【連載】経営者に知ってほしい「SDGsにおける女性のココロとカラダケア」(第2回)
私が大手航空会社で国際線客室乗務員として勤務していた20年ほど前は、女性が多い職場でありながら産休・育休に対する風当たりが強く、休むことへの罪悪感と退職を促されている気がしてならなかった時代です。育児を理由に仕事に支障をきたしたくない気持ちから、家族への負担や自己犠牲も限界に達し、娘が5歳になる時に退職をしました。ただ、現在も現役で乗務をしている同僚に聞くと、今では有休制度が充実して「ママさんCA」でもとても働きやすい環境になったとのことです。
時代とともに日本も遅ればせながら「女性活躍」「ジェンダー・ギャップ」「男女共同参画」という言葉が日常的になりました。女性の働く姿がイキイキと輝いている企業には風通しの良さと将来性を感じます。国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」にも、ジェンダー平等と女性のエンパワーメントの重要性が掲げられ、女性活躍が企業の持続的な成長と繁栄のカギを握る要素として捉えられるようになりました。この連載では、女性の活躍と健康についてクローズアップしていきたいと思います。
栗原冬子氏プロフィール
(くりはら ふゆこ)1971 年生まれ。青山学院大学卒業後、大手航空会社国際線客室乗務員として入社。チーフパーサー資格取得後、主にファーストクラスを担当。2002 年に退社し、在職中から興味のあったアロマテラピーの道に進み、2012年に(株)Bon22を設立後、公益社団法人日本アロマ環境協会理事に就任。健康管理士として企業、税務署、保健センター、公立小学校などで食育、健康、呼吸法などの講演も行い、ヨガ、ピラティスインストラクターとして企業の健康アドバイザーを務める他、香りの空間プロデューサーとしてホテル、クリニック、企業、イベントなどのオリジナルアロマも展開している。著書:『アロマテラピーレシピ事典永久保存版』(マイナビ出版 )他。
企業における女性の健康の現状
第1回では、女性の生涯のカラダの変化、またヘルスリテラシーと仕事のパフォーマンス力は比例している旨をお伝えしました。今回は、健康経営の現状や、今後の取組み例などをお伝えしていきます。
いくつかの上場企業の健康アドバイザーを務めている私のもとに相談に来る女性の症状は様々です。マスコミ勤務の30代女性記者は、男性と同じ環境下での業務から膀胱炎や精神障害を起こしています。月経中の勤務の際、自分がトイレに行っている間にネタ取りの機会を失って叱られた経験から、普段でも勤務中にトイレに行くのが怖くなり慢性の膀胱炎を発症しています。
その会社では、月経中、月経痛などという言い訳は効力がなく、他者にネタを取られたことは彼女の落ち度になってしまうのです。また、深夜であってもすぐに連絡が取れるようにするため、睡眠の質が落ち、ホルモンバランスが乱れて月経不順に陥ることで自律神経が乱れるのです。
このような身体的、精神的ダメージを受けている事実は同じ社内であっても当事者しか気づいていないのが現状です。相談できない上司、企業体質が彼女を追い込んでいます。
また、優秀な服飾デザイナーの20代女性は専門職としてエンターテイメントのショーの衣装などを手がけていましたが、コロナ禍でショーが全て中止になり失職し、飲食部門に異動になりました。接客という慣れない分野で才能を生かせないもどかしさから精神的に苦しくなり鬱と月経不順で悩んでいます。
私は彼女に瀬戸内寂聴さんが常々言っていた言葉を伝えました。
「生きるということは、死ぬ日まで自分の可能性をあきらめず、与えられた才能や日々の仕事に努力しつづけることです。たくさん経験をしてたくさん苦しんだほうが、死ぬときに、ああよく生きたと思えるでしょう。逃げていたんじゃあ、貧相な人生しか送れませんわね」。
企業が今すぐ取り組むべき3つの課題
世界的に見ても、国連が2006年に提唱した「ESG(Environment/Social/Governance)」のSocialや2015年に採択した「SDGs」にあるように、女性の社会進出は重要であると位置づけられています。
それでもなお、2021年の日本のジェンダーギャップ指数(GGI)は、世界156か国中120位、女性の自殺者数もコロナ禍が長期化した影響で増加しているのです。
生理妊娠・妊活、更年期など、女性特有の不調や悩みをサポートする体制が取れている会社はまだまだごく僅かと言えます。経済産業省によれば、PMS(月経前症候群)による労働損失額は4911億円と試算されており、健康経営を通じで女性の健康課題に対応し、女性が働きやすい環境の整備を進めることが、企業の業績向上に繋がると考えられます。
月経関連や更年期障害の症状についての相談など、健康診断やストレスチェックなどでは発見することの出来ない、女性特有 の「不調」にも向き合い、女性社員が働きやすい環境を整えることが急務であることは言うまでもありません。経営者や管理職もどのような対応をすれば良いか分からずに困っているケースが多いため後回しになっていた分野です。先進的な企業では、すでに施策を実行していますが、今すぐにでも始めるべき3つの課題を挙げました。
①ヘルスリテラシーの向上
男女ともに産業医や専門家による研修・セミナーで女性のライフステージと特有の病気などを学ぶ機会をつくることで同僚や部下への接し方を知ることができます。同時に女性自身の知識不足も解消しなくてはなりません。実は、ホルモン療法などで月経関連の症状を軽くしたり、治す治療法はあります。「月経関連症状は我慢するもの」「仕方ないもの」と思い込んでいる人が多いのです。
ある調査では、症状があっても治療を受けていない人は約7割に上っています。痛みがある場合は、背後に病気がないかどうか検査する必要もあります。 さらに、50代前後の更年期の体調不良で自分に自信が持てなくなり、昇進の機会をあきらめる人も少なくありません。5割の人が昇進を断念したと回答した調査結果もあります(2012年ホルモンケアプロジェクト調査)。
更年期の不調に対しても、月経トラブルと同様、症状を緩和するための「ホルモン補充療法」も婦人科で受けられます。しかし、日本ではホルモン治療に対する誤解や認知不足があり、この治療を受けている女性は諸外国に比べ、圧倒的に少ないのが現実です。
②相談窓口の開設
月経関連や更年期障害の症状について、対面・メール・アプリなどで気軽に相談できる環境を充実させます。最近は「フェムテック(FemTech)」という言葉をよく聞くようになりました。女性(Female)と技術(Technology)を組み合わせた造語です。デジタル技術を活用して女性の健康管理を支援する製品・サービスの総称で、月経、妊娠、更年期など女性に特有の心身の健康問題をサポートする製品・サービスが続々と登場しています。
③福利厚生の充実
マインドフルネスを取り入れた瞑想やヨガ、呼吸法などを毎日決まった時間に受講できたり、動画配信で好きな時間に見られたりすることで様々な不安要因を減らすことが可能になります。私がアドバイザーとして入っている企業では、YouTubeで独自の健康チャンネルを作り、毎週水曜日の就業前の30分はヨガの時間と決めて、全国の支店にも同時配信をして、自宅でも見られるようにアーカイブ配信になっています。
また、通常の健康診断やストレスチェックでは発見できない女性特有の不調に向き合うため婦人科検診の無償実施をお勧めします。
次回は、12/29配信です。