経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

全国で「一狩りいこうぜ!」カプコンが取り組む地方創生

カプコン専務 辻本良三

娯楽のためなら人は動く。地域がエンタメコンテンツとコラボし、観光客を増やそうとする試みは、近年の街おこしでは珍しくない。これまでにも全国の都市とコラボしてきたカプコンの、新たな大型プロジェクトを取材した。(雑誌『経済界』2024年7月号巻頭特集「IPが日本の生きる道」より)

IPが最大化する地域の魅力。ゲームの世界観を体感させる

カプコン 豊橋市
商店街「ときわ通り」をモンハンがジャック

 「聖地巡礼」という言葉が、映画やドラマの舞台となった場所、ゆかりのある場所を訪れることを指すようになったのは、2000年頃のことだと言われる。ブームは細く長く続いたが、16年に映画『君の名は。』が公開され、ゆかりの地を巡る人々が増えたことで再燃。地方自治体や地元企業が、街おこしのためにコンテンツの「聖地」を名乗り、集客を試みる動きも盛んになった。

 コンテンツホルダー側も、観光地と組むことで、地域住民や観光客にコンテンツを知ってもらえる機会が増える。そうした地域との協業に以前から積極的に取り組んできた企業のひとつがカプコンだ。同社は地方創生活動を重要な取り組みのひとつとし、IPを生かして全国各地で観光誘致の支援や地域活性化事業を行っている。

 例えば戦国時代を舞台にしたアクションゲーム「戦国BASARA」は、これまで、キャラクターとして登場する戦国武将ゆかりの地とコラボしたイベントを行ってきた。真田幸村の出身地として知られる長野県上田市では、商工会議所と連携し、コラボ商品の販売や、スタンプラリーなどを実施。市内6カ所に設置したカプセルトイは、約1・7万個の売り上げを記録したという。

 一方、ファンタジーの世界が舞台となる作品も、コラボした地域に溶け込み、新たな魅力を引き出す装置として働いてきた。

 今年、カプコンIPを生かした新たな大型プロジェクトがスタート。JR東海は、2021年から「推し旅」と称するキャンペーンを展開。コロナ禍、外出や旅行の機会が減ってしまった時期、アニメやゲーム、アイドルなどのコンテンツホルダーと、鉄道・新幹線沿線の地域と協力し、推し活を通して旅をより楽しんでもらうことを狙った取り組みだ。

カプコン 豊橋市
「アイルー」のオブジェ除幕式にて。左からカプコン専務・辻本良三氏、 豊橋市長・浅井由崇氏、後藤真希さん、JR東海・榊原篤氏

 2月1日からはカプコンと、東海道新幹線や東海地方各所との大型コラボキャンペーン「CAPCOM TRIP TOKAI」を開始。中でも4月24日からは、カプコン40周年とモンハン20周年を記念し、愛知県豊橋市と協力したイベント「豊橋へ 一狩りいこうぜ!」がスタートした。豊橋駅には東海道新幹線ひかり号が停車するため、東京駅、新大阪駅からそれぞれ約1時間30分でアクセスできる。

 イベント開始前日の23日には、豊橋市でオープニングセレモニーが行われた。イベント主催者であるJR東海・営業本部長の榊原篤氏のほか、豊橋市長の浅井由崇氏、カプコン専務でモンハンシリーズのプロデューサーでもある辻本良三氏が登壇し、それぞれにイベント開始を喜んだ。また、セレモニー後半には、モンハンの大ファンであるというタレントの後藤真希さんが登場。イベント期間中JR豊橋駅に展示される、モンハンのキャラクター「アイルー」のオブジェ除幕式を執り行った。

 期間中は、豊橋市内の施設や商店街をモンハンがジャック。モンハンデザインのラッピング路面電車も運行する。また、東海道新幹線への乗車中にだけ挑戦できるクイズや、豊橋市内のデジタルスタンプラリーに挑戦すれば、貯めたポイントに応じて特典をゲットできる企画もある。豊橋市の地元企業も特別サポーターとして参画し、オリジナルコラボ商品の販売を行うことで、食や文化など、豊橋市の魅力を発信する。

リアルイベントとしても積極展開。カプコンのIP戦略

カプコン専務 辻本良三
辻本良三 カプコン取締役専務執行役員/「モンスターハンター」プロデューサー

 普段大規模なイベントは東京や大阪で行われることが多い中、今回は名古屋をはじめ、東海地方の自治体や企業とコラボして大規模なイベントができていることに、喜んでくださる声が大変多いです。いよいよモンハンと豊橋市のコラボレーションがスタートしました。イベントを通して地方創生にも貢献できればうれしいですね。

 僕自身、これまであまり豊橋市に来たことはなかったんです。でもこうして訪れてみて、昔ながらの風景と現代的で過ごしやすい環境が融合された面白い街だなと感じました。いちクリエーターとして、子どもたちや若い人に日本のいろいろな部分を見て創造力を養ってほしいという思いもあるので、豊橋市に人々が訪れるきっかけを、モンハンを通して作れたら光栄です。

 また、カプコンは以前から、人気IPをさまざまなゲームプラットフォームだけでなく、映画や舞台、リアルのイベントなど異なる媒体としても積極的に展開する「ワンコンテンツ・マルチユース戦略」に力を入れています。モンハンはもちろんゲーム、つまりデジタルのコンテンツですが、僕はリアルの体験もとても重要視しています。それでモンハンは、これまでにもリアルのイベントを多く行ってきました。

 今年20周年を迎えて正直、「昔はプレーしていたけど最近やっていない」という方も出てきています。そういう方がリアルのイベントを通じて戻ってきてくれたりしたらうれしいですね。例えばお子さんがイベントに行きたいと言ってくれれば、昔プレーしていた親御さんが一緒に参加し、ゲームの面白さを思い出してくれるかもしれない。もちろん親御さんがモンハンを知らなかった場合でも、イベントを通じて新たなプレーヤーになってくれるかもしれません。モンハンは来年、新タイトル「モンスターハンターワイルズ」の発売を予定しているので、モンハンそのものの知名度も上がってほしいという期待も込めています。

 イベント自体にも、その中でお配りするグッズなどにも、当初の想定以上にこだわりを詰めた結果になっているので、ぜひ多くの方に足を運んでほしいです。