北部九州を主地盤に、四大都市ガスの一角を占める都市ガス事業を基盤とする西部ガスホールディングス。コロナ禍やガス小売り完全自由化など厳しい経営環境下で、危機感を共有し組織改革や多角化、国際戦略で生き残りを図る。
異端児の社長が全社の組織改革を断行
エネルギー業界は人口減少や省CO2対応など困難な経営課題に直面している。「さらにはガス小売りの完全自由化ですから、前例踏襲では先細りです。この時期でなければ私のようなタイプは社長になっていませんよ」と笑う道永幸典社長。
システム部門が長く、「王道」のガス営業の経験がないため2019年4月の社長就任の際、「異端児」と表記した地元メディアも。しかし、直後から「会社はきっちり変わる。多角化とグローバル化で夢のある組織にする」と明確なメッセージを社内外に発信し、組織改革を断行した。
新たな収益の柱を目指す不動産事業では、20年に不動産賃貸事業に供する不動産の新規取得、開発などの業務について西部ガス都市開発に機能を集約の上、事業拡大を推進。21年には全社的な組織改革として純粋持株会社体制に移行。福岡・北九州、熊本、長崎、佐世保の各地区で組織再編し、地域会社を設立した。
「地元に根差したサービスを柔軟に提供できるようになった。採用も独自で行い、今後10年を目途に完全独立採算制で黒字になるようにしたい」と述べ、「社員の意識は大きく変わった。持ち株会社体制で社員の魂を吹き込む『仏』ができた」と自信を示めす。
16年から始まった電力・ガス小売り自由化では電力会社等との激しい競争を展開。「当初は後手に回って忸怩(じくじ)たる思いだったが、今は多額の営業経費をかけて新規を得るよりも、コアな西部ガスファンを大切にする。組織の自己満足より利益を優先させる」と冷静に語る。
ロシアから北極海経由で砕氷LNG船、中国輸出も
21年7月、見慣れない大型砕氷LNG船が同グループの「ひびきLNG基地」に接岸した。ロシアのガス大手、ノバテク社からの天然ガス(7万トン)の初輸入だ。西シベリアで産出した天然ガスを北極海経由で輸送したもので、価格面で国際競争力のある同社との協業第一弾となる。
同年4月からは中国のジャスダ・エナジー・テクノロジー(上海)向けに、船からトラックにそのまま積めるISOタンクコンテナ(18トン積)を利用した天然ガスの通年出荷も開始。年間5・9万トンを見込んでおり、「石炭からのエネルギー転換を進める中国の天然ガス需要は当分衰えない。大きなビジネスチャンスだ」と語る。
いずれも国際戦略の推進を掲げる同グループの単独事業だ。
ただ、ロシア、中国とも事業のカントリーリスクは小さくない。「地理的に優位な同基地をアジア地域の天然ガス取引のハブとなるよう整備し、グローバルビジネスを推進する。リスクは承知しているが、それを受け止めてやり抜く覚悟」と揺るぎない。
低炭素が追い風に九電とLNG発電所計画
脱炭素という潮流は世界中で加速こそすれ止めることはできない。火を燃やせばCO2が発生するが、燃料によってその量は異なる。熱量を得るために排出されるCO2は石炭を10とすると、原油は7・5、天然ガスは5・5ほどだ。
「脱炭素は業界にとって大きな課題であり、ガス自体を脱炭素化するメタネーション実装に向けた取り組みなどを進めている。その移行期における低炭素という点では天然ガスはアドバンテージがある。企業が一足飛びに水素を採用することにはならないだろう。30年までは低炭素を実現するために天然ガスへの転換が増えるのではないか」
電力・ガスの小売自由化では競合関係にあった九州電力だが、共同で「ひびきLNG基地」の隣接地に天然ガス発電所の建設計画を進めている。効率のよい最新鋭の設備で、CO2排出量は石炭火力に比べおよそ半分を見込む
「これらの取り組みにより『ガスも売っている会社』への転換を加速させたい」と語る。
コロナ禍の休業要請や時短要請で一時は街の灯りが消えた。21年3月期の連結決算は飲食店やホテルなどを中心にガス販売量が大幅減となり、売上高は前期比6・1%減の1919億円。経常利益は39・5%減の45億円まで落ちこんだ。「コロナの影響は大きかったが、リモート活用で経費削減ができ、無駄な業務を把握できた。ぜい肉が落ち強靭な体力になった」と前向きに捉える。
今期の売り上げは4・2%増の2千億円を見込んでいる。
会社概要 設立 1930年12月 資本金 206億2,979万円 売上高 1,919億3,300万円(連結21年3月期) 所在地 福岡県福岡市博多区 従業員数 134人 事業内容 グループ経営管理 https://hd.saibugas.co.jp |