スカイマークの破綻劇で広く名を知られたエアバス社のA380型機。ANAホールディングスはこの超大型機を2019年度よりホノルル線へ導入する予定と発表した。昨年から新規路線を積極的に開設するなど攻めの姿勢が目立つANA。その裏に何があるのか。文=本誌/古賀寛明
富裕層狙いのハワイ戦略
1月29日、ANAホールディングスは2020年までの新たな中期経営計画を発表した。この会見で記者からの質問が集中したのは、正式発表となったエアバス社のA380型機、3機発注の件についてだった。
この総2階建て、500席以上の座席を誇る超大型機は、スカイマークが購入費用を賄えずに多額の違約金を求められ、破綻の引き金になったことで覚えておられる方も多いに違いない。さらにその後、民事再生法によってスカイマークのスポンサーを決める段階でもカギとなった。支援に名乗りをあげたANA側に対して、大口債権者である米国の航空機リース会社イントレピッド・アビエーションも独自に再建案を提出。その対立に決着をつけたのが、ANA側支持にまわった同じ大口債権者のエアバス社であった。エアバス社がどちらについてもおかしくなかったために、ANA側と何らかの約束があってのことと憶測を呼んだほどだ。
今回の会見でも、「将来的な機材購入の話はでていた」とANAホールディングス取締役執行役員の長峯豊之氏は言うが、それがそのまま今回の購入に直結したわけではないという。ただ、かつて会社としてA380型機の導入を見送る決定をしていたにもかかわらず、再検討し、さらには発注したという事実は、以前の騒動が大きく影響したことを物語る。
日本の航空会社としては初導入となるこの機材は、そのサイズもあってファンも多いが、少量多頻度運航といった時代の流れとは逆行する。だからこそ、その使い方が気になるところだが、就航先にはハワイ・ホノルル線を19年の春より予定しているという。ハワイ線は現在、日本航空(JAL)の牙城といえる。JALは日本〜ハワイ間で36%のシェアを持つ。対してANAは8%。その巻き返しをA380が担うというのだ。超大型の機材であればファーストクラスも設置できるため従来の客層に加え、新たに富裕層も取り込むことができる。同時に、大型機材だけに搭乗率の低下といった心配も出てくるが、「日本人の海外旅行者約1800万人のうち9%をハワイへの渡航者が占める」(長峯氏)ことや年間を通して9割を超える有償座席利用率を考えれば、コストを抑え効率的な運航も見えてくる。
このA380の発注やスカイマークの騒動にばかり目が向いてしまうが、最近、ANAホールディングスの積極的な事業展開が目立っている。昨年には成田・羽田の両空港から国際線を新規に4路線就航し、今年も既に成田から4月に中国・武漢、9月にカンボジアのプノンペンに就航。さらにはメキシコへの就航予定まである。既存の路線についても増便が目立つなど、その攻めの姿勢には、いささかの迷いも感じられない。そこには、いちはやく世界市場でのポジションを築かなければ生き残れないといった危機感があるようだ。
活況のアジアを制することができるか
国内市場が収縮する以上、成長を望むならば海外に活路を求めていくしかない。既に、成田・羽田の空港は、アジアと北米を結ぶ結節点として機能している。運航ダイヤもスムーズな乗継が優先され、その中心には外国人顧客がいる。例えば、昨年新規に就航したヒューストンであれば、さらに先の中南米を見つめ、クアラルンプールへの乗り入れはアジアでのネットワークの充実を考えてのこと。機材に人気キャラクターを塗装した「スターウォーズ・プロジェクト」にしても海外での知名度向上というANAの大きな狙いがある。
世界的に見ればANAは、デルタやルフトハンザ、エミレーツなどのメガ航空会社に比べて規模、体力ともに見劣りする。だからこそ、できるだけ早く、国際市場で「稼ぎ続ける」体制を構築する必要がある。
支えているのは好業績だ。中期経営計画の前に発表された第3四半期決算においても、売上高、営業利益、経常利益と過去最高の数字が並び、16年3月期の見通しも売上高は当初予想の1兆7900億円と据え置いたものの、営業利益は100億円多く、経常利益も200億円多い1100億円と上方修正している。好調の要因は国際線の大きな伸びに加え、原油市況の下落も追い風となった。
昨年、日本を訪れた訪日外国人数は、日本政府観光局(JNTO)の資料によれば過去最高の1973万人、前年比43・4%の伸び。また、中国人観光客は499万人と、1年で倍増している。昨年秋からの中国経済の減速といった声もささやかれ、実際に数字としての伸びも鈍化しているようだが「日中政府間の合意で需要以上に供給が増えたから」(平子裕志取締役執行役員)と不安視していない。むしろ、国内、国際の旅客に加えて3本目の柱として期待される貨物の不振が心配なところだ。ただ、グループ全体で見れば、好決算と今年のサミットや数年後に迫った国際スポーツなど大きなイベントが追い風となって、あるべき姿にまい進していける。売上高2兆円、営業利益2千億円という目標達成時期も25年から20年に前倒しした。そういった意味でも、今回の中期経営計画の達成に未来がかかっている。
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