経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

実学を強みに学生起業家を育成 情報革命の実りを社会に還元―学校法人近畿大学

少子社会において受験生の支持を集め志願者数8年連続日本一を誇る近畿大学。民間企業の受託研究実施件数も4年連続1位と産業社会とも深く関わり、学生起業家育成にも力を入れる。それら注目の取り組みと実学の考えを伺った。

学校法人近畿大学 学長 農学博士・細井美彦
学校法人近畿大学 学長 農学博士・細井美彦(ほそい・よしひこ)

社会を鳥瞰的に捉える若手起業家育成に注力

 帝国データバンクの調査によると、西日本で最も多く社長を輩出しているという近畿大学。この強みを生かした「KINDAIサミット」は、学生たちがリーダーとして活躍するOBと接することで社会的思考を養うことができるイベントだ。

 「専攻する専門領域だけでなく、鳥瞰的に社会を捉えビジネスを考える機会を提供したい」と話す細井学長。学部の垣根を超えた教育システムを目指す学術施設「ACADEMIC THEATER」は500億円以上の費用をかけて設立。24時間利用可能な自習室、独自の図書分類「近大INDEX」に基づく書籍配列による図書スペースなど、学生がより主体的に学べる場を提供している。

 例えば世界初の完全養殖に成功した近大マグロなど、身近な事業化事例に触れられるだけでなく、ビジネスを具現化できるプログラムが年間を通して多数実施されている。

 「OKonomiアクセラレーションプログラム」は、近大発ベンチャー企業の創出に向けた起業支援だ。ベンチャーキャピタルや起業家など専門家による法人設立審査会で合格すれば、設立資金30万円が授与される。これまでに8件の法人が誕生した。他にも学生によるビジネスプランコンテスト、シリコンバレー発祥の起業家育成プログラム、若手起業家による起業マインド醸成プログラムなどを開催。外部から企業やビジネスリーダーを積極的に招き、起業の機会を創出している。

実学教育と理念に基づき産業社会の役に立つ大学に

 2025年には100周年を迎える。開校以来、「実学教育」を重視しながら社会の役に立つことを学問の意義とし、早くから産学連携に取り組んできた。最近では敷島製パンと共同で食品加工残渣(ざんさ)の再生可能エネルギー製造実験や、キリン、吉本興業、浜松市との連携による、笑いが脳や心の健康に及ぼす効果検証などを行っている。

 これらを加速させているのは情報だ。かつては世界をリードしていた日本の産業、そして大学教育にとってDXは再起のチャンスだと細井学長は語る。「情報革命の実りを社会に還元する最も有効なテーマが起業家育成。文理融合やリベラルアーツといった概念を形にしていく起爆剤となります」。学生が自身の専門領域を社会の中に位置付け、広い見識を取り入れながら社会課題を捉え解決していく経験は、未来を創る力になり得る。

 また、人のあり方にも着目している。「今、生産性から倫理性へ大きな価値基準の変化が起きている」と話す細井学長。単なる拡大成長でなく、農耕民族である日本人の得意とする集団的発展が期待される。より必要とされる人間性、ダイバーシティやコミュニケーションの学びは、建学の精神として脈々と受け継がれてきた「人格の陶冶」の再認識である。政治家として世直し世耕と呼ばれた創設者・世耕弘一の発信した倫理性を学生にあらためて伝えている。

「面白い実学教育」が将来を面白くする

 実学教育から得られる一つに、未来を見据える先見の力がある。政治家でもあった創設者が、あるべき社会の実現を志したように、大学も現状の先にある「あるべき姿」を起点に動いていくと細井学長は語る。

 「実学のベースも、ニーズ・ドリブンではなく、イシュー・ドリブンに変わりゆく社会。SDGsやESG投資は、人類の未来を考えた思索の実現を求めているように思います。実学はこれをどう具体化していくか。加えて、起こり得るリスクを含めて研究し発信していくことが、実学を重視する大学が担う役目です」

 細井学長は現代の情報過多な大学の教育に警鐘を鳴らす。例えば医学部では30~40年前の14倍の情報を学ぶという。「日本の大学がブレークスルーしづらい最大の理由は、過去の成功体験である情報を詰め込む教育にとらわれていること。多様化している現代の全ての情報を網羅しようとしても、消化し切れない」。

 そこで学生自身が心から面白いと思えるものをチョイスできる機会を提供している。「高い能力を持つことより、結局はモチベーションのある人が突き抜けていきます」。

 22年には情報学部を新設し15学部になる。「学びたい者に学ばせたい」。これも創設者の精神だ。「近大の4年間は、『キャンパスが面白かった』と言われたらOK。近大でなければあり得なかった『面白さ』を感じるチャンスを創ります」。

 コロナ禍の20年4月、細井学長はYouTubeを通じ、今だからできることに目を向けるよう学生たちに呼び掛けた。大きな危機に直面した時、体験を学びに変えるメンタリティは強い武器になる。明るく進んでいけるリーダーを輩出し社会をよりよくしたいと細井学長。「実学とはいろいろな価値観を見いだし、人生を豊かにすること」。学生にとって体得による学びは、社会という人生のネクストステージを前に大きなアドバンテージとなる。

大学概要
設立●1925年
所在地●大阪府東大阪市
学生数●33,350人(2021年5月現在)
https://www.kindai.ac.jp/