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ゲーム研修と研修内製化で企業のエンゲージメントを高める 高橋興史 カレイドソリューションズ

高橋興史 カレイドソリューションズ

スキルやモチベーションのアップに欠かせない研修だが、「つらい」「たいくつ」「行かされる」と思う社員も少なくない。最近では、研修にゲームの要素を取り入れることが増え、そのイメージも変わってきた。そんな中、ゲームを用いた「ゲーム研修」による「研修内製化」に取り組んできたカレイドソリューションズが注目されている。文=井上 博(雑誌『経済界』2024年11月号より)

高橋興史 カレイドソリューションズ代表取締役のプロフィール

高橋興史 カレイドソリューションズ
高橋興史 カレイドソリューションズ代表取締役
たかはし・こうじ  サービス業・商社・コンサルの経験を経て、カレイドソリューションズを創業。研修内製化を事業領域とし、ゲームを強みとするなど、独自のポジショニングの事業を展開。面白さと有用さの共存する研修を多数開発。

企業の研修として注目される「ゲーム研修」

 ソフトバンクが研修で採用する「マネジメントゲームMG」や、交渉力が身に付くとIT業界で人気のボードゲーム「カタン」など、研修やスキルアップにゲームを活用する事例が増えてきた。

 「ゲームの研修利用は、1970年代にマネジメントゲームの源流となったボードゲーム『プレイボス』がドイツで生まれ、日本で類似のゲームが『ビジネスゲーム』として活用されはじめました。95年に同じくドイツで、ゲームの潮流を変えたと評価されるボードゲーム『カタン』が発表されて以降、ボードゲームは様変わりしました。新しい設計と仕組みを持つゲームが次々と発売され、研修への応用可能性も広がりました」と、説明するのは研修内製化を手掛けるカレイドソリューションズの高橋興史代表取締役。

 ボードゲームは、サイコロの出た目で進む運任せという単純な内容が様変わりし、ボードゲームでありながら、複雑な内容を表現するものが増えてきた。ゲームの複雑さを設計の工夫で簡単に表現したり、ルールをすぐに分かるようにしたりと進化している。10年以上前に『ゲーミフィケーション(ゲーム化)』という言葉が流行ったときは、ソーシャルゲームがゲームの力で射幸心をあおるとして批判もあったが、今は単なるお金儲けの手段を超えてゲーム本来の楽しさ・没入感を高める仕組みとして、企業研修でも効果を上げている。

 「研修でよくある『つらい』『たいくつ』『行かされる』といった否定的イメージを払拭するためにゲーム研修を採用する企業が増えています。しかし、ゲームを安易に用いて『ゲームなら楽しいだろう』、『何でも解決できるだろう』、『何かに気づけるだろう』と、学習目標の達成という研修の基本を見失っている企業も少なくありません。学習目標の達成には、目的に合った手段が必要ですが、企業が求める目的に合った手段が市販されているとは限りません。そうなると開発するしかないのです」と、高橋代表はゲーム研修の難しさを説明する。

 となると、外部の研修会社に頼りたくなるが、研修会社だからといってゲーム開発ができるわけではない。ほとんどがマネジメントゲームだけ、コミュニケーションゲームだけと、ひとつの分野のひとつのゲームしか取り扱わないことが、ゲームを開発することの難しさを示している。中には「カタン」以前の設計の50年以上前のゲームをいまだに用いる会社もある。高橋代表は、ゲームの持つ要素や学習効果を研究し、さまざまな企業ニーズに対応できるモジュールを作ることでこうした課題を解決した。

 「良いゲームを作るのと良い研修を作るのは別物です。研修には講義やワークなど、それだけで学習効果を出せるものがあります。それらにゲームの要素を加えていくのがポイントですが、それが研修会社にも社内の人材開発部門にも難しいのです。ところが世界には、ゲームの要素の参考となる素晴らしい設計や仕組みを持つゲームがたくさんあります。私は、2008年から数年で200種類以上のゲームを購入し、東京大学で学習を専門とする大学院生と夜な夜なゲームの研究に没頭しました。実際に遊びながら、面白さや楽しさ、そして続けたい、学べたと感じさせる設計や仕組みを研究し、そこから気づきなどの学習効果を得られる要素を抽出しました」

 高橋代表は、講義・ワーク・ゲームを問わず、小さなモジュールを作って、それらをそのまま、もしくは組み合わせて研修を設計するノウハウを持つ。モジュールの組み合わせと、モジュール化されていないものの絶え間ない開発を積み重ね、企業の課題解決につながる研修を提供すれば、類似の課題を抱える企業向けにも汎用化して提供できる。同社は、このモジュールの蓄積によって研修効果を高め、エンゲージメント向上など、企業課題を解決できるノウハウと人材を持つ研修会社として注目されている。中でも研修を社内講師でできるようにする「研修内製化」では多くの企業から高い評価を得ている。

「研修内製化」が企業を活性化させる

 研修は外部に依頼する場合もあれば、社内で行うこともある。いわゆる「テクニカルスキル」と呼ばれる技術系の研修は社内でしかできず、基本的には内製される。一方、コミュニケーション研修などの「ノン・テクニカルスキル」は社外に頼むことが一般的。しかし、多くの会社が社外でしかできないという思い込みから、外注し続け、または外注できないために研修をしないこともある。研修に参加すればスキルアップできるのは大前提だが、どうしても提供者目線になりがちだ。まして教える側も教えられる側も「つらい」「たいくつ」では、学ぶことに後ろ向きになる社員が増え、企業全体に影響を与えかねない。同社のゲーム研修による「研修内製化」は、研修を本来の目的へと導くことができる。高橋代表は研修内製化についてこう語る。

 「研修を設計する際には、背景をヒアリングし、各社の課題を解決できる筋道が見えるかを確認します。その後、研修のテーマを決めたら、そのテーマを俯瞰した図を作成します。これが当社独自の技術です。この図を段階的に学べるように講義・ワーク・ゲームを配置し、誰でも講師ができる形にします。研修資料だけを提供しても、講師経験のない方には難しいですが、当社がサポートすることで研修目的との紐づけやルールの再確認ができ、学習効果も高まります」

 高橋代表は、最近、地方の工場の「研修内製化」に積極的に取り組んでいる。その理由について聞くと、「工場のエンゲージメントは一般的に低く、特に現場で働く社員に研修をしていない会社も多いようです。実際に研修をやるにしても研修時間も1、2時間と短く、参加人数も交代で数名ずつ、遠方という厳しい条件でかつ楽しく学ばせられる研修会社はほぼありません。研修内製化はそうした取り残された社員に光を当てられます。都心部一極集中の影響で研修会社の営業活動が都心部に集中し、地方の工場は営業を受ける機会も少ないと聞きます。人材不足だけでなく人材育成もできない状況が続けば企業運営に影響がでかねません」と高橋代表。

 「当社は、研修内製化で工場に限らず、職場のエンゲージメントを高めれば働く人のウェルビーイングにプラスになるという思いから全力で取り組んでいます」 

 研修の空白地域に研修内製化でチャレンジするカレイドソリューションズの取り組みは、地方経済の活性化につながっていく。同社の今後の活躍に期待したい。