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平均年収9年連続日本一を支える独自のインセンティブ 中村 悟 M&Aキャピタルパートナーズ

中村悟 M&Aキャピタルパートナーズ

M&A仲介会社はどこも高い給料で知られているが、中でもM&Aキャピタルパートナーズ(MACP)は、群を抜いて高いことで知られ、9年連続年収日本一に輝いた。M&A市場は拡大が続くとはいえ、なぜこれほどの高い給料を払い続けることができるのか。中村悟社長に聞いた。聞き手=関 慎夫 Photo=横溝 敦(雑誌『経済界』巻頭特集「『安いニッポン』さようなら~日本の給料を考える~」2024年4月号より)

中村 悟 M&Aキャピタルパートナーズ社長のプロフィール

中村悟 M&Aキャピタルパートナーズ
中村 悟 M&Aキャピタルパートナーズ社長
なかむら・さとる 1973年福岡県生まれ。95年工学院大学工学部を卒業後、積水ハウス入社、設計業務を経て、資産家を対象とした相続対策、資産運用の営業業務に約8年従事。2005年中堅・中小企業の後継者問題の解決と発展的事業承継実現のためM&Aキャピタルパートナーズを設立。同社は13年11月に東証マザーズに上場、14年東証一部に指定替えし、現在は東証プライム市場。

ゴールドマンサックスが創業以来の目指す姿

―― MACPの2022年の平均給料は3161万円と日本一。23年は減って2478万円ですがやはりトップ。平均年収日本一は9年連続です。どういう考えに基づき高い給料を払っているのですか。

中村 私は積水ハウスの営業マンとして、顧客の相続対策や資産運用の相談に乗っていく中でM&Aに出会い、MACPを立ち上げました。資本金は300万円、社員も私一人でしたが、金融業界に身を置くなら、世界トップの投資銀行であるゴールドマン・サックス(GS)を目指そうと考えました。

 GSは1869年に設立され、最初は小売業の手形割引などをやっていました。金融業界の中でもランクは高くなかった。ところがワインバーグ親子が半世紀以上にわたり経営するうちにどんどん力をつけていき、1956年にフォードのIPOの主要取引業務をしたことで、一躍名を上げます。

 ワインバーグ親子の行ったことは、GSのブランド力を徹底して高めること。ブランドを高めていい人材を獲得し、いい仕事をしてもらったら、きちんとそれを還元する。この繰り返しです。その結果、GS社員の給料は、当時の金融業界の中でも極めて高くなった。今でもそれは変わらず、リーマンショック前の平均年収は約7千万円でした。

 私もこんな会社をつくろうと思いました。そのためには給料を高くして優秀な社員を採用しなければなりません。ですから社員の年収が上がることがうれしくて仕方ない。年収日本一を目指したわけではありませんが、ブランドを高める努力を続けてきたら、こうなっていました。

―― 創業間もない頃は、2度の倒産の危機を迎えたそうですが、立て直しで一番手っ取り早いのは、給料を下げることです。

中村 最初の頃は私の給料はインセンティブだけ。それでも社員には給料を払い続けていました。そうしなければいい人に来てもらえませんから。それにピンチの時に人件費を多少下げてもそんなに意味はありません。今のままなら何カ月後に資金ショートするという場合、給料を1割下げたところで半月寿命が延びるだけで大して変わらない。危機を乗り切るには、コストを抑えるより売り上げを増やすしかない。だから人件費には手をつけませんでした。

―― MACPの給与体系はどうなっているのですか。

中村 給与とインセンティブからなりますが、インセンティブ部分が非常に大きく、売り上げの10%を、案件をまとめた社員やチームに支給します。さらには半年ごとに営業利益の25%を社員に分配します。その合計が給料の総額になります。

 この給与体系は、創業時からほとんど変わりません。むしろ料率を昔よりも引き上げています。MACPと同じように、インセンティブで社員に報いる会社はたくさんありますが、よくあるのが、ブランドが上がり、会社が大きくなってくると、ルールを変えるケースです。料率を引き下げたり、高いノルマを設定したり。1年前と同じ売り上げでも、むしろ年収が下がってしまう。これでは優秀な社員は確保できません。

 われわれは違います。高いレベルの仕事をしてくれた人にはきちんと報いる。それによって圧倒的なブランドを作っていく。ライオン社長のテレビCMを流しているのもブランド力を高めるためです。それが次のビジネスや将来価値につながります。

大型案件が多いのもブランド力があってこそ

―― 日本のM&A市場は膨らみ続けています。その一因は後継者のいない企業が増えていることです。しかもこの問題は今後さらに深刻化します。その意味で、ブランドを高めなくても、仕事はいくらでもあるのではありませんか。

中村 それは違います。MACPはM&A仲介業界の中で、最もエクイティ(株主資本)を移動させている「成約案件の譲渡株価総額」で、業界ナンバーワンを獲得しました。

 これはまさにお客さまに信頼され、ブランドが高まった結果だと思います。「ライオン社長の会社」ということが浸透してきたことに加え、大型案件に強いMACPだということを、多くの人に知ってもらえるようになりました。それがさらに次の大型案件へと結びついていくのではないかと思っています。

―― 昨年は事業承継に伴うM&Aとしては過去最大規模のM&Aを担当されました。前年比で売上高も伸びています。それなのに社員の年収が減ったのはなぜですか。

中村 昨年の案件は、私を含め役員が関わっています。役員もインセンティブをもらいますが、役員の給料は社員の平均年収には反映されません。それが下がった理由のひとつです。

 ですが、社員の平均年収が下がったことはやはりハッピーではありません。そこで今年は、営業管理の体制の見直しなど社員の生産性をさらに上げにいく取り組みを推進しています。そうすれば2022年以上の平均年収も可能と考えています。

―― そのための課題は何でしょう。

中村 やはり人材です。優秀な人材を確保する。MACPには現在200人弱のコンサルタントがいますが、ここから会社の成長に合わせた増員を計画しています。ですから採用に力を入れていますし、二次面接には私もすべて参加します。さらに三次面接では一緒に会食をして、さらに人間性を見ることにしています。そうやって優秀な人を見極める。これを今後もひたすら続けていきたいと思います。

 そうやって採用しても、育てた人材に簡単に辞められては困ります。ですので、根本の給与体系は変えず、長い間働いてくれる社員に報いる改善は常に行っています。実際、そういった取り組みによって、離職率は下がり、業界では最も低い水準と言われています。優秀な人材に長期にわたって頑張ってもらう。それが生産性の向上につながり、ひいては業界の圧倒的ナンバーワンブランドにつながっていくと信じています。