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バスケクラブが拓く臨海地区の未来 林 邦彦 トヨタアルバルク東京

林邦彦 アルバルク

臨海副都心の中心地、江東区青海で民設民営の大型アリーナプロジェクトが進んでいる。アリーナの館主は、トヨタ社会人チームの流れをくみ、プロバスケットボールリーグ・Bリーグに所属するバスケクラブ「アルバルク東京」の運営企業、トヨタアルバルク東京だ。スポーツ企業はどんなまちづくりを進めていくのか。聞き手=和田一樹 Photo=横溝 敦(雑誌『経済界』2024年9月号巻頭特集「東京 終わりなき進化」より)

林 邦彦 トヨタアルバルク東京社長のプロフィール

林邦彦 アルバルク
林 邦彦 トヨタアルバルク東京社長
はやし・くにひこ 1964年10月30日生まれ、59歳。88年三井物産入社。2010年ベトナム三井物産有限会社理事副社長兼コンシューマー事業室GM、12年三井物産ファシリティーズ(現三井物産フォーサイト)取締役就任、16年よりトヨタアルバルク東京社長に就任。

元ホテルの支配人まで12人の精鋭で挑む

―― 来年秋に開業予定のアリーナを中心とした、お台場地区青海の開発プロジェクト「TOKYO A-ARENA PROJECT」にはトヨタ自動車とトヨタ不動産も名を連ねています。

林 プロジェクトの中心となるアリーナ、「TOYOTA ARENA TOKYO」を建設している土地はトヨタ自動車が保有しており、新アリーナの所有者はトヨタ不動産で、そのアリーナ全体の事業運営を担うのがトヨタアルバルク東京です。

 ただ、この役割分担を巡っては当初、意見が割れていました。われわれはプロバスケットボールの興行会社です。クラブチームとしての価値向上に経営資源を結集すべきではないか。そんな意見がトヨタ自動車からは上がっていました。

―― たしかに、同じく関東のBリーグクラブである千葉ジェッツも新アリーナが竣工しましたが、管理運営は別の会社が行う形です。あえてトヨタアルバルク東京が運営を担うことになった決め手は何ですか。

林 仮にホームアリーナの運営を別会社が担ったとします。もし大物アーティストのライブとアルバルク東京の試合が重なった場合、ライブの方が2倍のフィーを得られるとなれば、どうしてもそちらを優先するでしょう。運営会社はアリーナ事業の業績責任を負っているので、本来はこれが当然の判断だと思います。

 一方でプロスポーツ事業においてクラブ価値を向上させるためには、チームとアリーナとの一体経営が最善策であると考えています。自らの描いたテイストにバスケットボールの試合を仕立て上げられることで、来場者数、ファン数の向上、そして競技面においても優位性を発揮できるからです。その意味で運営企業がアリーナの運営まで手掛ける意義は非常に大きいのです。

アルバルク TOYOTA ARENA TOKYO
アルバルク TOYOTA ARENA TOKYO
アルバルク TOYOTA ARENA TOKYO地図
アルバルク TOYOTA ARENA TOKYO地図

 新アリーナでは、パラ、障害者スポーツ含めさまざまなスポーツイベントや音楽ライブ、MICE等も開催する予定です。実際に新アリーナで行われる演出について直に現場で見聞きすることで、ノウハウを自分たちの組織の中に蓄積しバスケの試合でも生かしていくことは、運営事業者であるからこそできる。当然バスケチームとしてのレベルを上げていくことは最重要事項ですが、アリーナの運営会社という立場からもバスケの試合のクオリティーや新たなサービスモデルを付加していくことで、これらが一体化して大きなバリューとなり、素晴らしい観戦体験を生み出せると考えています。

 ちなみに、TOYOTA ARENA TOKYO は、オーバル状(楕円)の配置計画を採用しています。約1万席あるシートのどこからでもコートに正対して観戦ができ、見やすく一体感を生み出せるような設計にしています。シンプルな四角い構造にするよりも建設費はかさみますが、スポーツ観戦をする上では間違いなく体験価値は高まると思います。こうしたこだわりを実現するためにも、運営事業を担い意思決定の権利を保有する価値は大きいわけです。

―― アリーナプロジェクトにはどんな人材で挑んでいるのでしょうか。

林 面接に面接を重ねて、専門性が高い人材を12人集めました。大型コンベンションセンターの運営会社やスタジアム専門の椅子メーカー、芸能プロダクション、広告代理店、内装の総合プロデュース会社など、多彩な企業から人を集めています。

 他にも、アリーナでは食事を提供するなどホスピタリティーも求められますので、元ホテルの支配人もいます。

―― 幅広いバックボーンを持つ人々を惹きつけた理由はなんですか。

林 コンサートを中心とする多目的ホールのプロジェクトは多くありますが、スポーツが中心となり、かつ首都東京に所在する価値と将来性に魅力を感じてくれた部分はあったかと思います。

 なにより東京というエリアで1万人規模のキャパシティを持つ民設民営アリーナのプロジェクトは、極めて希少で最初で最後かもしれません。また、エンターテインメント事業において、臨海部という地域に潜在的な魅力を感じてくれたことも大きかったはずです。

複合資本で協力し輝くエリアを作る

―― 「クラブにとって」アリーナを運営する意義はよく分かりました。では、「その地域にとって」スポーツ企業が再開発に携わるメリットをどう考えていますか。

林 「青海エリアにとって」という意味では、われわれが開発に携わることで新たな価値を提供できると思っています。というのも、青海エリアは土地の活用に関して大きな制約が存在しているからです。青海から少し視点をずらして豊洲を見ると、タワーマンションが林立しています。でも、青海には高層ビルがない。それは、飛行機の航路に近い地区であることが影響しています。

 また、元来青海地区は臨海副都心計画のシンボルとなる地区でもあり、賑わいと集客力のある交流エリアとして業務・商業機能を中心とした街の形成を目的としていたので、まさに今回のアリーナ計画はそのコアをいくプロジェクトであるとの自負をもって取り組んでいます。

―― 東京都、江東区のバックアップは十分ですか。

林 自治体は公平性にも配慮することが強く求められますので、正直申せばここまで紆余曲折がありました。ですが、現在は港湾局を始めとする東京都の方々も江東区の方々も、とてもサポーティブです。

 アリーナ建設というのは、関連する条例が多くあります。もちろん、できないことはできないのですが、杓子定規に「ダメです」で終わらせず、ではどうすればできるようになるのか、それを一緒に考えていただいています。例えば、冒頭で土地はトヨタ自動車が保有していると言いました。もともと東京都から払い下げを受けた際に、何の用途で使用するのか使途制限もかかっています。今回のアリーナ建設にあたっては、条件内ではありましたが、街の価値向上の為、同じ目線で種々サポートを頂きました。そういった意味でも、もはや自分たちだけのプロジェクトではないですし、いろいろな期待を背負っているのだと痛感しています。

―― プロジェクトが進んでいるエリアは人気複合施設だったパレットタウンの跡地でもあり、特別な記憶を持っている人もいます。改めて、どんなエリアを目指していきますか。

林 まず私たちのアリーナが輝くことも必要だと思いますが、なにより複数の輝きを結集することでより大きな輝きを作りたいと思っています。

 例えば、有明地区では、テレビ朝日グループが手掛ける複合型エンタテインメント施設「東京ドリームパーク」が26年春に開業を予定していますし、コナミグループの次世代研究開発拠点「コナミクリエイティブフロント東京ベイ」も25年に竣工を予定しています。同じエリアに関わる企業間で相互にPRや送客をするような連携を模索する準備をしていますので、企業の垣根を超えた複合資本ではありつつも、エリアが一つのテーマパークみたいになれば一体感も出て面白いですよね。豊洲や晴海のマンションに住む家族連れの方々が、日常を離れてエンターテインメントを楽しむ、そんな憩いの場になれたらいいなと思っています。

 また、先ほど言ったように青海は高層ビルが林立する可能性が低いエリアですので、ゆりかもめからも航路からも高速道路からもレインボーブリッジからもよく見えます。新アリーナはビーコンのようにその周辺に光を当てるような存在となりたいと思っています。ツーリスト会社とも連携してこの地域が東京の名所になれたら、将来的にも大きな発展を遂げられると思います。

モビリティの力で距離を一気に縮める

―― 晴海、豊洲、有明、青海は同じく臨海地区ですが、一帯をひとくくりの観光エリアに見立てるには、少し移動が不便な気もします。

林 そこはトヨタ自動車のモビリティ技術を活用することで、楽しくかつ物理的な距離も縮められることができないかアイデアを練っているところです。研究開発の進み具合や各種法規制、インフラ整備など複合的に関わり合う要素が多いので、来年、再来年に実現しますというのは難しいかも知れません。ただ、こうした構想自体をエリアの再開発に織り込めるのは、モビリティカンパニーが加わっている強みであり、一般的なデベロッパー主体のプロジェクトではできないことです。新アリーナのオープンは2025年秋です。オープニングでは、その時点で形にできる技術を一気に詰め込みたいと思っています。そこから徐々にイメージを広げていき、行政周辺施設の方々とも連携しながら、新しいモビリティサービスの形を提案し、街の賑わいに貢献して、大きな飛躍につなげていきます。

 施設などのハードは完成した瞬間から老朽化が進み減価償却の発想になりますが、運営ノウハウや演出、観戦環境の改善、ホスピタリティーなどのソフトは磨き込むことで逆に価値を向上させることができます。われわれは新アリーナのコンセプトとして「サステナビリティ」を唱えていますが、それは環境面の話だけではなく、継続して建物の価値を保つことも意味しています。チームと運営の一体経営により、今までにない価値創造に邁進していこうと考えていますので、どうか楽しみにしていただけたらうれしいです。