石渡英敬氏はプルデンシャル生命保険のライフプランナー(営業社員)として、オーナー経営者の事業承継対策や相続対策にも多く関わってきた。自身も実際に事業承継の渦中で、祖父が立ち上げたスーパーマーケットを設立55期目にして第三者承継する過程を見てきた。オーナー経営者が注意すべき点やポイントを解説する。(雑誌『経済界』2024年11月号巻頭特集「あなたの会社は誰が継ぐ?」より)
目次 非表示
承継後に発覚する遺留分や相続税の問題
私の実家の会社は、親族承継することができず株ごと売却したため会社そのものがなくなりました。結果的に家族が幸せになれる選択でしたが、親族承継できた会社の中にも想定通りにいかず、お金や人間関係の面で悩みを抱えているケースが多く見受けられます。ここからは、オーナー経営者が事業承継で陥りやすい失敗や問題点を見ていきます。
まず、「株を手放せば事業承継対策が完了する」と思い込んでいる方が多いですが、これは「勘違い」と言わざるをえません。特に、親と後継者との間だけで事業の承継や遺産の相続について決めてしまうと、あとから思わぬトラブルに発展する場合もあります。
例えば、遺留分権利を主張してくるきょうだいがいたり、それに対応した結果生じる想定外の相続税などです。遺留分とは、法定相続人(きょうだい以外)に最低限保証された遺産取得分で、「最低でもこの割合だけは遺産を取得できる」と主張できる受取分のことです。遺言や生前贈与では、自分の財産を誰に・どのように相続させるかを決めることができます。しかし、その内容が遺留分を侵害している場合、法定相続人は遺贈や生前贈与を多く受けた人に対して遺留分侵害額請求をすることができます。せっかく税金の対策をしていても、けた違いに大きな遺留分の問題に発展してしまうことがあるのです。
難しいテーマなので、身近にいる顧問税理士や、知人に紹介された専門家に任せきりになるケースも見受けられますが、相談相手選びは慎重に進めることが肝心と言えます。
近年、事業承継を請け負うコンサルティング会社やM&A企業が増えていますが、選択肢はそれだけではありません。われわれライフプランナーは、当事者が亡くなった後、その方のご家族に保険金をお届けする仕事をしているので、ご相談いただいてから亡くなるまでの間はパートナーとして、ご家族や会社の方々とも関係を築いていきます。
医者で例えると、ライフプランナーは長くお付き合いしていくかかりつけ医師、M&A企業はスパッと手術をしてくれる執刀医のようなものかもしれません。ですので、どんな手術を受けたらいいかが明確であれば、初めから執刀医に相談するのがいいかもしれませんが、そのようなケースは稀だと思います。
そもそも、親族の中で世代を超えて、事業をうまく承継できるのは当たり前のことではなく、むしろ奇跡的なこと、と捉えてみる。そうすれば、後継者や継がない相続人それぞれが権利を主張しあうことを避けて、親族で力を合わせて事業を承継させていこう、という機運を高めていくこともできるのではないでしょうか。仮に事業の後継者が親族の中で見つからなくても、だからM&Aだ、と決めるのではなく、ほかの事業での生き残りを図ることも選択肢と言えるでしょう。
事業承継は、税金などの「カネ」の対策に目がいきがちです。しかし、親族での承継、第三者承継、いずれにしても、「ヒト」から「ヒト」へのバトンタッチです。「ヒト」の対策として、良き相談相手を見つけていくことが対策のカギではないでしょうか。(談)
文=萩原梨湖