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経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

「本当に求められる支援を探求しNGOが能力を発揮できる環境づくりを」――有馬利男(ジャパン・プラットフォーム共同代表理事)

ジャパン・プラットフォーム共同代表理事 有馬利男氏

自然災害や国際的な紛争地の人道支援において、日本のNGOの存在感はまだ高いとは言えない。その多くはNGOそれぞれの財務基盤の弱さや、活動がバラバラに行われることによる効率の悪さに起因する。NGO、経済界、政府などが連携することでこうした問題を解決し、支援を効率的かつ迅速に行うことによって、国際的な支援の現場に日本全体として貢献しプレゼンスを高める目的で2000年に設立されたのが国際人道支援組織「ジャパン・プラットフォーム(JPF)」である。共同代表理事を務める有馬利男氏は、富士ゼロックスで社長を務め、海外経験も豊富な人物。これまで培ってきたビジネス感覚と国際感覚を生かして、どのような組織運営を目指しているのだろうか。 聞き手=本誌編集長/吉田 浩 写真=幸田 森

NGO同士の相乗効果をいかに生み出すか

―― 有馬さんがJPFにかかわるようになったきっかけは。

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(ありま・としお)1942年生まれ、鹿児島県出身。67年国際基督教大学教養学部卒業後、富士ゼロックス入社。常務取締役、Xerox International Partners社長兼CEOを経て、2002年富士ゼロックス社長に就任。07年取締役相談役。08年より国連グローバル・コンパクト・ボードメンバー。10年よりジャパン・プラットフォーム共同代表理事を務める。

有馬 前共同代表理事の山本正さんが退任されるにあたって、山本さんと親しかった小林陽太郎さん(元富士ゼロックス最高顧問)から、後任について山本さんの話を聞いてほしいと言われたのがきっかけです。JPF設立の中心になった原田勝広さん、大西健丞さん、秋元義孝さんからも強く要請されて、引き受けることになりました。

―― 経営者の視点から、組織の課題として気付いたことは。

有馬 一番重要だったのは、「JPFという組織は何のために存在するのか」を明確にし、必要なことを行っていくということです。私が参画する前年の2010年に、過去10年を振り返るレビューのプロジェクトがあったのですが、JPFが外務省のODA資金をNGOに配るだけの役割に陥っているのではないかという反省がありました。

―― JPFは個々に活動している日本のNGOやさまざまなアクターが連携し、迅速、効果的に支援を行うために設立されましたが、必ずしもそうなっていなかったということですか。

有馬 緊急人道支援の活動の柱である迅速性については、自然災害などのときにNGOがすぐに出動できるための資金を常にプールしておくという役割があり、そこはかなり機能するようになっていました。一方、もう1つの柱である、相乗効果の発揮、即ち、NGOがそれぞれの長所を生かして現地ニーズに沿った活動を効果的に届け、ひいては国際的な人道支援の現場において日本のプレゼンスを示していくという部分では、まだまだできていないことがありました。

 そこで、私が参画してすぐに、「プロジェクト11」を編成し、長期的な戦略プランの検討を始めました。しかし、直後に3・11が発生したため、プロジェクト11はいったん脇に置いて、東北の支援に向かうことになったのです。JPFとして、国内の本格的な活動はこれが初めてでした。お陰様で発災から3時間以内に出動を決定し、企業や個人の皆さまからこれまでに70億円を超える支援金をお寄せいただきました。JPFに加盟している国際NGOが帰国して東北に展開しましたが、それまでの海外支援の経験が生かされたと思っています。さらに、70億円のうち10億円で「共に生きる」ファンドをつくり、地元に根ざしたNPOを支援しましたが、この活動は震災から5年経った今も続いています。

―― プロジェクト11はその後どうなりましたか。

有馬 提案の大きな柱のひとつは、援助の戦略性の向上を重視した「プログラム・アプローチ」です。それぞれのビジョンや得意分野を持ったNGOが相乗効果を生み出し、さまざまなアクターと連携しながら、日本の支援のプラットフォームをつくることを目的に掲げました。また、より迅速かつ機動的に人道支援を行うためには、民間の資金や技術力が不可欠です。もうひとつの柱は、いわゆるファンドレイジングの戦略的機能で、このような戦略施策を中期計画に織り込みました。

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効率の高い組織運営も重要なテーマとなる

―― 各NGOにはそれぞれの特色があるので、まとめるのは大変ではないですか。

有馬 大変です。ただ、みなさんそういう取り組みが必要だということはよく分かっています。企業の場合はトップダウンのアプローチが取りやすいですが、各NGOにはそれぞれのユニークな特性があるので、誰かが絵を描いてそれに従わせるようなやり方は難しい。どんなやり方が理想的なのか、各NGOやJPFの考え方をぶつけ合いながら、相乗効果を生めるようにしていきたいです。

NGOの活動に対する 理解が立ち遅れる日本

―― 企業からの支援状況は。

有馬 一生懸命応援してくださる企業は多いのですが、まだ期待するほどには増えていません。ただ最近では、企業のほうからお問い合わせくださるケースも増えてきました。

―― 国際的な組織との連携は取っていますか。

有馬 被災地などの人道支援の現場では、国連などの国際機関とNGOが共同して、支援の枠組みを構築しています。日本のNGOもその枠組みに沿って支援することが必要で、それぞれの専門性や知見を生かして、連携を取って活動しています。しかしながら、こうした枠組みを主導できる日本のNGOは少なく、受け身の姿勢であることがほとんどです。日本のNGOも力をつけて世界で主導権を取れるようになることが、今後の課題かと思います。

―― 将来的に、JPFが日本のNGO全体を仕切るほどの力を持つべきなのでしょうか。

有馬 各NGOは自分たちの信念やビジョンで動いているので、すべてを仕切るのは正しくないと思います。NGOが財政基盤、組織体制、プロフェッショナル性を強化するための支援を行うこと、また、強い「個」が集まったネットワークを機能させる戦略目的を創出することが重要です。JPFでは日本の国際NGOの能力強化を目指し、13年度よりさまざまな研修を企画、実施していますが、ここに支援をしてくださっている企業やNGOがいます。

―― NGOの財務基盤の弱さは、日本の社会的理解や寄付文化の不足に起因しているのでしょうか。

有馬 多少は改善していますが、寄付に対する税制優遇などもまだまだと思います。例えば、私がかかわっている国連グローバル・コンパクトには各国の民間企業から寄付が集まりますが、日本からは非常に少ないのが実情です。

企業的な考え方を取り入れ組織の強化を図る

―― 今後の目標は。

有馬 戦略性を持った支援の在り方を探り、つくり上げていかなければいけないと思います。現在は、現地で活動するNGOに助成金を拠出することが優先され、戦略を考えることにリソースを割けていない現状があります。JPFとしては、現地のニーズや状況を第一義的に把握し効果的に支援が実施できるように、各NGOをサポートしていく必要があります。20160405JPF_P03

―― 企業経営とJPFのような組織運営では、やはり違いがあるということでしょうか。


有馬
 共通しているのは、組織として全体の効率性を高めたり、組織としての方向性を合わせていったりするのが大事ということです。NGOの活動内容から、一概に企業のやり方を導入することがよしとは言えないのですが、活動の戦略性の向上、スタッフに対する評価や人事制度の整備など、優秀な企業が取り入れている先進的な方法に学べることは多いと思います。むしろJPFやNGOこそ企業を凌ぐ効果的な組織づくりが可能かもしれません。

 最近では民間企業の出身者も増えていて、それも1つの変化です。JPFという組織が、「あそこで仕事がしたい」と思われるような存在にならないと。日本の人道支援を迅速に世界に届ける役割の存在価値が、社会からきちんと見える組織にしていきたいと考えています。

―― 最後に、企業へのメッセージを。

有馬 ビジネスの本流を頑張るのがCSRという考え方もありますが、一人ひとりが社会にどう貢献できるかを見据えるのも大事なことです。経営者の方や従業員の方にわれわれの活動に関心を持っていただき、さまざまな形でかかわっていただきたいと思います。それによって社員の視野が広がりますし、外部との人的ネットワークもできていきます。今後起こるだろう大災害のために、平時からの協力体制も重要です。行政や企業ができることもありますが、NGOがきめこまかく俊敏に動くからこそ実現できることもあります。企業には、自分たちができない部分を、NGOにやってもらうという感覚を持っていただき、JPFというプラットフォームをぜひ活用していただければと思います。

 
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