経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

本業のガス事業を強化 社員が誇りを持って働ける会社に 加藤卓二 西部ガスホールディングス

2024年4月、西部ガスホールディングス(HD)の社長に加藤卓二氏が就任。ガスエネルギー事業以外への投資を続ける一方、今後はガス事業にやや原点回帰する方針で、「社員が誇りを持って働けるようにしたい」と意気込む。(雑誌『経済界』2025年1月号「躍動する九州」特集より)

社長 加藤卓二 かとう・たくじ

将来を見据え経営を多角化 柱は電力事業と不動産事業

 「当社の一番の資産は、90年以上都市ガス供給を通じて培ってきた顧客との信頼関係です」

 そう話すのは九州北部地方で都市ガス事業を基盤とする西部ガスHDの加藤卓二社長。1985年に西部ガスに入社し、営業畑を歩んできた。他方、通信自由化直後のデジタルツーカー九州に3年、ガス機器販売店ユニティに5年の出向経験を持つ。

 デジタルツーカー九州では、JR九州、日産自動車、トヨタ自動車、西日本鉄道などの管理職が集まる混成チームで、西部ガスとは異なる仕事の進め方を経験。ユニティでは、人的補強もリストラもせず3年で全社員の昇給、期末賞与を出すまでに立て直した。「同期より8年間、西部ガス勤務歴が短いのが自慢。異文化の中で、人は人によって磨かれることを体感した」。現在は社長就任から半年経ち、「経験則が通用しない中で舵取りに重責を感じている」と語る。

 人口減少、ガス小売全面自由化、脱炭素対応と、ガス事業を取り巻く環境は厳しい。同社は将来の成長を見据え、電力・不動産・食関連・介護など、経営の多角化に取り組んできた。ガス事業以外の柱となっているのが電力事業と不動産事業だ。

 北九州市若松区に初の自社電源「ひびき発電所」を建設中で、2026年3月に稼働予定。九州電力と共同で建設する同発電所は、天然ガスを燃料とする効率の良い最新設備で、CO2排出量は石炭火力に比べ約半分を見込む。安定的かつ安価な電源調達を実現し、電力小売事業を強化する。隣にはエネルギー事業の中核を担う「ひびきLNG基地」がある。発電に使用する天然ガスを同基地から調達し、活用効率を上げる。

 一方、不動産事業は分譲事業の拡大とともに、福岡都心部を中心に賃貸事業が成長。約1千戸の賃貸物件を保有する。今後は不動産の流動化を推進し、財務体質の改善も図る。

LNGタンク増設検討により高まる低炭素化需要を捉える

 ガス事業以外への継続的な成長投資を行いつつ、本業のガス事業にやや原点回帰する意向がある。

 理由の1つ目は、コスト面からマーケット外と捉えていた石炭から都市ガスへの大口切替需要が見込める点。社会は50年のカーボンニュートラルに向けて脱炭素課題を抱える。石炭燃料を都市ガスに切り替えるとCO2排出量を約4割カットできる。

 「ガス事業以外は芽が出たばかり。グループ社員約4千人の生活を支えるまでには時間が必要。低炭素化需要を捉えてガス事業を拡大し、その間に新規事業を育てたい」

 2つ目は、ガス事業に関わる社員のモチベーションが下がっている点。「新規事業への経営資源シフトが進み、昔の営業とは様変わりしたと聞こえてくる。大事なのは人。現場で汗をかく社員のエンゲージメントを引き上げたい」と力を込める。

 多くの社員が関わるガス事業にもう一度スポットを当てて事業拡大を図る。その打ち手がひびきLNG基地の3号タンク増設の検討だ。「需要開拓、セキュリティ、配船計画の弾力性、海外エネルギー事業への拡張性の面からも実現したい」。需要が高まる天然ガスの安定供給を目指し、24年度内に入札を行う予定だ。

 「人口減少による市場の縮小が顕著になる前に、もう一度ガス需要を持ち上げたい。収支バランスによっては見送る可能性もあるが、水面に浮上すれば迷わず実行する」

 24年3月期連結決算は、ガス事業における冬場の高気温と調達・販売価格差の影響により減収減益となった。しかし成長投資を続けてきた電力事業、不動産事業、コロナから脱却した食関連事業が収益の下げ止めに貢献。「ガス事業が下がった分を他の事業でカバーするのは、当社グループの成長ストーリーそのもの。グループで徐々に利益を出せる体質になってきている」と分析する。

 「50年を迎えても、西部ガスグループが元気な状態を創るのが私の仕事」と意気込む。全員野球で脱炭素課題を乗り越える構えだ。 

会社概要
設立   1930年12月
資本金  206億2,979万円
営業収益 2,563億2,800万円(連結24年3月期)
本社   福岡県福岡市博多区
従業員数 3,852人(西部ガスHDおよび連結子会社)
事業内容 グループ経営管理
https://hd.saibugas.co.jp/