(雑誌『経済界』2025年1月号巻頭特集「自動運転のその先」より)
中国やアメリカで進む実装化 日本は勝機をつかめるか
近年、世界的に自動運転の競争が過熱している。アルファベット傘下の自動運転企業ウェイモは2024年6月、サンフランシスコで300台の無人車を配車し自動運転タクシーとしての活用を開始。また、テスラは10月のイベントで、完全自動運転のロボタクシー「サイバーキャブ(Cybercab)」を披露し、26年に量産体制に入ると発表した。
中国では21年ごろからすでに、自動運転社会が始まっている。中国インターネット検索最大手の百度(バイドゥ)は、同社の自動運転プラットフォームである「百度Apollo(アポロ)」を採用した第6世代自動運転車「頤馳(イーチー)06」を発表し、24年末までに1千台を自動運転タクシー配車サービスに投入すると表明した。北京や重慶、広州などの街中では自動運転タクシーが走っており、レベル4と定義される特定条件下での完全自動運転車も人々の生活に浸透しつつある。
自動運転にはレベルがあり、加速や減速、前の車を追従するACC(アクティブ・クルーズ・コントロール)、緊急自動ブレーキや、車線を逸脱したことを検知するとステアリング操作をアシストする車線維持支援LKASなどがレベル1。アクセルとブレーキ操作による加速・減速の制御、ハンドル操作による左右の制御の両方をシステムが行うものがレベル2。ここまでは、ドライバーは常にハンドルを握り、監視する必要がある。
それ以上のレベルからはシステム主体の監視になる。基本的にシステムが全ての運転タスクを行うが、緊急時にはドライバーが適切な対応を取るレベル3。自動運転車の走行が許可されたエリアでのみ、システムが全ての運転タスクを実施するレベル4。路線バスや空港内など特定の地域内を走行する送迎用のバスなどと相性が良い。ドライバーはすぐにハンドルを握れる体勢を取り、道路の状況や周囲の車などに注意を払っておく必要がある。
そして、常にシステムが全ての運転タスクを実施するレベル5。完全自動運転と呼ばれ、走行エリアは限定されない。ドライバーが不要で、ハンドルやアクセル、ブレーキなどを設置する必要がない。
道路交通法は、ドライバーが運転することを前提に作られており、自動運転車両を公道で利用するためには法改正が必要だ。20年4月、初めて自動運転システムの使用に関する規定が設けられ、23年にはレベル4が解禁された。現在レベル4の技術開発に各社が成功しており、日本各地で実証実験を行っている。レベル4の自動運転車両は35年には500万台となる予測が出ており、市場規模の拡大が予想されている。
日本は現在世界で3位の自動車生産国だ。1955年から72年にかけての高度経済成長期には、乗用車の需要は急増し販売台数は67年に1千万台を突破。製造技術や品質の高さが認められたことで世界へもシェアを広げ、日本を代表する産業となった。
これまで自動車の開発は、車体やエンジン、モーターなどのハードウェアが中心で、量産することでコスト削減や効率化を図ってきた。しかし、自動運転車は頭脳であるAIの開発が中心となり、新しい機能の追加もソフトウェアアップデートで行われる。そうなると、AI半導体や車の周囲を認識するためのイメージセンサー開発が中心の産業へと変化する。
例えばトヨタ自動車はNTTと手を組み、交通事故を未然に防ぐ車載ソフトウェアの開発を開始した。AIが走行中のデータから危険を予見し、車両を自動で制御するシステムで、2028年に実用化する計画だ。また、車載向けのAI基盤を開発し、トヨタの車載ソフトとNTTの通信基盤を組み合わせビッグデータを集積しAIに学習させることで危険な状況を探知する。高速で大容量のデーター通信が必須になるため、NTTが開発中の次世代通信基盤「IWON(アイオン)」を活用する。
コンセプト次第でビジネスチャンスは無限大
現時点では自動運転車の実装化や事業化のハードルはまだ高く、量産を開始する段階には至っていない。こういった成熟しきっていない市場では、ベンチャー企業やスタートアップ企業が力を発揮することが多い。例えば23ページに登場するティアフォーは、「自動運転の民主化」を掲げ、自動運転車用オペレーティング・システムをオープンソースで提供している。主要な自動運転事業者が開発する技術や車両は、自社完結で中身がブラックボックス化している。そのためコストや安全性の検証が事業化に際しての壁となるなどデメリットが生じる場合もある。一方、ティアフォーはシステムを無償で開放しているため、使った企業からのフィードバックを受けたり実装に向けた提携が生まれたりすることがある。
同社は、CASE(Connected、Autonomous/Automated、Shared、Electric)や、運搬以外の目的のモビリティサービスMaaS(Mobility as a Service)における技術者の発掘育成のため、19年から公益社団法人自動車技術会が主催する「自動運転AIチャレンジ」の運営を主導している。この大会では、一般企業や個人が同社のソフトウェアを使って自動運転のレースを行う。オープンソースとして多くの場面で使ってもらうことと、エンジニアを増やすことを目的としており、自治体、学生、企業などへ自動運転のすそ野が広がっている。
今は各社とも技術開発段階にあるが、当然次のフェーズは事業化となる。その場合のコンセプトや方法はさまざまだ。
次ページ以降で登場する、ソニーホンダモビリティのコンセプトは「移動で人を感動させる」だ。マツダは「車が人の健康を支える未来」、NTTデータオートモビリジェンス研究所は「自動車がプラットフォームとなり消費行動やエコシステムを生む世界」を描いてる。
自動運転を用いたビジネスは無限に広がっている。レベル5の自動運転が当たり前になった未来では、どのような移動が待っているのか。
文=萩原梨湖