経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

原発再稼働か再生可能エネか AIの普及で日本の電力が大ピンチ

国内でデータセンターが急増している。「チャットGPT」をはじめとする生成人工知能(AI)の利用が広がっているためだ。懸念されるのが、データセンターを稼働させるための電力需要の急拡大。2050年には電力需要が現在の2割増えるとの試算もある。対応できるのか。文=ジャーナリスト/小田切 隆(雑誌『経済界』2024年12月号より

シャープ堺工場跡地もAI向けデータセンターに

 まず、国内のデータセンターの立地状況をみてみよう。政府が今年5月にまとめた資料によると、2023年時点で最もデータセンターが立地しているのは関東。面積ベースでは107万450平方メートルと、全国の約64%に達した。棟数は194で、全国の約38%にあたる。

 次に多いのが関西で、面積は41万1550平方メートル、約24%。棟数は84棟で約16%だ。

 以下、面積が大きい順にみていくと、中部が約4%、九州・沖縄が約3%、中国・四国と東北が約2%、北海道が約1%となっている。

 政府は、非公表情報を除き、国内には少なくとも面積ベースで「約150万平方メートルのデータセンター(東京ドーム約30個分)が存在(している)」と指摘。「8割強が東京圏・大阪圏に集中しており、今後もこの傾向は続く見込み」としている。

 新たなデータセンターの建設計画も次々と発表されており、関西電力は9月12日、京都府精華町に、同社ではじめてとなるデータセンターを建設すると発表した。

 関西文化学術研究都市(けいはんな学研都市)に、地上4階建て、延べ床面積約3万8700平方メートルの建屋をつくるという。同社は昨年、米国のデータセンター開発大手と共同出資会社をつくっており、今回のデータセンター建設は、初めての案件となる。

 今年6月には、稼働が止まるシャープの液晶パネルの工場について、ソフトバンク、KDDIがそれぞれ敷地と建屋をAI向けデータセンターにしたいとシャープ側に申し入れ、協議していることが明らかになった。

 データセンターそのものだけでなく、関連する商品の量産に向けた動きも加速している。

 古河電工は7月、データセンター向けの冷却製品をつくるための工場を、神奈川県平塚市とフィリピンに新設すると発表した。水などを循環させて熱を回収し演算装置を冷やす「水冷方式」の製品を、26年度から量産する計画だという。

 このようにデータセンターや関連製品をつくる動きが加速しているのは、生成AIの利用が企業などで広がり始めているからだ。

 大企業では、セブン-イレブン・ジャパン、大和証券、パナソニックホールディングス、コニカミノルタなどが社内の業務や対顧客サービスへ続々と生成AIを導入。地方自治体でも生成AIを使い始めているところが増えている。

市場規模の成長率は年平均で57・2%

 PwCコンサルティングが今年春、売上高500億円以上の日本国内の企業・組織に所属する課長職以上912人を対象にウェブで調査したところ、生成AIを「活用中」と答えた人は43%、活用に向けて「推進中」とした人は24%で、合計67%だった。22年春の合計22%、23年秋の合計58%から着実に増えてきている。

 一方、中小企業での利用や活用は、いま一つのようだ。帝国データバンクが中堅・中小企業を中心に今年6~7月に調べたところ、生成AIを業務に使っている企業は17・3%にとどまった。ただ、「活用していないが検討中」も26・8%となった。

 活用している業種で最も多かったのは「サービス・その他」で28・0%だった。次に多いのが「小売」で20・4%。「運輸・通信」は10・4%、「建設・不動産」は9・4%と、活用が進んでいないことが浮き彫りとなった。

 一方、生成AIの使い道で最も多かったのは「情報収集」で59・9%。続いて「文章の要約・校正」が53・9%だった。

 生成AIの活用にあたっての懸念や課題を聞いたところ、「AI運用の人材・ノウハウ不足」(54・1%)「情報の正確性」(41・1%)「生成AIを活用すべき業務が不明確」(39・1%)の順で多い結果となった。

 今のところ、大企業であるほど生成AIの活用が進んでいるのが実態だ。しかし、将来的には中堅や中小企業にも広がっていくことが考えられる。というのも、すでに若い人ほど生成AIを手広く使っており、彼らが社会で「多数派」を占めるにつれ、企業としても生成AIを導入するメリットが出てくると考えられるからだ。

 筆者の知り合いの、東京都内に住む私立大学生は、自分の友人を含め、教授に出すレポートなどはチャットGPTを使ってつくっているという。「最低限の事実関係の調べや文章の構成などは、チャットGPTにやってもらっている」とこの学生は語る。

 ただし、「自分の特徴を出した文章をつくるためには、自分の頭で考えなければならない」。レポートの提出を受ける教授も、学生がみなチャットGPTを使っていることは分かっているようだといい、「むしろ、まったくチャットGPTを利用せず、言葉使いや文法がなっていなかったり、誤字脱字が多いレポートになったりしていたら、『最新技術も使いこなせないのか』と教授から低い評価を受けるのではないかと学生はみな心配している」と話す。

 こうした学生が社会人になり、企業を動かすようになる時代には、チャットGPTをはじめとする生成AIを使うことへの抵抗感はなくなり、当たり前のツールになっていることだろう。

 そして、こうした流れを見越し、生成AI関連の市場規模は爆発的に伸びていくとの予測がある。

 一般社団法人「電子情報技術産業協会(JEITA)」が昨年12月に出した見通しによると、生成AIの基盤モデルの提供のほか、基盤モデルを使ったアプリ、リスク対策や人材育成といった関連サービスなどを合わせた日本での生成AI市場の需要額は、23年の1188億円から25年に6879億円、30年には1兆7774億円と、年平均で47・2%ずつ拡大していくことが見込まれる。

 JEITAは世界も含め、「特に伸長が著しいと見込まれるのは製造分野」とみる。「製造現場における業務支援や製品開発支援など、ユースケース(使用例)が多岐にわたる」とみられることから、ハイペースでの市場の伸びが予想されるとしている。

 さて、このように急激な普及が進むことが予想される生成AIだが、それに伴い必要とされているのがデータセンターだ。立地が東京圏と大阪圏に集中し、今後も増えていくであろうことは、先に説明した。そしてそれに伴い大きく拡大していくとみられるのが、電力需要だ。

 データセンターに必要とされる電力需要は、サーバーなどの機器を稼働させて生まれるデータ処理のための電力と、サーバーから生まれる熱を冷やす空調を動かすための電力の需要からなる。データセンターは大型化している上、それぞれ1年365日間、少しも休まず動き続けるため、膨大な電力が必要とされる。

データセンター用電力をいかに賄うか

 日本総合研究所がさまざまな研究機関による試算などを分析したところ、50年にデータセンターが必要とする電力使用量は、今とくらべて1千億キロワット時弱、最大で2千億キロワット時ほど増えるとみられるという。

 今の国内の電力需要は9千億キロワット時なので、その10~20%分が増えることになる。日本総研は、これは関西エリア、中部エリアと同レベルの電力規模であり、本当にこれだけの電力需要が生まれれば、日本の電力市場に非常に大きなインパクトを与えるとしている。

 そうなると、これだけの電力需要を満たす膨大な電力供給量が必要となってくる。単純に考えれば、管内でデータセンターの集中が続くとみられる東京電力や関西電力は、対応を急ぐ必要があるだろう。

 必要とされる電力供給の条件は、大規模で安定し、なおかつ脱炭素であることだ。

 そのための有力な選択肢は、やはり原発となる。原発の再稼働を急ぐとともに、新増設を検討することも重要になってくるだろう。

 そのあたりは電力会社も認識しており、関西電力の榊原定征会長は4月、メディアのインタビューに対して、データセンターの増加による原発の重要性に言及。新増設やリプレース(建て替え)について「(関電などが)先頭を切る必要がある」と話した。

 脱炭素の点からは、太陽光発電なども選択肢と考えられるが、適した土地が限られている上、晴れたり曇ったりで発電量が左右され、不安定だ。安定した電力供給が可能な原発のほうが、より適しているといえるだろう。さらに電力会社は、系統(送配電網)の増強も求められることになる。

 ただ、原発の新増設やリプレースは世論を納得させる必要があるし、いざ実現するとなっても、莫大な時間と費用がかかる。系統の増強も同じだ。急激に進む生成AIの普及とデーセンター増加による電力需要の急増に、果たしてスピーディーに対応していけるのかという問題がある。

 そこで代わるアイデアとして出ているのが、「オフグリッド型」での整備だ。近接したデータセンターと発電所を一緒に整備するもので、いわば「自家発電型」でもある。たとえば、臨海部にデータセンターをつくって洋上風力発電所から直接電力を引き込むといった方法が念頭に置かれている。既存の系統を使わないぶん、コストを抑えられるメリットもある。

 オフグリッド型はあながち現実味のない話でもない。海外では米ペンシルベニア州で、アマゾン系の企業が原発と近接してデータセンターをつくるといった動きもすでに出ている。

 いずれにしろ、増大する電力需要に供給が追いつかなければ、さまざまな弊害が引き起こされることだろう。手遅れになり、取返しのつかない事態に陥らないよう、官民で先手先手の議論を進めていく必要がある。