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2025年はAIの企業導入元年 ChatGPT普及率向上を目指す 茶圓将裕 デジライズ

茶圓将裕 デジライズ(提供画像)

茶圓氏はAIチャットボット「AideX」やAI語学学習ツール「AI会話」などのAI関連サービスを開発、2023年には法人向けAI研修、および企業向けChatGPTを開発するデジライズを創業した。SNSやテレビにてAI専門家として活動する茶圓氏に、これからのAI業界の話を聞いた。構成=萩原梨湖(雑誌『経済界』2025年2月号「2025年を読み解くカギ」特集より)

茶圓将裕 デジライズのプロフィール

茶圓将裕 デジライズ(提供画像)
茶圓将裕 デジライズ
ちゃえん・まさひろ 2022年に世界初の食べて稼げるeat to earn NFTゲーム「Eatnsmile」をスペインにて共同創業。その後はAIチャットボット「AideX」、AI語学学習ツール「AI会話」などを開発。SNSでAI情報発信を行いAI専門家としてテレビに複数回出演。23年に法人向けAI研修、および企業向けChatGPTを開発するデジライズを起業。

ボイスモードの進化で音声系AI事業が発展

 2022年11月にChatGPTが登場し、生成AI元年と呼ばれた年から2年が経過しました。23年は世界中が生成AIの技術に魅了され、使い方を模索していましたが、24年に入ると、個人が使いこなして仕事に生かすのは難しいという認識に落ち着きました。そんな中でも、IT企業が自社サービスにAIを搭載するなど、仕事で使えるツールとして展開する流れはできてきました。ただ、実証実験やテスト段階のサービスが多く、本格始動はこれからという企業も多いでしょう。25年は、AIの仕事での使用が広がる「企業導入元年」と私は呼んでいます。

 世界にはChatGPTのほかにもビッグテック企業のAI、例えばマイクロソフトのMicrosoft Copilot(マイクロソフトコパイロット)や、グーグルのGemini(ジェミニ)スラックのSlack AIなどがありますが、ChatGPTの注目度が圧倒的に高いです。

 23年3月にChatGPT APIという、異なるアプリやソフトウェア同士をつなげるインターフェースがリリースされたことで、ユーザー数が増え、24年4月時点では全世界で1億8050万人が使っています。また、アメリカの経済誌『フォーチュン(Fortune)』が毎年発表する、全米企業の総収入ランキング「フォーチュン500」にランクインする企業の92%がChatGPTを利用しています。

 日本もその水準を目指すために、まずは企業に導入し、作業効率を上げるところから活用を始めるといいでしょう。

 25年に日本でビジネスチャンスになりそうな分野は、生成AIの使い方を教えるカスタマーサクセスや研修です。アメリカなどでは研修はなく、自力で使っているうちに慣れていくものなので、あくまで日本は特殊な例だと言えますが。

 生成AIは、従来のSaaSと呼ばれるウェブ会議やビジネスチャット、社内SNSなどのアプリケーションとは異なり、自由度が高いという特長があります。しかし裏を返すと、決まった使い方がないということでもあるため、使い方を教えるカスタマーサクセスが普及の肝になります。

 25年はAI技術の画期的な進化はそれほどなく、音声系のサービスが増えるでしょう。24年5月にChatGPTのボイスモードがレベルアップしたアドバンストボイスモードが一般公開されました。人間同士のように会話ができ、ほしい答えと違った場合は途中で遮っても会話を続けることができます。しばらくは、これを搭載した音声系のサービスが進化するでしょう。

 例えばコールセンターなど非対面での会話が必要な業務は、26年ごろまでに音声系チャットボットに変わるはずです。

 将来的には、AIエージェントの進化が進むでしょう。現行のAIを使った作業効率化方法の中に、ソフトウェアロボットを使ってパソコン上の業務を自動化したり代行したりするRPAという技術がありますが、それが必要なくなります。エクセルのリストを検索してメールを送信したり、ECでの買い物なども、行ってくれます。AIエージェントが成熟することで、「年商100億円のビジネスを作って」と頼むだけで何もせずにそのビジネスを完成させられるようになるかもしれません。

クラウド業界のUberはAI業界にも現れるか

AIソリューションのレイヤー構造
AIソリューションのレイヤー構造

 日本でもAIを使ったアプリケーションやサービスを展開するスタートアップなどが増えています。しかし、市場規模が小さく、すぐに採算性の高いビジネスに成長するとは言いにくいのが現状です。

 AI業界の構造は3つのレイヤーに分けられており、一番下のAI開発の基盤を担う半導体やインフラの比重がもっとも大きくなっています。例えば、コンピューターの制御と計算を行うCPUや、CPUで追いつかない機械学習の処理を行うNPUなどがあり、主にインテルが開発しています。また、GPUというリアルタイム画像処理に必要な演算処理を行う半導体チップなどで、エヌビディアが主なシェアを占めています。

 その上のレイヤーに、事前学習済みの大規模言語モデルがあります。 ChatGPTのモデルもこのレイヤーにあり、24年5月に登場したChatGPT-4o(フォーオー)では従来のテキスト処理の枠を超え、画像、動画、音声などを含めた複数の形式のデータを同時に処理できるマルチモーダル機能を備えるなど進化しました。

 一番上のレイヤーには、生成AIのアプリや生成AIを組み込んだソリューションアプリがあります。日本ではこの部分の企業数が最も多く新規参入の積極性が高いです。課題は、そもそも日本ではユーザー数が少なく企業のAI導入率も低いため、収益性が低いことです。

 しかし、インフラ≫アプリケーションの構造はいずれ逆転するはずです。

 クラウド業界を同じレイヤーで分けると、現在は一番上のアプリケーションレイヤーが最も利益を出しています。例えば、宿泊サービスのAirbnbや、自動車配車プラットフォームのUber、SNSサービスのFacebookなどです。

 クラウド業界が成長し出した15年前は、現在のAIと同様に、ビッグテック向けの半導体などのインフラ需要が高く、アプリ需要は低かった。しかし業界が成熟するにつれて全く逆の構造になっていきました。AI業界でも同じ現象が起きるはずです。

 それを踏まえて、日本のAI業界で勝機のあるAIアプリビジネスを考えてみます。個人向けのアプリはChatGPTが席巻しているので除くと、海外のアプリに不安がある企業に向けたSaaSにカスタマーサクセスをつけて提供するのがいいでしょう。

 また、生成AIは冒頭でお話ししたように自由度が高いという特長があります。ですので、アプリケーション開発においてはルーティーンワークから外れた分野に特化したものに勝機があります。ルーティーンワークは、例えば農業はトラクターを導入することで収穫効率が上がるし、会計業務などはIT化してソフトを入れれば効率化されるというような業務を指します。一方で非ルーティーンワークとは、文章の作成や調査分析、相手との会話が必要なコンサルなどの業務です。

 AIのユーザーや企業導入数を増やすことが、市場規模拡大に直結するので、生成AIにこだわらずまずは個人が業務効率化のためにAIを使いこなしていってほしいです。(談)