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市場のシュリンクへの答えは生保から健康応援企業への脱皮 大場康弘 SOMPOひまわり生命

大場康弘 SOMPOひまわり生命

生命保険は、病気やケガなど人生の万が一の備え。それが一般的なイメージだった。ところが昨今、健康状態に応じて保険料が割り引かれたり、特定の健康指標が改善すると一時金が支払われたりする、「健康増進型保険」が増えている。SOMPOひまわり生命も、そんな新たな形の商品に力を入れる1社だ。聞き手=和田一樹 Photo=山内信也(雑誌『経済界』2024年10月号より)

大場康弘 SOMPOひまわり生命社長CEOのプロフィール

大場康弘 SOMPOひまわり生命
大場康弘 SOMPOひまわり生命社長CEO
おおば・やすひろ 1965年鹿児島県生まれ。 88年慶應義塾大学商学部卒。同年安田火災海上保険(現・損害保険ジャパン)入社。 2014年NKSJひまわり生命(現・SOMPOひまわり生命)取締役執行役員などを経て18年4月から現職。

海外市場に出る前にマザーマーケットに向き合え

―― SOMPOひまわり生命(ひまわり生命)は、大場さんが社長に就任した2018年から、健康増進型保険を事業の柱にしてきました。戦略の狙いを教えてください。

大場 健康増進型保険を手掛ける企業は多くありますが、当社では、インシュアランス(保険)+ヘルスケア(健康)で、「インシュアヘルス商品」と呼んでいます。そして、なぜひまわり生命がインシュアヘルス商品を手掛けるようになったかと言えば、お客さまとより深く、長くつながることを目指したからです。

 少しさかのぼってお話をさせてください。私がひまわり生命に来たのは14年。その直前はSOMPOホールディングスで人事部長をしていました。異動時に私に課せられたミッションは、16年から取り組む中期経営計画を策定することです。当時ひまわり生命は医療保険を中心に手掛けていましたが、日本は人口が伸び悩み、市場はどんどんレッドオーシャンになっていました。中計の議論をしても、次の成長の絵が全然まとまりません。そこで打ち出したのが「健康応援企業」という、新たなビジョンでした。伝統的な生命保険会社を脱皮し、お客さまの健康を応援する企業になろうと掲げ、インシュアヘルス商品の提供に至ったのです。

―― 大胆な変化です。人口が増加する市場を求めて海外に進出する保険会社もありますが、それは選択肢になかったのでしょうか。

大場 たしかに、国内マーケットのシュリンクに対する打ち手のひとつは、海外進出です。ただ、日本のマーケットが縮小するのは事実ですが、それでも国内生保市場は約30兆円あって、仮に3分の1がなくなっても20兆円。この市場の中で、お客さまと深く、長くつながることができれば、そこに勝機はあるはずです。

―― 国内か海外か。最後の決め手は何だったのでしょうか。

大場 端的に言うと、どっちが面白いかです。誤解のないように補足しますが、当然、海外市場で利益を稼ぐのも素晴らしいことです。しかし、長寿大国である日本は、健康寿命と平均寿命の差が10年ぐらいあって、そこに課題が山積しています。マザーマーケットで直面している課題に向き合わずして、一体何が面白いのかと考えました。

―― 顧客との接点強化にしても戦略は複数あったはずです。どうして健康をターゲットにしたのですか。

大場 16年の中計立案に際し、生命保険とは何か再定義しました。お客さまは、万が一の事態に備えて生命保険に加入します。言ってみれば、生命保険は明るい未来のためにあるわけです。そして、同じく健康も明るい未来につながるもの。ならば、健康そのものを後押しする企業になろうではないかと決めました。

 従来、生命保険の加入時にお客さまの健康状態を確認していました。ですが、それはあくまで保険加入のための情報です。そうではなく、生命保険と健康をセットにしてソリューションを提供できるようになれば、お客さまの明るい未来のために、より深く、長くつながることができるのではないか。そう考えたのです。

保険業界では、お客さまからお支払いいただく新契約1年間の保険料の合計を「新契約年換算保険料」と呼びますが、23年10月にはインシュアヘルス商品の累計新契約年換算保険料が1千億円を突破しました。18年が90億円でしたから、急激に伸びていることが分かると思います。

―― 住友生命のvitalityを筆頭に、他社も健康増進型保険を手掛けています。差別化する要素はどこにありますか。

大場 明け透けな言い方をすれば、商品そのものに差別化要素はないと思っています。もちろん、保険のプロの目線で見れば違いは多くあります。ですが、保険や金融の世界は許認可商品ということもあって、コモディティ化していくのが一般的です。加えて、事業戦略の面でも圧倒的な差別化要素はないというのが個人的な考えです。

インシュアヘルスに全集中。差別化の秘訣は組織力にあり 

―― ひまわり生命以外に健康増進型保険を累計100万件以上販売している企業は、社員数が3万人、4万人規模です。対するひまわり生命は約2700人。商品や戦略に差別化要素がないとすると、どうしてここまでの戦いができているのですか。

大場 当社は、健康増進型保険を商品ラインナップのワンオブゼムにするのではなく、そこに経営リソースを全集中させる方針に舵を切りました。強いて言えば、ここにしか差別化要因はありません。それに伴って、オペレーションも相当磨き込んでいます。例えば、インシュアヘルス商品を、いつ、誰が、どのような方法でお客さまに提案するのか。そして、提案後のフォローやご契約後のケアの手順まで、細かな改善を積み重ねています。また、健康は一律ではありません。インシュアヘルス商品は保険+健康がコンセプトですが、保険と健康の比重ひとつとってもニーズは千差万別です。ですから、画一的なものを押し付けてもうまくいかないわけです。

 そこでインシュアヘルス商品の設計にあたって、お客さまのご心配事を理解する努力は絶えず続けています。認知症保険であれば、まず軽度認知症の診断がついた時点で一時金をお支払いします。加えて、認知症の進行を遅らせるサービスを付帯する。保険と健康サービスの組み合わせは、商品ごとに変えていて、それぞれ特性を見極めて、きめ細やかに設計しています。こうしたオペレーションエクセレンスな組織運営や商品設計の細部へのこだわりは、健康増進型保険に経営リソースを全集中しているからこそ実現できています。

―― 非常に好調の中ですが、あえて言えば課題はどこにありますか。

大場 本当にお客さまを健康にできているのか。そのきっかけを作れているのか。これは追求し続けねばなりません。これができないと、健康応援企業というビジョンを掲げている意味はありませんので、一生懸命チャレンジしていきます。