経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

韓国コンテンツ産業に学ぶ、IP価値の最大化

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韓流ドラマ、KーPOPなど、エンタメ分野で世界的な立ち位置を上げ続ける韓国。初めからグローバルに評価を得ることを目標にコンテンツ製作に取り組んでいる点が特徴だ。日本にも拠点を置く大手エンタメ企業の事例をもとに、コンテンツ産業の面で日本が学べる点を探った。(雑誌『経済界』2024年7月号巻頭特集「IPが日本の生きる道」より)

映像コンテンツが躍進。韓国エンタメビジネスの今

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昨年実施の「THE CITY」にて、 大阪・戎橋筋近くの街頭ビジョンの様子

 コンテンツ産業といえば、国のバックアップを受け、世界に注目される作品を発信し続けているのが韓国だ。1月、韓国・文化体育観光部(日本の文化庁、スポーツ庁、観光庁にあたる国家行政機関)は、2022年のコンテンツ産業の輸出額は前年比6・3%増、過去最高額となる132億4千万ドル(約1兆9200億円)だったと発表。ちなみに同期間の二次電池輸出額は99億9千万ドルであることを考えると、コンテンツ産業がいかに盛んか分かる。また、同文化体育観光部は、今年度の予算として約1兆23億円を確保し、さらなる成長を目指していく意思を述べている。

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愛知県「矢場とん」とのコラボの様子

 近年、グローバル動画配信サービスが発展したことから、映像コンテンツの生産により注力し始めた韓国。21年9月配信のNetflixシリーズ『イカゲーム』は、配信開始から4週間で、世界1億4200万世帯で視聴された。同じくNetflixシリーズの『今、私たちの学校は…』、『地獄が呼んでいる』のように、ウェブトゥーン(縦スクロール型デジタル漫画)を映像化した作品も人気が高い。Netflix側も昨年、韓国のドラマ・映画製作に4年間で25億ドルを投資すると発表した。これまでの好成績を踏まえ、さらなる躍進に期待してのことだろう。

 漫画や書籍などストーリーを持つIPは、ドラマ化、映画化のように別の媒体への展開がされやすい。一方、アイドルなど生身の人そのものがコンテンツとして魅力を持つ分野でも、本人の稼働をなるべく抑えつつマネタイズが叶うIPビジネスに各社が挑戦している。K-POPの分野では、アーティストのキャラクター化や、本人の出演のないイベント、ゲームや漫画とのコラボなどに力を注ぐ企業が多い。その1社の取り組みを実際に聞いてみた。

日韓米でノウハウ共有。HYBE JAPANの事例

※2024年4月25日解禁※USJ_HYBE-Event
今夏、USJとのコラボでナイトイベントが実現する

 BTSをはじめ,多くの人気K-POPグループの所属事務所を傘下に置く、韓国大手エンタメ企業HYBE。韓国、日本、米国に本社を置き、それぞれの国内のビジネスは、各社が権限を持って行う形をとっている。事業にあたって、三国間でノウハウの共有を行えることが強みだ。

 本稿では、日本本社・HYBE JAPANの事例を見てみたい。社内でIP事業を統括するのは、HYBE JAPAN IPX本部(以下IPX)。ここではアーティスト関連商品の企画・制作・販売のほか、パートナー企業とコラボし、アーティストIPを活用したイベントの企画なども行っている。

 IPX本部長の岸貴之氏によると、22年から男性グループSEVENTEENの来日公演に合わせて開催しているイベント「THE CITY」は、米・ラスベガス、韓国・プサンでの成功にならって日本にも導入したものだ。これは、公演に訪れるファンに、会場付近の地域や施設を利用して楽しんでほしいという発想のもと生まれた取り組み。HYBE JAPANとしても、街中でアーティストの写真や音楽に触れてもらうことで、知名度を上げられるメリットもある。

 昨年のTHE CITYでは、公演会場付近の飲食店や商業施設とコラボすることで、フォトスポットの設置やスタンプラリーを行い、埼玉・東京・愛知・大阪・福岡の5都市で、延べ58万6千人がプログラムを体験した。今年も5月のSEVENTEEN来日公演に合わせてTHE CITYの開催が予定されており、初の地方自治体とのコラボとして、横浜市との連携協定が決まっている。横浜市役所での特別展、横浜港での花火打ち上げなど、みなとみらいエリアを中心としたプログラムが盛り込まれる予定だ。

 また、この夏の新たなイベントとして、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(以下USJ)とのコラボも発表されている。HYBE傘下のレーベルに所属するアーティスト8組の楽曲を、期間限定のナイトイベントで楽しめる企画だ。岸氏いわく、HYBE、HYBE JAPANでは、CDや配信サービスで音楽を聴いたり、コンサートを見たりすること以外でも、音楽やアーティストのファンとしての体験の拡張を模索している。その一環として、音楽やショーを楽しめるテーマパークとのコラボには、韓国本社の取り組みでも先例があるという。そんな中で、USJ側もナイト・エンターテインメントの拡充を望んでいたため、今回のコラボ実現に至った。

 その他、IPXではキャラクター開発およびキャラクターライセンス事業も行う。アーティストのキャラクターの人気が高いことは、日本市場で顕著に見られる傾向だという。例えば男性グループENHYPENは、メンバーの姿をデフォルメしたキャラクターを作成。グッズが当たる「一番くじ」を販売し好評を博した。このようにアーティスト肖像やキャラクターを活用し、くじやクレーンゲーム、カプセルトイ、プリクラで展開するのは日本独自の取り組みだという。こうした日本での成功例も韓国や米国と共有し合っている。

 岸氏は「日本・韓国およびグローバルで生まれるさまざまなアイデアをヒントに、工夫と努力を重ねることで、IPビジネスにおけるイノベーションを起こしていきたい」と述べた。

 日本と韓国では、同じコンテンツ産業でも得意分野が異なる。しかし、グローバルプラットフォームに照準を当て、世界に目を向けてもらえる場での発信に意欲的に取り組んでいる点など、日本が学べるところも多い。国外の企業などとコラボして、もしくは国外の消費者に向けてコンテンツを発信していくにあたり、参考にすべき例ではないだろうか。