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格闘技や音楽イベントを超えるeスポーツの熱狂 谷田優也 ウェルプレイド・ライゼスト

谷田優也 ウェルプレイド・ライゼスト

コロナ禍で一段と盛り上がったeスポーツ。その活況ぶりはリアルイベントにも表れはじめている。2022年はアリーナ等の大規模施設で数万人単位の集客を成功させ、5千円以上するチケットが飛ぶように売れたイベントが数多くあった。そんなeスポーツ銘柄として、国内で初めて上場したのがウェルプレイド・ライゼスト。自身も有名なゲーマーだった谷田社長は、「好きの連鎖」が市場をさらに拡大させると自信を見せる。聞き手=和田一樹 Photo=山内信也(雑誌『経済界』2023年4月号より)

谷田優也・ウェルプレイド・ライゼスト代表取締役のプロフィール

谷田優也 ウェルプレイド・ライゼスト
谷田優也 ウェルプレイド・ライゼスト代表取締役
たにだ・ゆうや 1982年生まれ。東京都出身。IPコンテンツプロデューサーなどを経て、2015年11月に前進のウェルプレイドを設立。21年2月、eスポーツ・エンターテインメント企業のライゼストとの合併を経て、ウェルプレイド・ライゼストの代表取締役へ就任。22年、東証グロース市場へ上場。前身企業を共同で設立した、同社の代表取締役・髙尾恭平氏とは「ストリートファイターIV」をきっかけに知り合う。かつて渋谷のゲームセンターでは“ザンギエフ使いのアカホシ”としても名を馳せた。

eスポーツはIPビジネスの側面がある

―― ウェルプレイド・ライゼストはeスポーツに関わるイベントの企画・運営、プーイヤー・クリエーターの支援、自治体や企業のゲーム関連事業の支援という3つの事業軸を持っています。eスポーツ銘柄で国内初上場ということもあり、事業を説明する際に共通言語が不足していませんでしたか。

谷田 eスポーツが他の事業と少し異なって見える理由は、提供価値にあると考えています。これまでの多くのビジネスは、ニーズに合わせて必要なものを提供し、その対価を得る。

 ところが、eスポーツの場合、直接お金をもらうというよりも可処分時間を頂くようなイメージです。

 エンタメコンテンツが飽和し、個々人の趣味も多様になる中で、ビジネスでもインフルエンサーを活用する企業が増えました。それだけ人々の注目を集めること自体が価値になっているからです。そういった点で、実況配信やリアル大会で数十万という人を集め、多くの可処分時間を獲得できるゲームのコンテンツ力は、特に大きな可能性を秘めています。音楽や格闘技など過去のエンタメコンテンツを見ても、集客力や獲得時間が増えると市場が大きくなっていくのは自然なことです。こうした説明をすることで、われわれの事業の魅力を理解していただくことが多くありました。

―― eスポーツの事業としてはベンチマークする企業がほとんどない状況だったと思います。事業モデルはどのように構築していったのでしょうか。

谷田 参考にしたのはいろいろなスポーツ業界の歴史です。スポーツが確立し人気の興隆があるなかで、周辺にどんなニーズが発生していくかをゲームの世界に重ねながら想像していきました。私たちはeスポーツの総合商社を自称していますが、ここにはeスポーツに関連して発生するよろずごとを全てサポートする存在を目指すという思いを込めています。

 少し考えるだけでも課題はいろいろあるんです。

 例えば、契約している選手の年俸をどうやって上げていくか、セカンドキャリアをどう支援するか、コーチがしっかり食べていけるためにはどういう業界構造を目指すのか、スポンサーになる企業との理想的な関係性はどうかなどなど。そうした課題に私たちが応えることで、eスポーツに関わる全ての人の価値が向上することを目指しています。

―― eスポーツに関わる仕事と聞いてもややピンとこないのですが、ユニークな職種などありますか。

谷田 そうですね、なかなか他の業界では経験できない仕事がたくさんあります。イベント会社のようなイメージを持たれる方もいらっしゃるかもしれませんが、スキルセットは異なります。業界自体がすごい速度で発展しているので、続々と新しい人材ニーズが生まれています。

 例えば、サッカーの場合、ピッチをいろんな方向からカメラマンが撮影していて、状況に応じてスイッチングする仕事がありますよね。eスポーツの場合100人が同時に対戦していることもあるので、どこで面白いシーンが発生しているのか分かりにくいんです。だから、戦場カメラマンのように数人を現場に送りこんで、良いシーンを探りながら撮影をしてもらいます。また、ゲームタイトルの人気にも流行り廃りがありますので、どんなゲームが流行ろうが、どんな大会になっていこうが、常にベストな演出とルール作りができる人も必要です。

 結局eスポーツの仕事っていうのは、少し因数分解して考えるとIPビジネスの側面が強いんです。ゲーム会社さんが作っているゲームを使わせていただいて、イベントをはじめとするコンテンツをデザインするわけですから。

 もちろん、メーカーさんから直接大会運営の依頼を受けることもありますが、あくまでライセンスの許諾を受けてゲームIPを大事に取り扱っていい大会にすることが大前提です。そういう意味でも、他の業界のどこにも存在していないニーズに応えられる人材を集め、育ててきた組織の強さは、当社の武器だと感じます。

「好き」と「好き」が連鎖するファンの拡大がポイントに

―― 世界のeスポーツ市場は2024年に2千億円弱、国内も200億円弱まで成長するという調査も出ています。ビジネスとしてさらに盛り上がるためには何が必要ですか。

谷田 やっぱりどれだけ人々の時間を獲得できるエンタメになるのかが重要なポイントです。そのためには、プレーヤーが増えることはもちろん、それ以上にeスポーツのファンが増えることにこだわりたい。

 日本の場合、eスポーツのファンは毎年200万人ずつ増えていくと言われていて、24年には1200万人規模になると予想されています。これをどれだけ増やせるかが市場の拡大には重要なポイントだと思います。われわれも22年10月の決算では、売上高は20億5千万円、営業利益2億1100万円でしたので、各種市場規模の調査と照らし合わせればまだまだ成長の可能性があります。

―― ゲームって好きな人は好きかもしれないですが、興味がない人には縁遠いままではないですか。

谷田 これは事業を通じて実感していることですが、以前は興味がなかった人でもeスポーツを好きになる人が増えています。きっかけは「好きの連鎖」です。例えば、プロ野球選手やアイドル、お笑い芸人など、いろんな立場の人がプロゲーマーと一緒にゲーム配信をするケースが増えています。すると、自分の好きな人がゲームを楽しんでいる様子を見て、気付けば自分もゲームに興味が湧いている。サイバーエージェントの藤田晋さんは麻雀好きで有名ですが、きっとサイバーエージェントや藤田さんが好きで麻雀にはまった経営者の方もいると思いますし、その逆も然りです。そういった可能性がゲームにも同じようにあります。

 これから既存事業のコンテンツ制作は現在のイベントメインの形に限らず番組制作などにも展開できると思いますし、同様に選手・クリエーターの支援や、事業開発の事業も展開の余地がたくさんあります。次々と新たな展開が生まれるeスポーツ業界の経験値は当社が最も蓄積していますので、トップランナーとして動向に注目してください。