博報堂などが構成するコンテンツビジネスラボは、2024年に行った調査で、個人のコンテンツ支出額は過去10年間の最高額に達したと発表。コロナ禍に打撃を受けた分野も復活を遂げ、日本のエンタメが世界に勝負をかけるフェーズに来ている。25年はどういった分野が盛り上がりを見せるのか。文=小林千華(雑誌『経済界』2025年2月号「2025年を読み解くカギ」特集より)
日本コンテンツに集まる注目。エンタメ市場は膨らむばかり
2024年は、エンタメ界に明るいニュースの多い1年だった。9月には大リーグ・ドジャース所属の大谷翔平選手が、1シーズン内でホームラン50本、50盗塁を達成。大リーグ史上初の偉業だ。関西大学の宮本勝浩名誉教授は10月、大谷選手が24年に及ぼす経済効果を約1168億1181万円と試算した。
スポーツだけではない。3月には第96回米アカデミー賞で、『ゴジラ-1・0』が視覚効果賞、『君たちはどう生きるか』が長編アニメーション賞を受賞。9月には、ドラマ『SHOGUN 将軍』が米エミー賞で史上最多となる18冠に輝くなど、日本のコンテンツが世界で高く評価された1年でもあった。
こうした日本のコンテンツ産業の実態や生活者の消費動向について、博報堂のマーケティングプランナーと研究開発職員、博報堂DYメディアパートナーズのコンテンツビジネス開発の専門家などが「コンテンツビジネスラボ(以下ラボ)」を構成し研究している。ラボでは毎年オリジナルの「コンテンツファン消費行動調査」を行い、コンテンツ産業における消費行動の推移を観測する。
24年8月には、同年2~3月の調査結果を反映したレポートを発表。この結果を踏まえ、リーダーの木下陽介氏は、「エンタメ市場の盛り上がりはコロナ前を超えた」と言う。
同調査で、個人のコンテンツ支出額は7万9103円と、前年の結果を1万576円上回った。これは直近10年の中で最高額だ。メンバーの加藤陽平氏は、「21、22年の調査では、コロナ禍の影響もあり額が落ちていた。今回はコロナ前を上回る額になり、市場が盛り返していることが分かる」と分析する。
さらにカテゴリごとの市場規模の推移(表1)には、コロナ禍からの復活がより顕著に表れている。「リアルイベント」の市場規模が大幅に伸び、それに伴い「関連グッズ」の販売額も成長。一方で、配信プラットフォームなどが含まれる「スマホ・タブレット」の市場規模も成長した。これについて木下氏は、「リアル回帰が盛んになる一方、コロナ禍に浸透した配信サービスなどの利用も引き続き伸びている。この両方が同時に進み、トータルの支出額も増加しているとみられる」と述べる。
また、同調査結果から消費トレンドを読み解く上で重要な指標が、「リーチ力、支出喚起力」(表2)だ。「リーチ力」はそのコンテンツが1年間に到達できる人数を表すもの。「支出喚起力」は、コアファンによる年間の関連市場規模の指標だ。
「リーチ力」では、アニメが上位に多くランクインしている。ラボによれば、リーチ力が高いほどキャラクタータイアップ・CMへの起用、PRなどの活用に向いている。一方「支出喚起力」では、音楽アーティストのランクインが目立つ。中でも近年、1位「SEVENTEEN」、3位「Stray Kids」のようなK-POPアーティストの躍進が目覚ましい。木下氏によれば、同ランキングでK-POPアーティストが首位に立つのは初めてのことだ。
「支出喚起力は『ファンにお金を使わせる力』とも言えます。近年よく話題になる『推し活』の文脈もありますが、ファンコミュニティやグッズ販売などのDXに、韓国企業が強いことも理由でしょう」(木下氏)
縦型ショート動画を生かすアーティスト、企業が躍進
では25年以降のトレンドはどう移り変わっていくか。ポイントのひとつが、TikTokなどで認知を広げる「縦型ショート動画」だ。木下氏は近年、音楽の分野で縦型ショート動画を活用するアーティストの躍進に注目しているという。これまではアイドルの楽曲などダンスの目立つ音楽と親和性が高い傾向があったが、そればかりではない。
「シンガーソングライターのimaseさん、24年にNHK紅白歌合戦初出場が発表されたtuki.さんのように、縦型ショート動画から知名度を伸ばしていくアーティストも今後増えるはずです」(木下氏)
それに関連して、縦型ショート動画プラットフォームでドラマを制作・配信する「縦型ショートドラマ」市場も、現在エンタメ関係者が注目する分野だ。各テレビ局やDMM.com、吉本興業とNTTドコモ・スタジオ&ライブ等の共同体など大手企業の参入も相次ぐ。
また、もうひとつのポイントは海外展開だ。メンバーの後皓介氏は、国内外問わず配信プラットフォームで映画、アニメなどを楽しむ人が増えたことで、海外で鑑賞されることを前提にした作品作りが一般的になってきたと指摘する。分野を問わずエンタメ各社、海外展開に力を入れているが、その手法には課題もあると後氏は考える。
「海外と言ってもいろいろな地域、文化があります。世界を攻めるためにこうすればいい、という一元的な戦略は恐らくない。海外ウケか日本ウケかではなく、地域ごとのローカルな背景を見て、売れるものを模索しないといけない時代になってきたと思います」(後氏)
*出所:表1、表2ともにコンテンツビジネスラボの資料を基に本誌作成