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船井電機の破産を巡る 300億円資金流出の不可解

船井電機といえば、かつてアメリカテレビ市場で過半のシェアを握ったこともある家電メーカー。中韓勢に押され業績は悪化していたが、突如、破産手続きに入ったことが大きな話題になった。社員も知らなかったこの倒産劇、会社の資金を巡るきな臭い動きも見えてきた。文=ジャーナリスト/小田切 隆(雑誌『経済界』2025年2月号より)

社員も寝耳に水だった「給料は払えません」

 中堅家電メーカーの船井電機(大阪府大東市)が10月24日、東京地裁から破産手続き開始の決定を受け、大きな波紋を呼んでいる。給料日の前日に約550人の従業員がいきなり解雇を言い渡され、路頭に迷う異例の事態になった。直近3年間で約300億円の資金が流出するなど不可解な点も多い。さらに12月2日には、会長が破産手続き開始に反対して民事再生法の適用を裁判所に申請。混迷の色が深まっている。

 「FUNAI」ブランドのテレビをはじめとする製品で一世を風靡した船井電機。破産に至った背景には、安価で高品質な製品を供給する中国や韓国のメーカーとの競争が激しくなり、主力のテレビ事業が悪化したことがある。

 手続き開始の決定にあたって明らかになった負債の額は約470億円、債権者は500人強に上る。

 ちなみに破産は倒産の一種。企業や個人が債務超過や支払い不能となったとき、裁判所がその企業や個人の財産を処分して、債権者へ平等に分配する手続きだ。

 船井電機に関する破産申立人は、創業家に関係する取締役の男性。通常、企業が申立人となることが一般的だが、今回は珍しく、企業による意思決定が難しい場合に取締役などが単独で行う「準自己破産」という手続きだった。

 10月24日、急遽開かれた社員説明会で、社員たちは会社側から、次のように告げられたという。

 「破産することになりました。即時解雇です。給料を支払うことはできません」

 25日の給料日を翌日に控えたタイミングで、いきなり職を失うことになった従業員たち。「寝耳に水」の通告に、唖然・呆然としたことだろう。あまりの異常な事態に、世間も大きな衝撃を受けた。船井電機は国内外に関連会社が30社以上あり、それらが連鎖倒産して多くの従業員にどのような悪影響が出るかも心配される。

 「救い」があったとしたら、そんな(元)従業員たちに手を差し伸べる企業が少なからずあったことだ。11月11日、船井電機本社の地元のハローワークで行われた元従業員の再就職のための説明会では、彼らに対して約800社・約2千件の求人があり、そうした情報が記された冊子が手渡された。

ミシンの卸問屋から始まった家電メーカー

 異例の破産劇を演じている船井電機。ここで、どんな企業なのかを振り返ってみたい。

 同社の発祥は、創業者・船井哲良氏が1951年に立ち上げたミシンの卸問屋だ。61年、トランジスタラジオの製造部門が分社させるかたちで船井電機が設立された。

 80年代には、ボタンを押すだけでできたてのパンを食べられるホームベーカリー「らくらくパンだ」が人気商品に。

 このほか、テレビとビデオが一体になった「テレビデオ」が大ヒットした。価格が低く機能が高いことが受け、船井電機の成長を大きく後押しすることになった。

 テレビについては97年、米ウォルマートと取引を始め、北米における販路を広げた。2000年代には液晶テレビの生産をスタート。中国で生産したテレビなどを安く売るといった戦略を進め、北米では一時「60%」というナンバーワンのシェアを獲得するまでになった。業績は拡大を続け、07年3月期には、3967億円という過去最高の売上高を記録している。

 しかし、良かったのはこのあたりまでだ。ほかの多くの電機メーカーと同じく、台頭してきた、より安価で高品質な製品を提供する中国や韓国のメーカーとの激しい競争にさらされ、暗転することになる。

 北米では、韓国のサムスン電子のほか、日本のソニーグループなどとの間でも争いが激化。業績が次第に悪化。本業でもうけられているかを示す営業損益が赤字を記録するようになった。

 創業者の船井哲良氏は08年に社長を退任し、17年に死去する。21年5月には、テレビ事業からの脱却を目指して秀和システムホールディングス(HD)の傘下に入るなど立て直しを模索し続けたが、かなわず、今回の破産申し立てという結果にいたった。

 ある意味、「存在感」の大きなメーカーであるだけに、船井電機の破産はたくさんの方面へ影響を及ぼし、関係者らは対応に追われている。

 たとえば、「FUNAI」ブランドのテレビを17年から日本国内で独占販売してきた家電量販店大手のヤマダHDがその一つだ。

 破産手続き開始決定の報道を受け、電子商取引(EC)サイトの上で船井電機の製品の販売を一時休止するといった動きをすすめた。

 10月24日、ヤマダHDは、自社のホームページ上で、「船井電機株式会社の今後の動向を注視してまいります」と指摘。次のようにコメントした。

 「これまでに販売したFUNAIブランド製品のアフターサービスについては、お客様にご迷惑をおかけすることの無いよう販売店として責任をもって対応してまいります」

 地方自治体にも影響が及んでいる。

 船井電機の本社がある大阪府大東市は、ふるさと納税の返礼品から、同社製のテレビ15品目を除く決定をした。理由は、同社の経営状況の先行きが不透明であることだ。

 ちなみに同社製のテレビはタイでつくられているが、商品の企画そのものは大東市の本社で行われてきたため、地場産品の扱いとなっている。

 このほか大東市は、ブルーレイディスクプレイヤーなど2品目についても、在庫がなくなり次第、終わらせる。大東市は船井電機製の合計17品目を、10月にふるさと納税の返礼品へ加えたばかりだった。

 このほかにも船井電機の破産の規模が大きかったことが、倒産関連の統計数字を押し上げることになった。

 東京商工リサーチ関西支社によると、10月の関西2府4県の倒産の負債総額は658億5千万円となったが、その額のうち約7割を、船井電機の負債額469億6400万円が占めた。関西では今年最大の倒産となった。また、負債額が5836億円だった23年9月のパナソニック液晶ディスプレイ以来の大型倒産にもなった。

 なお、このとき東京商工リサーチ関西支社が集計した統計では、関西2府4県の倒産件数は前年同月比23%増の242件となり、3カ月ぶりに200件を超えている。人手不足や資材価格の高騰などの影響を受けやすい業種で倒産が目立った。

 また、船井電機の破産による影響の広がり次第では、関西の景気が下振れしかねない。

 財務省近畿財務局は10月の管内経済情勢報告で、関西2府4県の景気判断を5四半期連続で据え置き、「緩やかに回復しつつある」とした。一方で船井電機の破産について、関禎一郎局長は記者会見で「関係先を含め、どんな影響があるのか注視する」と話した。

300億円の預金流出に不正の疑いも

 このように、多方面にわたって大きな影響を与えうる船井電機の破産劇だが、これまで同社を巡っては、さまざまな不可解なことが起きている。

 先ほど述べたように、船井電機は21年5月、秀和に買収された後、非上場化された。買収にあたっては、りそな銀行から秀和に180億円が融資されており、このとき担保として、船井電機の定期預金が提供された。この180億円は24年5月に回収されている。

 船井電機の社長には、外資系コンサルティング会社の出身で、秀和のトップをつとめていた上田智一氏が就任した。経営再建に向け、事業多角化を進める方針を打ち出し、23年3月、船井電機・HDを設立して持ち株会社制に移行する。

 そして船井電機は事業の多角化を目指し、23年4月、脱毛サロンを全国展開する「ミュゼプラチナム」を買収する。このときには、横浜幸銀信用組合(横浜市)から33億円が貸し付けられた。この33億円は、簿外債務となっている。

 船井電機側からミュゼに対しては、資金支援や関連会社への貸し付けも行われた。

 ところが1年もたたない24年3月、船井電機はミュゼを売却する。5月には、船井電機と関係あるのかも分からない、素性の知れない複数の人物が取締役に就任。彼らは、従業員からみても「なぜ取締役になったのか分からない人たち」だったという。

 9月には、ミュゼに広告代金未払いが22億円あることが明るみになり、信用不安が広がる。上田氏は9月27日付で社長を辞任。10月の破産手続き開始決定と従業員の一斉解雇へとつながった。

 この間、ミュゼ買収や関連会社への支援などによって、船井電機側からは300億円の資金が流出しており、破産申し立ての引き金になったとみられる。21年3月末時点で350億円近くあった現預金は、いまでは、ほぼゼロになっているという。

 このように複雑で、不明な点も多い一連のプロセスだが、冒頭で説明した通り、今回の破産申し立ては、創業家に関係する取締役が単独で行うという異例の形だった。

 専門家などからは「外部から入ってきた経営陣と、彼らに会社を食い物にされたくないという創業家側との争いが根底にあるのでは」という見方も上がっている。

 そして、船井電機の破産劇を巡っては、なおも波乱含みとなっている。

 同社の会長で、かつて環境大臣をつとめたこともある原田義昭氏が12月2日、民事再生法の適用を裁判所に申請したのだ。すでに破産手続きの開始決定を受けている中での民事再生法適用の申請は、きわめて異例だ。原田氏は10月末にも、破産手続き開始の決定が不服だとして、裁判所に即時抗告している。

 2日に記者会見した原田氏は「破産手続きは寝耳に水だった。まだまだ船井グループは立ち直ることができる」と発言。テレビ事業を売却し、新規事業で巻き返しを図る考えを示している。

 ただ、裁判所による破産手続き開始の決定をくつがえすことは難しいとみられている。また、原田氏は、メディアの取材に対し、約300億円の流出に「多少の不正のようなものがあったようにも感じている」と発言している。

 もし実際にそのような不正があったのなら、経営陣による特別背任罪に問われる刑事事件に発展することもありうる。資金流出の背景が明かされることがあるのかどうか。

 事態がどう転ぶのか。予断を許さない。