経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

システムの受託開発と新しい価値・サービスの提供で成長を加速ーデジタル・インフォメーション・テクノロジー 市川 聡

市川聡氏

業務系システム開発、組み込み系システム開発・検証、システム運用サービス、自社開発ソフトウエア販売・システム販売が主業務。売上高の約6割はビジネスソリューション、約3割はエンベデッド(組み込み)ソリューションが占める。DXの実現を加速するAI、IoT、RPAなどの進展で、ビジネス参入機会の増加と事業領域の拡大が続く。文=榎本正義(雑誌『経済界』2022年7月号より)

市川聡氏
市川聡氏 デジタル・インフォメーション・テクノロジー社長
いちかわ・さとし 1972年神奈川県生まれ。2000年明治鍼灸大学(現明治国際医療大学)卒業後、同大学附属病院鍼灸センター(現明治国際医療大学附属鍼灸センター)勤務などを経て、04年東洋アイティーホールディングス(現デジタル・インフォメーション・テクノロジー)入社、18年7月社長に就任。

時代を先取りした自社商品で売り上げ、利益アップに

 売り上げの約95%がソフトウエア開発事業で、約5%がシステム販売事業であるデジタル・インフォメーション・テクノロジー(DIT)。2021年6月期売上高は、144億4400万円、営業利益は17億2千万円で、11期連続増収増益を達成した。1990年代には、ITのさまざまな会社を立ち上げ、あるいはM&Aで獲得するなどして、今ではそれらの会社がカンパニーや子会社としてDITを構成している。

 「事業領域が広く、強固な収益基盤があることと、創業当初から継続投資をしてきた結果、ニーズを先取りした成長性の高い自社商品を保有していることが強みです」と市川聡社長は言う。

 コアのソフトウエア開発事業では、金融、流通、医療、自動車、通信など広範囲の業種をカバーしており、顧客のデジタル領域の課題・ニーズをプログラム開発で自動化、省力化し、解決する。運用サポート領域は、コールセンターサポート、インフラ構築・運用などをカバーし、新しいシステムを導入した顧客に対して、プロの見地から使い方を教えたり、実際に動かして、システムの運用をサポートする。他にも、システム基盤設計・構築など顧客の身の回りの問題を解決するサービスを展開している。

 現在、勢いがある事業としては、車載の自動運転、コネクティッドカーなどエンベデッドソリューション事業と、自社商品事業だ。

 オリジナルな自社商品のうち、主なものは4つ。ウェブサイトの改ざんを瞬間検知・瞬間復旧する「WebARGUS(ウェブアルゴス)」、働き方改革に貢献する「xoBlos(ゾブロス)」、電子契約のアウトソーシングサービス「DD-CONNECT(ディディコネクト)」、どこよりもセキュアでデザイン自由度の高いホームページ作成プラットフォーム「shield cms(シールドシーエムエス))」がそれだ。

 「現在、自社商品の売り上げは、全体の5%程度にすぎませんが、ここを成長させて10%以上となることを目指していきます。自社商品は利益率も高いので、この分野が成長することにより、利益へのインパクトは売り上げ以上に見込めると思います」

 この他、システム販売事業は、中小企業の経営支援基幹システム「楽一」があり、導入実績は2200社となっている。

権限委譲型の組織経営で自ら考えて行動する形に

 市川聡氏は、IT企業の経営者としては少々異色の経歴を持つ。DITの創業は82年。父親の市川憲和氏が横浜市で設立した東洋コンピュータシステムが始まり。聡氏は「父の圧が強かった」ので、別の道に進むため、明治鍼灸大学(現明治医療国際大学)で学び、同大学付属病院鍼灸センター、光泉なかたけ治療院に勤務する。しかし、父から福利厚生の一環として社員に鍼を打ってほしいという要請があり、最初は鍼灸師として入社した。その後、ホールディングス会社の経営で父から自身の右腕になるような動きをする人間が欲しいと、事業の手伝いを要請され、経営に携わるようになっていく。

 社長である父が高齢だったこともあり、ある時点から、数年後には社長になって経営を担うことになるだろうと思っていたという。役職も執行役員、取締役執行役員、常務、専務と歴任し、時間をかけて計画的に進められたので、内外に大きな混乱はなく、スムーズな事業承継が行えたとのこと。

 「父は自分が先頭に立って事業を進める力強い経営を行っていましたが、私自身は会社の規模も大きくなってきたこともあり、権限を委譲する形での組織経営を進めていくことが大事だと考えており、幹部に権限を与え、自身である程度考えて行動することを求めました。当初はこの考えが伝わらず、逆に私は経営者として意思がないように見られてしまい、不満を訴える人もいました。しかし、私自身の経営は、方針は出すが、それを実行・実現するのは幹部一人一人なので、自身でしっかり考えて動いてほしいと粘り強く伝え続けた結果、ようやく私の経営スタイルが浸透してきたと思います」

 権限委譲を具体的に示すものがカンパニー制だ。ビジネスアプリケーション分野において、金融業を中心に基幹システム、オープン系システム開発を行っている「ビジネスソリューションカンパニー」、車載機器などの組み込みシステムを中心に、制御系システム開発に特化している「エンベデッドソリューションカンパニー」、主に流通業、大手小売業を中心に、ECサイトや顧客向けサービスサイトなど、ウェブ系システム構築、保守を手掛ける「eビジネスサービスカンパニー」、システム導入支援、インフラ構築、ネットワーク運用管理など、顧客の最適なIT環境、サービスを提供する「サポートビジネスカンパニー」、関西地区を中心に中京地区などへの事業展開を行う「西日本カンパニー」、車載機器、スマートフォンアプリ、医療機器、通信インフラシステムなどのソフトウエア評価・検証業務を行う「クオリティエンジニアリングカンパニー」、愛媛を拠点とし、四国・近隣での地域密着型ビジネスを展開する「愛媛カンパニー」の7つのカンパニーが存在している。

 DITは先ごろ、現在の売り上げを3倍増加させるチャレンジングな目標、「DIT2030ビジョン」を発表した。売上高500億円、営業利益50億円、22年6月期から配当性向35%以上とするこのビジョンにより、これまでの成長を支えてきた事業推進施策をより強化し、M&Aも視野に入れ、自社の商品も強化して、事業基盤のさらなる拡大と新しい価値・サービスの提供を推進していくという。

 「厳しい市場の中で存在感を発揮するためには変化対応力が欠かせません。また、創業当初、一度給料遅配があったことを教訓として社員の生活を守ることを経営理念としていますが、今は上場企業として、従業員の生活をいかに豊かにしていくかに注力しています」

 2代目社長としての歩みも、今ではしっかり地に足がついている市川氏だ。

DIT社内風景
DIT社内風景
DIT本社
DIT本社