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「平和、平和と口で言うだけではいけません」 山口那津男 公明党代表

山口那津男 公明党代表

自民党の裏金問題への対応が国民世論に火をつけ、内閣支持率は低迷。各種選挙では既存政治への不信感がはっきり表れている。連立政権を組む公明党は一層重責を背負い裏金問題では自民党により厳しい法改正を迫り、経済対策では物価高に対する助成を提言するなど、内側からの政権のチェック機能をどう果たすかに苦心している。一方、岸田首相や自民党にはできない独自の外交や安全保障に乗り出してもいる。山口那津男代表に公明党の現状を聞いた。聞き手=鈴木哲夫/ジャーナリスト Photo=幸田 森(雑誌『経済界』2024年10月号より)

山口那津男 公明党代表のプロフィール

山口那津男 公明党代表
山口那津男 公明党代表
やまぐち・なつお 1952年、茨城県生まれ。東京大学法学部卒業。弁護士。90年に衆議院議員に初当選(当選2回)。2001年から参議院議員(現4期)。防衛政務次官、参議院行政監視委員長、党政務調査会長などを経て、09年9月から現職。これまでに、地雷除去活動支援と自衛隊が保有する対人地雷やクラスター爆弾の全廃、離島支援、学校耐震化、東京大気汚染訴訟の全面解決などに尽力。

地雷除去は私のライフワーク

―― 7月8日から17日にかけて東南アジアを訪問したがその目的は。

山口 昨年、ASEANとの友好協力が50周年という大きな節目だったんです。50周年ということで、関係性を新たなステージに変えていくことになります。これまではどちらかというと、インフラの整備、経済発展・開発、 ここに協力の力点がありました。しかし、これからはもっと地球規模の課題にどう協力し合っていくかが必要になると考えています。 例えば、脱炭素に向けての技術的な協力や、海洋プラスチックごみ問題などの環境保全。同時に今後の世界はアメリカと中国の競争関係が高まっていく。その中でASEAN諸国は中国かアメリカかというのではなく、むしろ同じアジアの日本と協力をして協調的な路線を歩むべきだと思いますし、ASEAN諸国もそう考えているのではないかと。7月の東南アジア訪問には、それらをしっかりと確認するという、与党のパートナーとしての目的がありました。

―― もちろん公明党独自の外交の目的もあったと思うが……。

山口 これは2つあります。1つは地雷除去の支援。もうひとつは海洋の海上交通路の安全を確保するための人材育成。このネットワーク作りです。

―― 地雷除去は、命を命題とする公明党らしい取り組みだと思う。

山口 実は地雷除去は、私自身のライフワークとして取り組んできたテーマでもあります。1991年、私は内戦中のカンボジアに行きました。至る所に地雷源があり、隣のベトナムでもベトナム戦争時代の地雷で毎日のように被害者が出ていました。実際に私が病院の視察に行った時にも、その日の朝、地雷でけがをして運ばれてきた人がいた。そういう姿を目の当たりにしたわけです。これは非常にショックでした。ベトナム戦争が終わって15年以上たっていたのに、まだ被害は出ていたんです。

 もちろん被害に遭った人を治療したり、リハビリしたりして社会復帰できるように支援することも大事なのですが、それ以前に地雷そのものが問題だと痛感しました。危険物が放置されていたのでは人の命はいつまでたってもリスクにさらされるし、地雷源になっている土地の活用もできない。農業をやるにしても工業をやるにしても何もできない。だから、地雷をなんとか日本の技術で取り除けないかと考えたのがきっかけです。

―― まさにその目で実際に見たからこその政策だと。実際、その後どのような取り組みを進めてきたのか。

山口 地雷探知機と地雷除去機を、それぞれ文部科学省の予算、経済産業省の予算で研究開発できるようにしました。その後、国内の自衛隊の基地を借りて研究成果の実証試験を行いました。さらに、同じ機材を海外に持っていき、2004年にアフガニスタン、06年にカンボジアで実証試験を行いました。そしてテストに合格した機材を今度はODAで日本から各国に提供する流れを作ったのです。

 しかし、その一方で受け皿になる人材がまだ揃っていませんでした。そこでCMAC(カンボジア地雷対策センター) の要員を東京に招いて地雷セミナーを行いました。技術支援に加えて、人材面の支援も続けてきた結果、20年前は年間で何千人という死傷者が出ていましたが、近年は数十人という規模にまで被害を小さくすることができました。

―― 貴重なノウハウを積み重ねてきたからこそ実現できたと。

山口 カンボジアに蓄積された技術と経験は、人類の資産とも言うべきものです。これを他の地雷被害国のため活用しようと、公明党としても動いてきました。まずは隣のラオスです。ラオスはベトナム戦争の時の不発弾が大量に残っている。CMACが技術指導し、日本からも機材の提供や人材を訓練する施設を作る後押しなど協力しました。ここには、自衛隊のOBのみなさんがJMASというNGOを作って支援しています。そこも公明党はバックアップしてきました。また、アジアだけではありません。南米のコロンビアはゲリラと政府軍の激しい内戦が続いてきましたが、16年に和平合意がありました。その年、私はコロンビアに行き大統領と話をして、「これから直ちに必要なのは地雷除去で、日本の経験は役に立つ」と伝えたのです。そういう経緯もあって、日本はカンボジアと共にコロンビアにも地雷除去の支援をしています。

地雷除去の経験とノウハウ。日本が世界にできる貢献

山口那津男 公明党代表
山口那津男 公明党代表

―― 地雷除去の世界的な貢献はもっと評価されるべきだと思うし、現在の戦争など絶えない国際情勢の中で日本の役割の一つではないか。

山口 その通りです。さらに今後の展開として考えられるのが、ウクライナでの地雷除去です。G7の中で、日本は武器の供与をしてきませんでした。ですが、地雷除去の経験とノウハウを持っているのは、G7で日本しかありません。岸田首相にも提言しました。

―― まさに日本にしかできない。

山口 こうした取り組みは、国民のみなさんになかなか話す機会がありませんでした。ちなみに、地雷除去機を作ったコマツの坂根正弘さんは

「地雷除去は直接的には企業の儲け仕事とは言えないが、言わば人の命を助ける、国際貢献するということ。こういうところにも企業が取り組んでいるということが、どれほど企業の価値を高めるか。それを感じるからわが社もこの事業に、携わってよかった」とおっしゃっていました。また、同じく携わっている日建の会長も、先頭に立って命懸けで取り組んでいただきました。ただ、やはりボランティアでするのと政治のオーダーで行うのとではレベルが違います。公明党の努力と政府の支援が重なって、メーカーも実績が伴ってきたというところです。

 地雷探知機も東北大学の協力を得て、効率的な機材にできました。従来型は釘や画鋲などあらゆる金属に反応してしまいましたが、それをレーダーのように地中の地雷の形を明らかにし、地雷だけ効率的にかつ安全に探知できるようになったんです。民間企業や研究者など多くの方たちと公明党は連携してきました。

―― 公明党独自として挙げたもう一つ、海上交通路の安全を確保するための人材育成は?

山口 海上保安政策プログラムというものを行っています。ASEAN諸国から海上保安分野の中堅クラスの人材を招き、1年間日本で研修を行うプログラムです。元々日本財団が行っていたものを、国費でやるべきではないかと提案し、15年から続けてきました。

 現在、9期まで続いていますが、去年フィリピンに行った時にプログラムの卒業生と会いました。彼らは「中国から海上でハラスメントを受けるけれど、日本で教わった忍耐強く法の支配を実行することを徹底しています」と言うんです。あるいは、海に出ていると隣の国の隊員と接点ができる。そこにはかつて一緒に日本で学んだ仲間もいるわけです。これが心強いんだと言っていました。

―― 武器というハード面ではない部分で、いわば人的なつながりや信頼関係といった部分での安全保障につながっていると。

山口 そうなんです。フィリピンの1期生はいまや海上保安分野で国内のナンバー3にまでなっていて、いずれトップになるでしょう。こうしたそれぞれの国の縦のネットワークと、日本で共に学んだ人同士の人的な横のネットワークが作られて、それが層をなして安全保障体制ができてきているわけです。

 最初はASEANだけでしたが、今はさらにそれが西へ伸びてスリランカ、インド、バングラデシュ、モルディブなどからも研修に来るようになりました。彼らのように、沿岸警備、海上保安に携わる人は、海賊やテロ、密輸、海難事故や災害、力による現状変更など、さまざまな事態に対応するわけです。そこで、法の支配という1点で連帯している限りは、戦争は起きません。そうしたつながりを持った人材がいなくなり、海軍同士が直接相対するようになると、一触即発になってとんでもないことになりかねない。だから彼らは「自分たちの仕事が海の平和を守っている」というプライドを持っています。

―― 法の支配というのは、そうやって共に学んだ隣接国同士の本当の人の信頼関係があってはじめて成り立つということ。

山口 平和、平和と口で言うだけではいけません。地雷や不発弾は、中国やアメリカ、ロシアがばらまいたものです。それなのに被害を受けているのは庶民。その命を誰が守るんですか。誰が本当に土地を生まれ変わらせ、農業ができるようにして、住まいを作るんですか。それをやるのが公明党の仕事なんです。海上保安もその一つ。海上交通路は経済の動脈であり国際公共財です。弱い国でもみんなで力を合わせればいい。国連海洋法条約違反だったら国際司法裁判所で判決をもらえる。こういうことを進めながら、実際に海を守るというのが、本当の法の支配です。

みんなそれぞれ世代の役割がある

―― 国内経済についてはどうか。物価高など国民生活を苦しめている。

山口 本当に変化が激しい時代です。経済に関する問題は流動的な要素が大きいので、絵だけ作ってやろうとしてもすぐに陳腐化してしまう恐れがある。そのため、状況を見ながら機敏に何をするのかを提案し実行することを大事にしているのが公明党の強みです。

 例えば、エネルギーの国際市況が落ち着いてきて、脱炭素の流れも加味して補助はやめようという論調がありましたね。それはそれで大きな目で見れば正しいことですが、この夏の状況を考えると、猛暑になることは気象庁がすでに発表していた。それならば、その動きにすぐに反応しないといけない。それを公明党は岸田首相に提言して、電気代、ガス代は負担軽減することにこぎつけました。8月分から 9、10と3カ月続きます。特に8、9月分は補助率、 金額を手厚くします。

―― 生活者や中小企業を経営する人、働く人の声を敏感にキャッチしていくのが公明党の政治姿勢だと思うが……。

山口 政策のデコボコを直しながら、弱いところを補い、物価と賃金の好循環を生み出して、軌道に乗せていくのが大事だと思います。あとは年金。デフレの時は年金をいくら力強くしようと言ってもやっぱり限度はある。だけど、デフレから脱却する流れができると、もう少し、力を入れることができる。そこをチャンスと見て改革をやろうと思っています。

―― 社会保障でいえば、今は少子化だけがクローズアップされるが、少子化と高齢化はワンセットで「少子高齢化」という政策的な概念と具体策の進め方が必要だと思う。

山口 目指すべきは、全世代型の社会保障を過不足なく充実させていくことです。年金、医療、介護制度は整っているけれども、どちらかといえば高齢者向け。それを若い世代にも厚くしていく。かといって高齢者も蔑ろにしない。そんな改革が必要です。

 当然、少子化にも力を入れていきますが、やはり持続可能な社会保障を考えると、高齢化も少子化もどちらもバランスを取らなければなりません。若い人が希望を持てるということは、彼ら自身の世代のためであると同時に、今の高齢者、あるいはもうすぐ高齢者になる人たちのためでもあるわけです。自分は関係ないということではありません。国民全体がひとつの家族だと思えば、みんなそれぞれの世代の役割があるという考え方です。

―― 福祉、社会保障は公明党が特に力を入れてきた。

山口 公明党が近年、力をいれたものの一つは認知症対策です。認知症基本法を作り、成立しました。これで認知症施策の総合的な基本方針を作ることになっています。年内に国が作り、続いて地方も作っていくことで骨組みが揃うわけです。今、認知症予備軍は700万人から800万人いるといわれていますが、認知症になった人を丁寧にケアしていくためには、もっと大勢の人が関わるようになります。だから、ここの制度を新たに作っていく、力を入れていくというのは重要で、待ったなしの取り組みだと思っています。