートアップをいかに北海道で増やすかということが地域経済活性化の鍵となるため、札幌市、さっぽろ産業振興財団と共同で「J-Startup HOKKAIDO」として、有力なスタートアップを選定し、支援しています。
また、道内外の大企業や自治体から課題を聞き、スタートアップとマッチングする「オープンイノベーションチャレンジピッチ北海道」等を実施しています。
既存企業の事業再構築も重要です。特に若い経営者等の挑戦を後押しするため「アトツギベンチャー支援」と称して、後継者たちのネットワークづくりを支援し、北海道が未来に向かって発展していくことを応援していきます。