経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

信頼の一丁目一番地は言行一致 お客さま本位の経営を徹底する 奥村幹夫 SOMPOホールディングスグループ

奥村幹夫 SOMPOホールディングス

中古車販売大手ビッグモーターの保険金不正請求や、企業向け保険料のカルテルなど、不祥事の続いたSOMPOホールディングスが、ガバナンス体制を大幅に見直した。これまで取締役会議長はCEOが務めていたが、今は社外取締役が務めている。それによって何が変わったのか。そもそもなぜこのような事態を招いてしまったのか。4月からCEOを兼務している奥村幹夫社長に聞いた。聞き手=関 慎夫 Photo=横溝 敦(雑誌『経済界』2024年9月号より)

奥村幹夫 SOMPOホールディングスグループCEO社長のプロフィール

奥村幹夫 SOMPOホールディングス
奥村幹夫 SOMPOホールディングスグループCEO社長
おくむら・みきお 1965年埼玉県出身。89年、筑波大体育専門学群卒業。同年、安田火災海上保険(現損害保険ジャパン)入社。2016年SOMPOケア社長。20年SOMPOインターナショナルホールディングスCEO。21年SOMPOホールディングス専務。22年4月1日、社長COO就任。今年4月1日、CEOに就任した。

不祥事に対して「そんなはずはない」

―― 奥村さんは2年前の社長就任時、本誌のインタビューに「SOMPOグループは祖業が保険事業。保険会社に求められるのは安定や信用。その特色は130年以上の歴史を通じて、企業文化や人材の気質にも浸透していると思います」と語っていました。ところが1月に出された金融庁の業務改善命令には、企業文化によってこの不祥事が起きたと書かれています。

奥村 就任時の文脈は、安定や信用を提供する企業文化はいいけれど、時代が変化する時には、そうした保守性や伝統性、安定性がむしろ弱点になるかもしれない、と言うことだったと思います。

 今回の一連の問題にしても、代理店さんの管理や支払い体制など、さまざまな問題がありますが、根底にあるのは、外部環境が大きく変わっていく中で、われわれ自身が変わりきれなかった、現状維持バイアスが強くあった。その中で、現場にいろんな負担や矛盾が起こっていたにもかかわらず、過度な忖度などもあり、タイムリーに声を出せない仕組みが出来上がっていたということです。そこについては真摯に反省しなければなりません。

―― 前CEOの櫻田(謙悟)さんが辞意を表明したのが今年1月、そして4月から新体制が始まりました。それなりの時間がたっていますが、まず何から手をつけましたか。

奥村 最初は本当に、何が起こっていたのか、何が間違っていたのか、そんなはずはないだろう、という思いでした。ただこれも、私自身の中にも現状維持バイアスがあったため。だから不適切な問題を理解できなかったのだと思います。

 それを踏まえて、二度とこのようなことを起こさない再発防止策を策定し、その次に企業文化を変えるための仕組みづくりやガバナンス強化に取り組みました。例えばアジャスター(事故調査員)が足りないという指摘があったので増やす。DRS(提携修理工場)に問題があったのであれば、それをやめる。さまざまなことに取り組んできました。評価基準も変えました。これまでは他社とのマーケットシェアを意識していましたが、その指標もやめました。

 日本の人口はどんどん減っていきます。車の保有台数も減る。さらにはテクノロジーがどんどん変化していく。このように環境が変われば、お客さまの価値基準も当然変わります。ビジネスモデルもそれに合わせて変わっていかなければなりません。それを繰り返すことで企業文化も変わっていきます。

 その一丁目一番地は、言行一致です。われわれはお客さまと向き合い、真のお客さま本位の業務運営を実現しようと考えていますし、社員にも伝えています。そして実現するにはビジネスモデルを変え、評価基準も変える。その姿を見ることで社員もトップマネジメントの本気度を信じることができると思います。

―― 逆に言うと、これまでは言行不一致のところがあったということですか。

奥村 報告書にはインテグリティ(誠実・真摯)についても指摘されています。これまでもSOMPOグループはインテグリティを大事にしてきました。ただ社員から見た時に、あるいは社会の目に映るSOMPOグループの姿は、言ってることとやっていることが違うと映っていたのかもしれません。実際、今回調査したところ、いろんな声が現場にはあった。それが上まで上がってこない。どこかで目詰まりが起きている。そこを変えて風通しのいい組織にしなければなりません。そしてそれを言うだけでなく、実際の行動で実現していく必要があります。

SOMPOの常識は世間の非常識

奥村幹夫 SOMPOホールディングス
奥村幹夫 SOMPOホールディングス

―― 一度染みついてしまったものを変えるには、一種の力業が必要です。具体的にどうやって変えていきますか。

奥村 SOMPOグループの方向性についてはすでに示しました。そしてそれがどういう意味を持つのか、グループ社員に理解してもらうために、タウンホールミーティングや10人前後のスモールミーティングを役員で手分けをして開いています。これを始める前には、役員間で意思の統一を図りました。変えるということを役員全員で約束したうえで、現場に行って双方向のコミュニケーションを図っているところです。

―― 変わりつつありますか。

奥村 私自身も出かけていますが、中心になっているのは石川さん(耕治・損保ジャパン社長)です。そして石川さんの言葉を借りれば、肌感覚はずいぶんと変わってきました。最初の頃の社員の反応は、自分たちは悪くない。経営の問題でありビッグモーターの問題だと。でもミーティングを重ね、グループ全体が環境変化に対して柔軟に対応できなかったという話を続けていると、社員の間からも「一緒に変えていきましょう」という声が出てくる。ネガティブで他責思考だったものが、一緒に新しい会社、新しい仕組みを作っていこうというポジティブな思考へと、少しずつ前向きになってきたかなというように思います。

―― ガバナンスもすいぶんと変わりました。これまで取締役会の議長役はCEOだったのに、4月からはりそなホールディングス出身の社外取締役・東和浩氏が務めています。

奥村 今期から新中期経営計画が始まりました。これを遂行するためにも信頼の回復は大前提です。そのためにも3月に提出した業務改善計画を着々と進めていきますし、ガバナンスの強化も必要です。そこで執行と監督の分離を明確にするために、東さんに議長をお願いしました。ボードメンバーは11人ですが(6月の株主総会で13人に)、うち9人が社外取締役です。私は取締役会で執行の説明責任を果たし、議長以下社外取締役が私を監督する。私は執行の説明責任を果たすと同時に、社外取締役の方々がさまざまな意見やアドバイスをするという形になりました。損保ジャパンでも、今までは社長が議長を務めていましたが、今は私が議長を、石川社長が説明責任を果たしています。

―― 執行と監督を分けたことで何か変わりましたか。

奥村 社外取締役一人一人から質問されることが多くなりました。それで感じるのはわれわれの常識はけっして世間の常識ではないということです。例えば中計を説明するにしても、「奥村さんは分かっているかもしれないけれど、その言葉の意味は何ですか。その言葉でグループ社員7万人全員が理解できますか」などといった指摘を頂きます。言われてみればそのとおりですね。

介護と老後資金に加え、顧客の健康にも寄り添う

―― 新しく策定した中計のもと、信頼を回復したうえで成長路線に乗せていかなければなりません。人口減少が進む中、どのような戦略を描いていますか。

奥村 国内は少子高齢化が加速します。でも目を世界に向ければ、人口は増え続けている。ですから成長を目指すには、やはり海外です。最大マーケットのアメリカの経済は今なお強い。今後はアメリカをしっかりと伸ばしていく。

 一方国内事業についても、海外事業を活用する。前回の中計では、コングロマリットプレミアムを出すことを打ち出しました。たとえば海外と国内の資産を一緒に運用する。あるいはキャピタルアロケーションを行っていくといったもので、これについてはある程度、結果が出ました。新しい中計では、ノウハウの共有に踏み込んでいく。ニューヨークのチーフアクチュアリー(保険料率・支払保険金額の算定をはじめとする数理業務を担当する専門職)を招聘して、日本のポートフォリオの分析をしてもらう。あるいは日本よりも何倍も生産性の高いオペレーションモデルが海外のグループ会社の中にあれば、それを持ってくる。このようにSOMPOインターナショナルと損保ジャパンのノウハウを融合させ学び合う仕組みをつくっていこうと考えています。

 もうひとつはウェルビーイングへの取り組みを本格化させます。これまでは生命保険と介護事業でお客さまをサポートしてきましたが、これからはお客さまの健康により積極的に関わっていきます。健康診断やフィットネスサービスのデータを活用し、健康になるためのアドバイスを行う。それで健康になれば保険料を安くする。このよう行動変容プログラムをつくり、お客さまの人生に伴走していきます。

 それでも介護が必要なケースも出てくるし、何らかの病気でお金が必要になるかもしれません。その時は、保険会社としての機能を発揮するだけでなく、保険、介護、ウェルネスのデータをつなぎ合わせることでシームレスなサービスを提供していきます。これによりお客さまの健康と介護と老後資金に対する不安を少しでも和らげていきたい。

―― ウェルビーイングについては保険会社はどこも力を入れています。第一生命ホールディングスがベネフィット・ワンをTOBしたのもそれが目的です。SOMPOも何か考えていますか。

奥村 新しい分野を充実させていくにはいろんな方法があります。パートナー企業との提携もそうですし、M&Aという方法もあります。われわれは今、政策株(持ち合い株)の売却を進めているので、それを利用することも可能です。その時々の最適な方法を選んでいきますが、こうした内容も新中計には盛り込まれています。

※このインタビューの後、SOMPOホールディングスはRIZAPグループとの資本業務提携を発表。SOMPOホールディングスはRIZAPグループ株式の4・87%を取得。さらには事業会社・RIZAPへの出資比率は23%となった。