全国郵便局長会(全特)の「悲願」であるゆうちょ銀の預入限度額と、かんぽ生命の保険契約限度額の引き上げが決まった。限度額引き上げに関して民間金融機関から根強い反発がある中、さらなる引き上げを求める全特は、今年夏の参議院議員選挙をにらんだ動きも見せている。 文=ジャーナリスト/増田和也
限度額引き上げに向けて、再び自民党支持に転じた全特
ゆうちょ銀の預入限度額は1991年以来、25年間にわたって通常貯金と定期制貯金合計で1千万円に据え置かれている。約85兆円の資産を持つかんぽ生命の保険契約限度額は30年近く店ざらしにされている。その原因は民間金融機関からの「政府保証がある郵政金融2社の限度額引き上げは認めるべきではない」との激しい民業圧迫論にあった。
限度額については2010年2月、民主党と連立政権を組んだ当時の国民新党がゆうちょ預入限度額を3千万円に、かんぽ加入限度額を5千万円まで引き上げることを求めた。しかし、当時、下野中の自民党の反対と民主党内の足並みの乱れによる時間切れで、改正民営化法には盛り込まれなかった。
今回は政権に復帰した自民党からの提言がきっかけだった。昨年5月24日、全国の郵便局長やOB、婦人会など約7万7千人が金沢市に集結。全国郵便局長会(全特)総会が開かれた。13年7月の参院選で約43万票を獲得。自民・比例区でトップ当選を果たした元会長の柘植芳文参議院議員は「政治生命を懸けてでも今こそ実現したい」と限度額引き上げを求め、自民党の谷垣禎一幹事長も「限度額引き上げは12年の衆院選の政権公約だ」と応じた。
小泉・竹中郵政民営化路線に反発して自民支持から離れた全特だが、「現実路線」(全特幹部)を選択し、再び自民党支持に転じた。「集票マシン」の要請で、自民党は翌月にゆうちょ預入限度額を15年9月までに2千万円、2年後までに3千万円に、かんぽ生命契約限度額も同年9月までに2千万円に引き上げるとする提言をまとめ、自民党の「郵便局の利便性を推進する議員連盟」(郵活連、野田毅会長)は、麻生太郎金融担当相と高市早苗総務相に限度額引き上げを求めた。さらに自民党の「郵政事業に関する特命委員会」(細田博之委員長)と公明党の「郵政問題議員連盟」(斉藤鉄夫会長)は7月に菅義偉官房長官にも同様の申し入れを行い、官邸にも圧力をかけた。
これを受けて郵政民営化委員会は議論を重ねたが、増田寛也委員長は引き上げに慎重な姿勢を崩さず、昨年11月4日の日本郵政グループ3社の上場までには実現しなかった。
全国信用金庫協会の大前孝治会長(城北信用金庫会長)は、郵便局ネットワーク活用と民間金融機関との連携が必要としながら「限度額引き上げや新規業務の拡大は認めるべきではない」と激しく反発。全国地方銀行協会(地銀協)会長の寺澤辰磨・横浜銀行頭取も「認めるべきではない」との立場を崩さなかった。
今年7月の参院選で新たな組織内候補を立てる全特の大沢誠会長は自民党に無言の圧力をかけるとともに、増田委員長を昨年11月22日に都内で開かれた全特臨時総会後の研修に招き、講演を依頼して理解を求めたが、「最終決定」とされた12月10日の民営化委でも結論を持ち越し、12月22日の郵活連役員会で「政府が動かないのなら議員立法も」と、郵政族議員のリーダーの山口俊一衆院議員が迫る場面もあった。
限度額引き上げへの道 参院で「全特枠」の奪取をもくろむ
全特が焦る理由は、16年には定額貯金の集中満期が訪れ、ゆうちょの限度額が1千万円のままだと資金を吸収できなくなるケースが増えるからだ。
ゆうちょ銀の資産運用は15年9月末で約200兆円だが、45.2%が国債での運用だ。株式や信託の運用を増やし、国債比率が初めて5割を切ったとはいえ、住宅ローンや大企業向け融資などの新規業務は親会社の日本郵政が株式を5割以上放出しない限り金融庁からの認可が下りない。いまだ「資金量の確保」が生命線なのだ。
最終的に、官邸の意向で限度額引き上げ額は300万円に圧縮された。増田委員長はゆうちょ銀の金額階層別貯金者数で900万円を超えるのは全体の4%程度と指摘。「緩和した際の影響は限定的」とし、当初の引き上げ額は300万円とし、「問題がなければ段階的に緩和していくのが妥当」と結論づけた。一方、かんぽ生命については、基本契約は限度額1千万円を据え置き、加入後4年後に300万円追加される部分を700万円に引き上げることで2千万円に引き上げる案を示した。
しかし、全特の大沢会長は「引き上げ額については利便性回復に不足する金額。預入限度額をはじめ、各種規制の撤廃に向けてさらなる検討を期待する」と不満を表明。先輩の柘植議員も「本来なら金額まで民営化委が決めるべきではない」と反発する。全特は政府と自民党に対し、さらなる引き上げと新規業務の認可を求め、今夏の参院選比例代表に前日本郵便執行役員近畿支社長の徳茂雅之氏を自民党から擁立する。昨年5月の通常総会で、元日本郵便女性幹部の唐木徳子元郵便・物流部長を擁立することを決めたが、体調不良で出馬を断念。新たな候補として1986年旧郵政省(現総務省)入省の元キャリア官僚を立てる。全特は「必ず自民党候補中トップで当選させる」と意気込む。発言力強化に向け、柘植氏に加え、参院で「全特枠」で2議席奪取をもくろむ。
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