社員全員がマンション管理会社出身。これまで培ってきた圧倒的な知識・経験を生かして、状況に合わせた新しいマンション管理の在り方をアドバイスし、管理費の改善提案なども行う。“お客さまにとってベターな選択肢”の幅を広げるマンション管理の専門家集団の存在に注目が集まっている。文=布谷真侑未(雑誌『経済界』2024年1月号より)
廣居義高 ベタープレイス代表取締役のプロフィール
誠実な対応で信頼関係を構築していく
人々が多様な働き方や暮らし方を選ぶようになった昨今、その住まいとなるマンション管理の選択肢も多岐に渡るようになった。そんななか、「これまでの理事会運営方式に限界が来ている」とマンション管理のコンサルティングなどを行うベタープレイス代表取締役の廣居義高氏は、マンション管理運営の現状に警鐘を鳴らす。
代表的なマンション管理の業務には、マンションの点検、清掃、業者による設備点検の立ち合いなど、ハード面に関することが多い。他にも入居者からの相談や苦情の受付も行い、受け付けた苦情等の内容を管理会社に報告するなど、やることは後を絶たない。
しかし、こうした業務の管理をマンション管理組合から委託されれば、契約解除にならない限り長期的に一定の収入が得られるのがマンション管理業界だ。一度契約したら継続的に顧客から対価を得られるストック型のビジネスモデルのため安定しているといえる。
そんなマンション管理業界も、少子高齢化の日本においては「人手不足」と「築年数の古い高経年マンション」という危機に直面している。国土交通省のデータによると、2018年のマンションの世帯主の年齢は60歳代が27・0%、70歳代が19・3%で、その10年前の08年は、60歳代が26・4%、70歳以上が13・0%となっている。この10年で高齢者の割合が増えており、入居者が高齢化することで、管理組合の役員の成り手が減り、マンション自体の維持管理がきちんと行われないという問題が発生する。
さらに建物の老朽化が進むと、配管や給水設備、壁面の劣化、不具合の発生、耐震への不安が問題となる。これが空室率の増加につながり、廃墟化などが起こり、住民にとっても住みにくい環境になっていく。
併せて、人口減少によりマンション世帯層が変化すると共用部分の需要も変化してくる。リモートワークや共働き等の増加による生活時間帯の変化、賃貸化により多様な人種を住民として受け入れるなど、マンション管理業界も世の中の変化に柔軟に対応することが求められてくる。ベタープレイスは、こうした課題に直面したマンション管理組合の駆け込み寺として活躍の場を広げている。
業界オンリーワンの立ち位置確立を目指す
マンション管理会社に勤めていた廣居氏は50歳に差し掛かる時、「課題解決に直接的に役立つ仕事がしたい」「マンション管理組合の選択肢を増やしたい」と考え、管理会社側から管理組合側に立つという志を同じくする仲間とベタープレイスを設立した。
同社の特徴は、全社員が元管理会社出身であることだ。幅広い知識と経験の下、管理会社の有効性と管理会社の都合や思惑の両面を理解したうえで、管理組合の不利益を回避し、最適化していくことを支援している。
マンション管理組合の運営に外部専門家が必要とされる理由として、近年話題になっている「第三者管理方式」がある。第三者管理方式とは、外部の専門家に役員に就任してもらい、管理組合運営を任せる方法である。なぜなら、「専門家」と「管理会社」と「輪番制で選出される役員」で構成する理事会では、マンション管理の経験、知識、費やす時間に圧倒的な差が生じるからだ。その差が原因で管理組合側が不利益を被ることも度々ある。管理組合側に外部専門家がいることで、任期のある役員で運営する「管理組合」に継続性を持たせることも可能になる。
また、管理組合側に立つ専門家がいることで次に行うことが明確になり、管理会社との付き合い方や有効な活用方法のサポートもしてもらえることで、心理的な安心感が得られる。例えば、修繕工事の見積もり金額の妥当性の検証、その必要性など、管理組合側で判断するには、知見と時間が足りない部分を頼ることができる。金額の妥当性は時間と労力をかければ相見積もりの取得で判断できるが、必要性の判断は特に予防保全工事においては素人では難しい。
実際にマンション管理費用の25%値上げを要求されたが、専門家がいることで、最終的に値上げ前とほぼ変わらない値段に落ち着いたという実例もあるくらい、不足している知識を補ってくれる存在である。
他にも、管理会社を選ばずに利用できる理事会アプリ「理事会審議サービス【ベタープレイス】」をリリースしている。
これは、アプリ上で理事会審議を行うサービスだ。委託先の管理会社を選ばず、どこの管理組合でも、自主管理マンションでも利用できる。
このサービスは、管理運営上の理事会議題の発議に対して、関係資料の閲覧やチャットによる質疑等が行え、一定期間を定めての審議、決議を行える。理事役員は任意の場所から都合のよいタイミングでウェブ上での理事会審議に対して意思表示・議決権行使ができるため、集まって行う理事会のように時間や場所を拘束されることなく決議ができる。開催日の調整や会場が不要となり、理事会審議をスピーディに運営し、決議結果を自動的に保存して議事録の作成も可能である。
今まで「面倒臭い」「時間がない」と断っていた人たちが隙間時間で意見を言えるようになることで、自分たちが住んでいるマンションに対する興味関心の醸成にもつながっている。
こうした活動を通じて廣居氏はマンション管理の未来について、次のように語った。
「本来、われわれの仕事は永続的ではなく問題の解決を見届けたらそこで終了し、そのマンションから離れることがマンション側の経費削減にもなり、一番良いことです。管理会社への不満や課題解決のために『管理会社を変更する』のではなく、管理会社と管理組合の仕組みを再編しようとすることで『外部の専門家の活用』が広がり、第三者管理方式も選択肢として認知されてきました。マンションに個性や属性があるように、マンション管理にも理事会運営方式でも管理会社に全部委託する委託管理、外部専門家の活用による管理組合側の自立管理など選択肢を広げていき、業界の健全化に専門家集団として積極的に貢献します」
法人設立5年目。業界の習慣をアップデートしていくのは大変ではあるがやりがいはある。社内の人材育成にも力を入れている廣居氏のチャレンジはまだ始まったばかりだ。