富士通の田中達也社長が就任以来掲げてきた経営目標の一部を取り下げた。コア事業のテクノロジーソリューションに集中し、新たな時間軸で目標を設定し、さらなる成長を目指すことになった。その実現に向けて、年度途中での役員人事や人員シフトなど大掛かりな組織改革にも着手する。文=村田晋一郎
経営目標の見直しを表明した富士通の現状
田中達也社長の経営方針の根幹が揺らぐ
田中達也社長は2015年の就任時に「デジタル時代においてグローバル競争を勝ち抜くために必要な水準」として、4つの経営指標を掲げた。
具体的には、営業利益率10%以上、フリーキャッシュフロー1500億円以上、自己資本比率40%以上、海外売上比率50%以上であるが、これらを社長在任中に達成することが田中社長の経営方針の根幹であった。
しかし、17年度の業績を受けて、この5月には「ターゲットに至るプロセスについては、達成までの時間軸を見直す」とし、田中社長の在任中の目標達成を断念した格好となった。そして、経営方針の達成に向けたマイルストーンを含め、将来的な成長を見据えた具体的な対策を10月に発表するとしていた。
そして、10月末に開催された経営進捗レビュー説明会で、田中社長は4つの経営目標の見直しを表明。フリーキャッシュフロー1500億円と自己資本比率40%については、達成のめどが立っているとしながらも、海外売上比率50%は撤回、当面のKPIから除外した。
期待されたグローバルビジネスで苦戦
そもそも田中社長はグローバルビジネスでの経験が買われて社長に就任しただけに、海外事業を積極的に強化してきたが、それが頓挫した格好だ。
「海外事業は売り上げ規模を追うのではなく、顧客への価値提供により、強固な収益体制の確立を目指す」という。
また、営業利益率については、テクノロジーソリューション事業での目標に切り換えた。富士通の事業は大きく分けると、ICTサービスを展開するテクノロジーソリューション事業、パソコンや携帯電話などのユビキタスソリューション事業、半導体を中心とするデバイスソリューション事業の3つ。そして、田中社長は、「形を変える」ことと「質を変える」ことを打ち出している。
まず「形を変える」として、収益性の低いユビキタスソリューション事業、デバイスソリューション事業は、それぞれ分社化し独立性を高め、富士通本体はテクノロジーソリューション事業を本業として、経営資源を集中させた。
そして「質を変える」として、テクノロジーソリューションの事業内容を進化させ、成長を目指している。経営資源のテクノロジーソリューションへの集中が進んだことから、「形を変える」取り組みは一つのヤマを越えたとしている。
今回、営業利益率の目標をテクノロジーソリューション事業に限ることで、改めて富士通が勝負する領域が何かを内外に示すとともに、「質を変える」取り組みをさらに強化させていく構えだ。
そして、新たな経営目標として、22年度にテクノロジーソリューション事業で、売上高3兆1500億円、営業利益率10%を目指すとした。
ただし、ここでも海外事業の苦戦は否めない。テクノロジーソリューションでの22年度の営業利益率10%についても、国内事業で13%、海外事業で7%前後のイメージであり、まずは国内事業が成長をけん引する形となる。
富士通の構造改革と経営目標達成のシナリオ
国内では営業改革、グローバルでは商品開発に軸
では、新たな経営目標をいかにして達成するのか。
田中社長がまず挙げた施策が、国内ビジネスの営業改革だ。
富士通本体とグループ会社に分散している国内1万人以上の営業人員のリソースを重点分野へパワーシフトさせる。そして従来のアカウント営業に加えて、専門営業も強化する。
アカウント営業に専門営業を加えることで、事業部門とのシナジーをさらに高め、付加価値の高い提案・サービスをスピーディーに行っていく方針。専門営業は既に一部の部門で着手しており、20年度には1200人規模にまで増強するという。
次に「事業の強化」を進める。その基本方針として、「統一戦略によるグローバル商品開発」「自前主義からの脱却」「市場特性に合ったスピーディーなサービス提供」「グローバルに競争力のある人材の獲得・育成」を掲げた。
「統一戦略によるグローバル商品開発」については、世界の最適な場所で開発を行い、世界に通用する商品・サービスを生み出す。
第1弾として、AIの開発については、カナダのバンクーバーに本社機能を設置した。また、「自前主義からの脱却」については、テクノロジーにこだわるこれまでの開発姿勢を維持しながらも、有力なパートナーが有する商品やサービスを組み合わせて、高い付加価値を実現する。
具体的には、5Gネットワークおよび関連サービスの提供に向けて、スウェーデン・エリクソン社と戦略的パートナーシップの締結で合意。田中社長は、「市場の変化に対応するためには1社でやる時代は既に終わっている。富士通の持つ技術やサービスをどの企業と組めば最もシナジーが出るかということを考えた。期待できる関係になる」と語っている。
「市場特性に合ったスピーディーなサービス提供」については、各リージョンに事業部門や研究開発部門を戦略的に配置してニーズを適切に把握し、地域の営業部門と密接に連携していく。さらに「グローバルに競争力のある人材の獲得・育成」では、世界各地で多様な実践力のある人材を獲得していく。これらの方針に基づき、サービスインテグレーションや商品力の強化を進めていく。
役員人事の前倒しに表れる危機感
今回、こうした戦略を実践していく上で特筆すべきは、19年1月1日付の役員人事を発表し、組織の大改革に着手することだろう。
現在、富士通の代表取締役は田中社長に加え、谷口典彦氏と塚野英博氏の両副社長の3人。今回、谷口副社長が退任し、代表取締役は田中社長と塚野副社長の2人体制となる。代表取締役3人体制を敷いたのは、17年6月の株主総会だったが、わずか1年半で改めることになる。
さらに執行役を現在の執行役員常務以上とすることで、役員数を半減させる。これにより、事業責任を明確化させる方針。なお、代表取締役を含むと、役員数は60人から26人になるという。加えて、富士通研究所、富士通マーケティング、富士通エフ・アイ・ピーなど関連子会社のトップも次々と交代する予定。
富士通では、こうした役員人事を例年は4月に行っている。今回、年度の途中である1月にあえて前倒ししたことは異例であり、ここに田中社長の強い危機感が感じられる。
また、リソースシフトの一環で、20年度までにグループ全体で5千人規模の配置転換を行う。対象となるのは、総務や経理などの間接部門。富士通ではグループ全体で間接部門は約2万人に及び、4人に1人が配置転換されることになる。
配置転換に際しては、研修を通じて営業職やシステムエンジニアとして育成し、ITサービスなどの成長分野を強化するという。研修を行うとはいえ、全く異なる職種への配置転換となるため、対象者の適応は容易ではないだろう。富士通側でも研修期間は半年としているが、事業に貢献できるのは1年後と見ている。なお、配置転換後の仕事に合わない社員に対しては、転職を支援する制度を提案する可能性もあるという。
単に事業の強化だけを考えれば、営業職やシステムエンジンニアを労働市場に求めるほうが即戦力の人材を得られる可能性は高い。しかし、一気に5千人の人員削減を行うとなると、企業側にもダメージは大きい。富士通としても、配置転換でなんとか乗り切ろうとしているところに苦悩が感じられる。
改革の結果次第では田中達也社長の求心力にも影響
今回の改革は、大掛かりな人員シフトとなるため、富士通側も成果が表れるのは、20年度前半からと見ている。
今回掲げた22年度の経営目標に対するマイルストーンでは、18年度と、19年度の業績はほぼ横ばいになると見ている。売上高は3兆円前後で推移するが、営業利益率については18年度の4%、19年度の5%から後半加速型で22年度に10%まで引き上げることになる。
それだけに気になるのは、田中社長の求心力だ。就任時の経営目標を取り下げた上、新たに設定した目標も現実的とは言えるがトーンダウンした感は否めない。今回、22年度に目標を設定したことが、そこまで社長を続けるというメッセージであるならば良いが、それは明言されていない。
また、目標達成までのマイルストーンで20年度、21年度の具体的な数値は明らかにしていない。前任の山本正已会長の5年の任期に倣うならば、22年度を前に退いてもおかしくない。
今回の新たな目標の達成に当たっては、20年度、21年度の飛躍がカギとなるだけに、田中社長自身の動向にも左右される可能性がある。
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