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NTTが今さら固定電話「再独占」に動き出した理由

最近では固定電話を持たない家庭が増えている。そのため通信各社にとって固定電話部門はお荷物と化した。しかしNTTには、他社の固定電話を引き取る動きが見られるという。そこにはNTTの将来を見据えた戦略が隠されている。文=ジャーナリスト/岡田聡夫

三重投資の重荷

 昨年11月、日本電信電話(NTT)の持ち株会社の中間決算発表に、わずか5ページのプレゼンテーション資料が添えられた。ほとんど報道されることもなかった『「固定電話」の今後について』と題したこの資料は、実は通信自由化の最終局面におけるNTTの静かな“宣戦布告”と言っていい。

 資料の内容は、非常にシンプルだ。「現在の固定電話を逐次、IP電話に切り替える」というもの。基本的な音声通話は今まで同様に可能で、電話機やファクスもそのまま利用できる。料金も変えないか、安くする。ただ今後は銅の電線の敷設はせず、すべて光ファイバーにするなどと説明している。

 分かりやすく言えば、従来の固定電話をすべて「ひかり電話」にしてください――ということだ。しかも宅内の工事は必要なく、すべて電話局内で対応する。そう聞けば、何の問題もなさそうに思える。

 固定電話とIP電話は何が違うのか。おおざっぱに言えば固定電話はグラハム・ベルが発明し、銅線と交換機で通話する人同士を結ぶ。IP電話は光ファイバーやADSL回線を利用し、インターネットのデータ通信と一緒に音声信号をやりとりすると理解すればいい。

 両者は全く別の技術であり、NTTをはじめ通信各社は二重のインフラ投資を強いられていることになる。無線を使う携帯電話網を合わせれば三重投資とも言える。

 加えて、音声通話の利用が激減している。友人間の日常会話はSNSやショートメールが台頭し、ファクスも今や電子メールの添付ファイルに置き換わりつつある。固定電話の契約件数は、この10年間で6割も減った。にもかかわらず通信各社は「ユニバーサルサービス」の義務を負い、固定電話の全国網を維持しなければならない。これは不合理だというのが、NTTの言い分だ。

 NTTが打ち出した「固定電話のIP化」は国の認めるところとなり、今春から総務省の情報通信審議会で具体化の議論が始まっている。NTTは既に通信機メーカーに対して、従来型の電話交換機を今後、発注しないと通告している。

NTTの真の狙い

 技術の進歩によって、電話網が新しくなるのは当然だろう。NTTが、従来の固定電話の維持費用をなくす目的でIP化に熱心なのも理解できる。しかし同時に、NTTの戦略には真の狙いがあるという。

 それは、まず「ユニバーサルサービス」という足かせを外すことだ。交換機を使う固定電話は、必ず電話機のあるところまで銅線を引かなければならない。全国津々浦々に安い料金で電話を敷設することは、NTTにとって最大の経営圧迫要因となっている。

 しかしIP電話にすれば、よほど柔軟な仕組みになる。ノートパソコンは適当なLAN回線に接続するか、携帯電話のテザリングサービスを使えば場所を選ばずにインターネットにつなげる。ネットを介するIP電話も同じで、銅線であれ、光ファイバーであれ、必ずしも線をひかなくても通信できる。ユニバーサルサービスを廃止しても利便性を維持できるのだ。

 その上でNTTが目指すのは、IP化した固定電話の「再独占」である。

 通信の自由化は、NTTが独占によって多大な利益を上げていた固定電話を民間企業に開放することから始まった。第二電電、日本高速通信(現KDDI)や日本テレコム(現ソフトバンク)などの新電電はここから誕生した。

 ただその後、インターネットの登場と携帯電話の普及で、固定電話はお荷物分野に変わってしまった。10年前にはマイラインや国際通話のシェアを奪い合ったはずの新電電各社が、いまや固定電話の新規営業活動をほとんどしていない。

 それどころか「各社とも、できれば撤退したいと考えている」とNTT幹部は話す。通信各社の主戦場である携帯電話の競争は激しくなる一方だ。そのため本音ではここに経営資源を集中したいと考えている。そうした各社に対して、NTTは「固定電話が重荷なら、お引き取りしましょうか?」と水面下で働きかけているという。

 NTTにしても、現状の固定電話は赤字事業にすぎない。ただ規模が最も大きいだけに、集約すれば活路が開ける。また音声通話が今後、さらに減るとしても、警察や消防などの緊急通話や企業のコールセンターはなくならない。いわば社会の基盤部分は将来も固定電話の市場なのだ。

 固定電話のIP化は、通信自由化の最終局面といえる。NTTからみれば、自由化政策で奪われた顧客を競合各社から取り戻す最後のチャンスだ。社会の基盤部分の通信を再び独占できれば、今後の携帯電話などの競争も有利になる。仮に将来、携帯市場で敗退という事態に陥ったとしても、企業として消滅する恐れはない。その固定電話も、独占体制下なら「適正な通話料金」に是正することで生き残れる。NTTは、ひそかにそうした長期展望を思い描いている。

 
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