少子高齢化による人口減に伴い、人材系企業のあり方も変わる。パーソルは今や海外での売り上げが全体の3割を占める。テクノロジーをフル活用し生成AIを活用し人材マッチングの精度の向上を図る。和田孝雄社長は、多様な才能を生かす環境を整えることが企業競争力の源泉であると指摘する。(雑誌『経済界』2024年10月号・第2特集「グレート・キャリア・メーカーズ」より)
和田孝雄 パーソルホールディングス 社長CEOのプロフィール
働き手から選ばれる企業は何が魅力的なのか
── 人手不足を背景に人材サービス市場が活況を呈しています。
和田 人材派遣も人材紹介も需要は旺盛です。働き手の転職回数も増えています。しかし、転職者の絶対数は増えていきますが、中長期的に社会全体の労働人口が減っていくのは避けられません。どの企業も労働力不足ですから、自社で良い人材を獲得するために積極的です。
企業が求める人物像も変化しており、特に専門性の高い人材の需要の高まりは著しい。当社の人材紹介事業は毎年2ケタ成長を続けていますが、景気動向に左右されやすいビジネスモデルなので、不透明感がぬぐえないのも事実です。例えば米国大統領選に伴う為替や株価の変動によっても、企業の採用意欲は変わってきますからね。
── 企業は働き手を選ぶのではなく、選ばれる側になりつつあります。
和田 選ばれる企業になるには、多様性を尊重することです。働き手の裁量が尊重される環境は競争力の源泉の一つ。社会課題も多様な才能の組み合わせが解決の近道となります。
── パーソルでは従業員の多様性を生かすためにどのような取り組みをしているのですか。
和田 個人が自律的にキャリアを創り上げようとするキャリアオーナーシップの意識を高める取り組みを進めています。手挙げ式を主体とした教育支援をはじめ、兼業・複業も推奨しており、既に1千人以上がこの制度を利用しています。また、社内システムに登録した希望者は、所属組織で働きながら、グループ内の別会社でも個人事業主扱いで活躍できます。複業制度を設けることで、社員が本業への取り組み方を見つめ直すキッカケとなっています。
── 社外向けにはどうでしょうか。
和田 社外に向けてもキャリアオーナーシップを身に付けてもらう機会を設けています。例えば、数十社とコンソーシアムを設立し、キャリアオーナーシップに関わる調査・研究や越境活動支援をしています。
派遣社員として働く方には多くの教育コンテンツを提供し、スキルおよびキャリアアップができる環境を提供しています。他にも、「PERSOL MIRAIZ(パーソルミライズ)」という個人向けリスキリングプラットフォームも展開しています。オリジナル動画学習コースと実践的な少人数制クラスによる研修プロクラムでキャリアに役立つスキルの習得が可能です。このプラットフォームでは、登録者と長期的な関係性を結び、次のキャリアへのサポートも行っています。
人材派遣、人材紹介を通じて築いてきた顧客資産を大事にしつつ、個人への手厚いサポートをする伴走型人材ビジネスを展開しています。
── 正規雇用との待遇格差や不安定さなど、派遣という雇用形態の負の側面をどう捉えていますか。
和田 当社は2万人を超える無期雇用派遣社員の方々に、定年まで働けることを保障しています。その上で、キャリアアップ支援も行っています。派遣社員の約4割は、新しいチャレンジに向けさまざまな仕事の経験を積みたい、ライフスタイルにマッチした働き方を選びたいといった理由から、派遣という働き方を望まれています。一方、正規雇用を希望される方には、積極的にチャンスをつかんでいただけるよう支援し、企業にも推薦していきます。私は30年にわたり人材業界を見てきましたが、この比率は変わっていません。
ジョブ型への進化。スキルベース雇用の潮流
── 人材サービス業界でも生成AIの活用が本格化しています。
和田 転職サービスの「doda」では登録者の職務内容をAIに生成させ最短1分で職務経歴書をつくるサービスを今年4月にスタートしました。マッチングの正確性と効率性を高めるのにテクノロジーは欠かせません。生成AIはスキマバイトアプリ「シェアフル」にも活用しています。倉庫のマネージャーやレストランの店長が簡単に求人票を作成できて、24時間自動的に人材がマッチングする仕組みをつくっています。少子高齢化による労働力不足に対応するには、テクノロジーによるサポートは不可欠です。
── 人口減少による国内市場の縮小は不可逆ですが、パーソルは今やグループ売り上げの3割以上を海外が占めます。
和田 特にAPAC(アジア・太平洋)の13カ国・地域で展開しています。人口が増えている国は成長市場です。国によってはトップシェアを獲得しています。ただしAPACは日本に比べて人材紹介・人材派遣のマージン率が低い。業務効率化や人材派遣のマッチングの自動化などテクノロジーを活用することで収益性を上げていかなければなりません。
── 日本企業は雇用形態の多様化が進んでいます。メンバーシップ型雇用から、近年はジョブ型雇用のプレゼンスが高まっています。
和田 明確な職務内容を遂行するにふさわしいスキルや経験を持つ人を、労働時間ではなく役割で採用するジョブ型雇用は米国で浸透しています。日本でも、正社員を定年まで雇用する長期雇用慣行が崩れ、ジョブ型に移行しつつありますが、米国とは解雇規制の厳しさも違うので、完全にそうなることはないでしょう。
日本はメンバーシップ型雇用と共存する形で、スキルベース型雇用が増えると考えています。これは特定の仕事を明確に区切って人を集めるのでなく、むしろ働き手のスキルを出発点とした雇用のあり方です。働き手の能力をしっかりと見極め、仕事を割り当てていくという考え方が今後は主流になります。ジョブ(職務内容)を定義しつつも、個人のスキルベースで人材配置するのです。スキルベースは主が「人」で、従は「ジョブ」であるという発想です。
このスキルベースの発想は、米国でも進みつつあります。米国ではジョブ型の限界が見えてきており、修正の必要に迫られています。スキルベースの流れは、人口減少が避けられない今の日本にも適合します。当社もスキル向上支援とより良い機会提供を通じて、働き手のウェルビーイングを高めていきたいですね。