経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

「頼まれた仕事だけでなく頼まれなくても手を挙げる」―小堀英次(コンビ社長)

小堀英次・コンビ社長

ベビー用品大手のコンビに新社長が誕生したのは今年1月のこと。新社長の小堀英次氏は昨年副社長になったばかりだったが、社内の誰もが「次は間違いなし」と見ていた本命中の本命だった。ある意味順当な人事だが、小堀氏の何が万人を納得させたのか。聞き手=関 慎夫 Photo=横溝 敦(『経済界』2021年11月号より加筆・転載)

小堀英次・コンビ社長プロフィール

小堀英次・コンビ社長
(こぼり・えいじ)1966年埼玉県で誕生。1989年3月筑波大学第二学群日本語日本文化学類卒業。1992年8月商社とベンチャーを経てコンビ入社。2001年5月内部監査室室長。2002年6月COMBI ASIA LIMITEDマネジャー。2009年4月ベビー事業本部プロダクトセンター第2商品開発室長。2013年4月ベビー事業本部マーケティンク゛室長。2015年8月経営企画室長。2016年1月執行役員経営企画室長。2019年1月執行役員ベビー事業本部ベビー営業部長兼マーケティング室長。2020年8月執行役員副社長。2021年1月コンビ社長

新人営業マン時代にコンビで売り場を占拠

―― 小堀さんは1月に社長に就任しましたが、途中入社組ですね。

小堀 大学卒業後、商社に2年、それから日本語教育のベンチャー企業に1年いて、それからコンビです。

 もともと高校・大学時代から異文化交流に興味があって、外国人向け日本語教師になりたいと思っていました。ただ、資格の問題などもあり、大学卒業後は海外とのやり取りの多い商社を選びました。でもやはり日本語教育に携わりたいとベンチャー企業に転じたのですが、結論から言うと、当初描いたプランが現実のものにならなかった。そこで再就職のために人材紹介会社に登録したところ、紹介された1社がコンビでした。

 それまでメーカーで働くことは考えてもいませんでしたが、逆に興味が湧いて、どうせなら新しいことをやってみようと思って入って今日にいたっています。

―― メーカーの仕事はいかがでしたか。

小堀 最初の配属はベビー用玩具の営業です。0歳児から3歳児用玩具を小売店さん、特に百貨店や代理店さんにセールスする。

 小売店さんでは、いかに自社の陳列を増やすかが勝負です。担当の課長さんやフロア長さんと話をし、一緒に売り場をつくるのですが、すべての棚をコンビ商品で占めたこともあります。営業はリレーションやコミュニケーションが大事です。売り場によっては課長より現場の派遣のおばちゃんが力を持っていたりする。それを探って、おばちゃんの休憩時間にシュークリームを買っていき、一緒に食べる。そんなことをしながら信頼関係をつくり、相手から任せてもらえるようになる。商品を売るのではなく自分を売る。これこそが営業の醍醐味です。それを2年続けました。

―― 2年ですか。醍醐味を知ったらもっと続けたくなりませんか。

小堀 飽きっぽいんでしょうね。やれることはやったような気がして。続けることもできるけれど、同じことの繰り返しより違う仕事をしたいなと思い、社内アンケートでマーケティングをやりたいと書いたらOKが出ました。

 メーカーに入ったのだからモノづくりに携わりたいと思っていました。マーケティングは商品ラインナップやプロモーションを考えるわけですが、他社ではこういう分野が売れているのでうちも参入しようと提案したり、プロモーション方法を設計したり。これも2年やってからトイ開発部門ができるのでそこに移り、5年間です。つまり最初の9年間はずっと玩具関係です。それから内部監査に転じました。

―― 社内からうとまれる部署です。嫌じゃなかったですか。

小堀 異動が嫌だというのはなかったですね。内部監査も面白かったですよ。何が面白いって、社内のすべてを見ることができる。資料も出せと言えば全部出してもらえる。最初の1年間で一通り社内を見て、2年目は何をやろうかと思っていたら、香港で購買をやれという。

コンビのベビー用玩具
小堀社長のコンビ人生の原点であるベビー用玩具

仕事を知るためにどんな仕事も引き受ける

―― 香港に拠点があるコンビ・アジアのマネジャーですね。

小堀 生産拠点を中国に移したのですが、最初は日本から部材を調達していました。これをコストダウンのために中国製に切り替える。その調達先を開拓するのが仕事です。使われる部材は200ほどあります。高品質な部材をコストを抑え、安定的に仕入れる。いわゆるQCDを徹底しました。香港にいるのは週末だけ。あとは中国本土でいろんなメーカーを訪ねて歩きました。

 任期は2002年から09年まででしたが、中国がものすごい勢いで成長していた時期です。香港から深センに入る、さらにその奥は道路も舗装されていない、まだそんな時代でした。最初は品質的に問題も多く、こちらの要求に応えられないことも多かった。でもそれが年々、調達できる部材が増えていく。技術的にむずかしそうなことでも、メーカー1軒1軒に声を掛けていく。時には日本から技術者も呼んで、教えたこともありました。

 香港最後の年は、当時「チャイナ+1」がさかんに言われていたこともあり、中国以外の生産基地の選定も担当しました。ベトナム、カンボジア、タイ、ラオス、ミャンマーなど、東南アジア各国を1人で回って、土地を探してトップにレポートを提出する。これを1年続けました。それが今のカンボジア工場につながります。

―― 帰国後は第2商品開発室長に就任しています。

小堀 当時のコンビはあまりヒット商品が出ていませんでした。開発部隊が企画設計して、初めて部材調達です。最初の開発の狙いがずれていたら、何をやっても売れません。購買をやったからこそ、それがはっきり見えていた。そこで開発の担当になりました。その後、マーケティング室長を経て、経営企画室長となり、1年後に執行役員に就任しました。

―― 経歴からも、やがては経営の中枢に座るためにいろんな経験をさせようという配慮がうかがえます。

小堀 どうでしょうね。異動の時に、上から人事の狙いを聞いたことはありませんから。もちろん手を挙げて異動したこともありますが、そうでなければ、前任者が退職したり、事業拡張でポストが空いたとか、いろんな事情があります。そのタイミングで声がかかるのは最終的には縁としかいいようがありません。

 ただ私は新しいことが大好きなので、いろんなことをやらせてもらえるのは大歓迎ですし、それが今全部生きてます。

―― もうかなり前から、次は君だ、と言われていたのではないですか。

小堀 ざっくばらんに言えば言われてました(笑)。

―― もともと社長になりたかった?

小堀 それは全くありません。ただ、やりたいことをやるには全体を見なければだめだとは前から思っていました。最初の営業の時にマーケティングをやりたかったのも営業にはマーケティングの視点があったほうがやりやすいと思ったからです。

―― なりたいと思ってなかったとしても、自分が社長だったらこうするのに、とは思っていたでしょう。

小堀 社長になったらではなく、全体のことを考えるならこうするべきだとは、常に考えています。それを知るためにも、いろんな仕事をやりたかった。役員になってからもいろんなことをやりたくて、経営企画の時は総務とITとアフターサービスも担当したし、その後も営業部長をやりながらロジスティクスなどいろんな部門を担当しました。人からは「お前は担当を持ち過ぎだ」と言われましたけどね。

将来の目指す姿は感動ナンバーワン企業

―― なぜそんなに引き受けるのですか。そうしたからといって給料が2倍になるわけではないでしょう。

小堀 給料のことなど考えたことがありません。面白いからやっている。ただそれだけです。営業やマーケティングをやっていた頃は、毎日終電まで仕事をして、土曜日も出勤していました。それでも終わらないほど仕事があったし、その仕事も面白くてしかたなかった。だから全然辛くはありませんでした。

―― 以前から社長的視点で仕事をしていたということですが、社長になった今、何をやりたいですか。

小堀 今までもやりたかったことの大部分は、社長と相談しながらやってきましたが、今、真剣に考えているのは、少子化という非常に厳しい時代に、企業としてどうやって成長させていくかです。そのためにはよく言われることですが、既存事業の深化と新規事業をバランスよくやるに尽きます。

 既存事業であっても、新しい仕事のやり方を取り入れるなど、昨日より今日を、より効率的にしていく。それができれば、たとえ市場が小さくなっても、シェアを増やすことによって売り上げを伸ばしていくことも可能です。一方の新規事業は、そう簡単ではないですが、DXを活用しながら、新しいサービスができないか考えています。例えばベビーカーを売るのではなく、あちこちにおいて使う時に使用料をいただく。メーカーだからといって売ることにこだわる必要はありません。このようにさまざまな視点から新しい取り組みを始めています。

―― どんな会社にしたいですか。

小堀 新たな経営方針として打ち出したのは「感動創造ナンバーワン企業になる」というもので、全社員に発表、感動創造プロジェクトっていうのを立ち上げました。コンビは感動に満ちあふれた会社になる。これがコンビの未来をつくることにつながります。

 ベビーカーやチャイルドシートは毎年新製品が出ます。他社も出していますが、機能はそれほど違いません。でもそこを極端に追求するとお客さま不在のスペック合戦になってしまいます。これではお客さまを感動させることはできません。私の考えるに感動は「予想外の価値」から生まれます。予想外の価値は潜在意識の中にある。つまり自分自身が持っているものです。

 そこで3月から始めたのが感動投稿コンテストで、社員の感動体験をイントラネットに投稿してもらう。そして部署ごとに一番多く「いいね」を集めた人が部門MVPとなり、部門MVPの中から全社MVPを選定、表彰します。

 自分が感動したところは他人が感動する可能性が高い。それを突き詰めていき、それを自社の商品やサービスに当てはめれば、お客さまにも感動していただけるかもしれない。そうやってお客さま自身も自覚できていない潜在ニーズに応える商品やサービスを提供し続けていきたいと考えています。