公明党は、結党60年を迎える今年、代表が交代した。15年にわたり、同党の代表を務めてきた山口那津男氏から次を託されたのは、石井啓一氏。石井新代表に、自民党との関係、連立政権の意義、支持母体の高齢化、今後の公明党の姿について話を聞いた。(雑誌『経済界』2024年12月号より)
石井啓一 公明党代表のプロフィール
自公政権しかこの国の課題を解決できない
―― 9月28日、公明党の代表に就任されました。自民党の石破茂新総裁とは、お互い野党時代に政調会長を務めた間柄です。
石井 石破さんは民主党政権になってすぐに政調会長になりました。私は1年後くらいの就任でしたから、直接重なったのは1年くらいだったと思います。こうして再び同じ時代に党の代表になったことは不思議な縁を感じます。
9月28日の公明党の党大会にも、総裁としてお越しいただきました。石破さんのお父さんが、鳥取県知事をされていた時の公明党の創設者である池田大作会長との出会いに関するエピソード。政権を失って東日本大震災に直面した時の悔しさ。そうした苦しい時代も一緒にやってきた自公の関係性。そして、大衆に寄り添ってきたわれわれの姿勢。公明党員の琴線に触れるあいさつをしてくださり、多くの議員が石破さんとならやっていけると感じたはずです。
―― ここ数年、自公のパイプが弱くなっているとの声もあります。2023年5月、当時、幹事長だった石井さんも、衆院選の選挙区調整を巡って「自公の信頼関係は地に落ちた」と発言していました。
石井 あれは東京だけの話です。なにより、選挙協力の問題は当時の党首と幹事長がサインしてすでに解決しました。これから控える衆議院選挙も(インタビューは10月4日に実施)、自公政権しかこの国の課題を解決してリードすることはできないのだという自負を持って臨みます。
―― 今年、自公の連立は25周年の節目です。
石井 現在、衆参ともに一党単独で過半数を取ることが非常に難しい時代を迎えています。特に参議院は中選挙区も多く、比例区の比重も大きい。そして、衆議院選挙が政権選択選挙になるのに対し、参議院選挙は政権の中間評価になります。どうしても批判票が集まりやすい傾向があり、比較的野党が強いわけです。こうした背景があって、連立政権が基調の時代に入っているというのが、今の日本政治の特徴だと感じます。実際、自民党・自由党(当時)・公明党の3党連立から始まった自公政権はもちろん、民主党政権も最初は社民党との連立政権でした。
―― その中で、自公の組み合わせが盤石なのは選挙協力によるものが大きいと考えますか。
石井 それも関係していると思います。ただ、自公は政策に一定の違いがある中で、徹底的に議論することによって合意点を見いだしてきました。お互いに責任政党である自覚を持ち、時には政策面の擦り合わせも行いながら結果を出してきた。そこが評価されているのではないでしょうか。
例えば、消費税の軽減税率です。自民党の一部の議員や財務省から猛反発を受けましたが、その中で粘り強く議論を重ねて実現まで持っていきました。あるいは、平和安全法制。当時の安倍首相が、集団的自衛権容認へ舵を切ろうとしていたところ、「例えば日本を守るために出動してきた米軍が攻撃を受けた際は、自衛権を行使して米軍を助けられる」という整理をして決着を付けました。言い換えれば、日本に全く関係のないところで米軍が攻撃を受けても、日本は自衛権の行使はできません。
―― 自衛隊や安全保障の文脈でいうと、石破総裁が掲げる改憲や外交安全保障のビジョンは、公明党のスタンスと相性が悪くみえます。
石井 自民党総裁選挙の時はかなり独自のご主張をされていました。憲法については9条2項の削除。外交安全保障については、アジア版NATOの創設。ただ、それを総理大臣として現実の政治日程に乗せられるとは思えません。
自民党内でも憲法改正を議論していますが、それは自衛隊を明記するかという話です。9条2項削除を実現できると思っている方は、ほとんどいないはずです。また、アジア版NATOについては、フルスペックの集団的自衛権が必要です。これも同じく、こうした改憲を実現できると思っている議員はいないのではないでしょうか。
ですから、総裁任期3年の間で、それらのビジョンを現実的に政治日程に乗せてくるとは思えません。持論は持論としてお持ちだろうけど、総理になったら現実的な対応をされると考えています。
支持母体の得票率に大きな変化はない
―― 公明党内に目を向ければ、支持基盤が高齢化して集票力が低下しているとの指摘もあります。
石井 まず申し上げたいのは、高齢化は日本全体の話だということです。よく、郵政選挙時の票数と直近の票数を比べて、「公明党は比例の票数がずいぶん減った」と言われますが、そういった話になる時には得票率は無視されています。しかし、議席は得票率で決まります。得票率を見ると、実は過去も現在もそんなに大きな変化はありません。郵政選挙の時は投票率が急激に伸びたこともあって、単純に票数だけを比較したら力が弱まっているように見えるかもしれません。しかし、得票率で比較しないと、実際の政党の実力は見えてこないのです。
―― 年内の衆議院解散はもちろん、来年は都議会議員選挙、参議院選挙と大一番が続きます。どうやって支持を拡大していきますか。
石井 今年、公明党は結党60年を迎えます。当初から一貫して標榜してきたのは、清潔な政治です。先の通常国会でも政治資金規正法の改正をリードした自負がありますから、不断の政治改革は公明党に任せていただきたい。
それ以外にも、物価高対策は急務です。石破総理も選挙後に本格的に具体策を打ち出すと思いますが、公明党としても低所得者への給付金や地方への交付金は手厚くしていきます。それから、下請け法を改正して中小企業の価格転嫁を後押しすることにも力を入れます。あるいは、少し中長期的に見れば、少子化対策も重要です。教育費の負担を圧倒的に軽くして、世界で一番子育てをしやすい国にしていく。課題は山積ですが、大衆に寄り添う政党であり続けたいと思います。