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新浪剛史社長が学んだ「サントリー創業精神の魅力と活かし方」

サントリーホールディングスは3年前、アメリカの酒造メーカー、ビーム社を1兆6千億円で買収した。日本企業による海外企業のM&Aが増えているが、食品分野では過去最大規模となる。そのおかげもあってもサントリーの業績は好調だ。しかし、本当の買収効果が出てくるのはこれから。そのカギは、「サントリーの創業理念をいかに共有できるか」だと、新浪剛史社長は言う。新浪氏自身も、ビーム社買収直後にサントリーに転じ、一から創業精神を学んできた。その立場から、創業精神の魅力を語ってもらった。聞き手=関 慎夫 Photo=佐藤元樹

新浪剛史・サントリーホールディングス社長プロフィール

新浪剛史氏

(にいなみ・たけし)1959年横浜市生まれ。81年慶応義塾大学経済学部を卒業し三菱商事入社。91年ハーバード大学経営大学院でMBAを取得。95年ソデックスコーポレーション(現LEOC)社長、2002年ローソン社長に就任(出向)し、03年には三菱商事を退職。14年5月に会長となるが、同年10月にサントリーホールディングス社長に転じた。

新浪剛史社長が佐治信忠会長から託されたこととは

ビーム社買収でサントリーが手に入れたもの

―― 2016年12月期決算は、売上高こそ為替の影響で微減となりましたが、営業利益、経常利益がともに過去最高です。その要因のひとつが、3年前に買収したビーム社(現ビームサントリー)の貢献です。今はどのような関係になっていますか。

新浪 打てば響く状態というか、お互いコミュニケーションが取れるようになってきました。昨日も僕は向こうの社長と、夕方6時から11時まで、食事をしながら腹蔵なく話をしています。こういう関係が、トップ同士だけではなく、どの階層でもでき始めた。もともといいモノをつくっていこうという文化は共通しています。さらにコミュニケーションを重ねていけば、これまでにない共同企画商品も生まれてくると思います。あと数年のうちに何かできないか、期待しています。

ビーム社はアメリカ企業の典型です。サントリーは日本企業の典型。これをインテグレーションすることで、新しい価値を世界に提供していきます。インテグレーションは現在6合目といったところでしょうか。

―― ビーム社を買収したことでサントリーは何を手に入れましたか。

新浪 世界には、スコッチ、アイルランド、アメリカ、カナダ、そして日本の五大ウイスキーがあります。ビーム社を買収したことで、われわれはこの五大ウイスキーすべてを手に入れました。これは世界でサントリーだけです。ウイスキー以外にもビールやワイン、ブランデーなどもある。

さらにはRTD(缶入りのチューハイやハイボールなど)も持っている。こんな会社はほかにありません。これを武器に、アメリカ、ヨーロッパ、オセアニア、日本、そしてこれからは中国を筆頭としたアジア市場を攻めていきます。

多くの種類のお酒があるということは、お客さまへの提案力があるということです。中国人はコニャックが好きで、バーボンも少し甘いものが好きといった具合に、国や地域によって好みが違います。そのすべてに対して、われわれは提案をすることができる。

もともとサントリーの営業は、提案力でやってきました。角ハイボールはその代表です。最近はジムビームのハイボールもよく飲まれています。これからはそれを世界でやっていく。例えばヨーロッパはかつてスコッチばかりが飲まれていましたが、最近ではバーボンが売れ始めた。そうした変化を先取りして、攻めていく。そうやって、各ブランドをより輝かせる方針です。

現在、主力ブランドである「ジムビーム」は世界で年間約850万ケース、「メーカーズマーク」は約200万ケース飲まれています。バーボンを中心にそれぞれのブランドを成長させ、ビームサントリーを世界で最も成長しているプレミアムスピリッツカンパニーにしていきたいと考えています。

そのために一番重要なのは、何より商品の品質を良くすること。その点、先ほど言ったように、サントリーとビーム社には、いいものをつくりたいという共通のカルチャーがある。これが大切です。

サントリーユニバーシティで創業精神の共有目指す

―― 酒類の世界では、激しい勢いで合従連衡が進んでいます。サントリーとしては、今後も大型のM&Aを手掛けていくつもりですか。

新浪 今はする必要がないと考えています。先ほど言ったように、五大ウイスキーなど、ほぼすべてのカテゴリーを手に入れたことが大きな理由です。それに今は各ブランドを磨く時期です。ブランドを磨くには力が必要です。そこに力を注ぐべきで、新たな大型のM&Aはやるべきではありません。

―― 新浪さんがサントリーホールディングス社長に就任したのは2014年10月です。ビーム社の買収はその5カ月前。就任にあたって佐治信忠会長から何を託されましたか。

新浪 ローソンからサントリーに転じる時、佐治会長から、「ビームサントリーを世界に冠たる会社にしたい」という強い思いを受け取りました。これをきっちりと仕上げていく。佐治会長は「悠々として急げ」と。これは開高健さんの言葉ですが、結果は出さなければいけないが、けっして慌てるなということです。

ですからインテグレーションの方法も、急がば回れで、基本的なことから始めました。それが何かというとサントリーの創業精神の共有で、15年4月1日に「サントリー大学」を開校しました。

これは人材育成プログラムで、これを通じて全世界のグループ社員に今一度創業精神を学んでもらっています。海外の幹部社員に日本に来てもらい、日本の社員と共に会長の話を聞いたり、サントリーの礎である山崎や白州の蒸溜所に行く。あるいはサントリーホールやサントリー美術館に行ってサントリーを感じてもらう。こういう体験を通じて、みな、サントリーグループの社員だ、「ワン・サントリー」だと意識してもらいます。

―― 当然、「やってみなはれ」精神も学ぶわけですね。

新浪 「やってみなはれ」についてはすぐに理解してもらえます。競争に勝つには差別化やイノベーションが必要なのはみな分かっている。これをひと言で表したのが、「やってみなはれ」ですから。

それ以上に海外の社員が感銘を受けるのは、「水と生きる」というメッセージに対してです。アメリカの会社はショートタームで物事を考えます。それに対して「天然水の森」のように水を育む活動にはものすごく時間がかかります。それでもやり抜く。われわれのビジネスは自然の恵みの上に成り立っていることを徹底して理解してもらっています。

最近では、メーカーズマークでナチュラルウォーターサンクチュアリをつくり水源保全活動を始めるなど、アメリカでも水を育む動きが出てきています。ビーム社は上場していた時には短期利益を追求する会社でしたが、今では長期視点で経営を考えるサントリーの活動に共鳴してくれています。

―― サントリーの社員にとってのビーム社の影響は。

新浪 ダイバーシティですね。例えば英語ひとつとっても、フランス英語、スコットランド英語、テキサス英語、アメリカ英語など、いろいろある。そんな違う文化の人が一緒になってビジネスをするわけですから、最初は苦労します。でも1週間もすれば分かり合って助け合うようになる。自分とはバックグラウンドから何から全く違う人といや応なく向き合うことになる。こういう経験が視野を広くするし、その効果は徐々に出始めています。

サントリーに転じた新浪剛史社長の経営スタイルはどう変わったか

「任せる経営」に転換

―― ローソン時代と今とで経営手法を変えたところはありますか。

新浪 任せることです。ローソンの時は、細かく口出ししていました。ロールケーキやおにぎりなど、多くの基幹商品は僕がやれと言ってつくらせ、何度となく突き返して商品化したものです。

でもサントリーではとにかく任せています。さらにローソン以前に給食会社の社長を務めていましたが、この時は会計まで全部自分でやっていた。でも今は任せることのできる人材がいる。それに私も50代後半です。体も若い頃のようには動きません。ですからマネジメントのスタイルも変えないと。今の僕の仕事はビジョンと戦略。あとはしっかりとやってもらうだけです。

新浪剛史

―― 逆に会社が変わっても年齢を重ねても変えてはいけないものはなんですか。

新浪 仲間です。社員は仲間であり一緒になっていいモノをつくっていく。言わば田植え文化です。これをアメリカにも持っていこうと考えています。アメリカの金融資本主義と田植え文化は対極にあります。でもモノづくりの部分に関しては、十分移植は可能だし、もともとは彼らもそうだったはずです。ですからケンタッキーの蒸溜所の人たちとは仲間として、一緒になっていいウイスキーをつくっていく。

ただしシカゴのビームサントリー本社の経営陣はエリート集団ですから移植するのはむずかしい。それでもサントリーの根幹はマニファクチャラーだ、われわれはメーカーだということを理解してもらうことが重要です。

プレモルのリニューアルは「やってみなはれ」の象徴

―― ビーム社の買収で、サントリーの売上高は2兆6千億円にまで膨らみました。でも巨大化した組織は守りに入りがちです。「やってみなはれ」に代表されるチャレンジ精神をいかに維持していきますか。

新浪 みんなが頑張ってくれたお陰で業績はいい。でも安心してはいけません。会社が大きくなると官僚主義になる。そのためにもチャレンジをあえてつくって揺さぶっていく。今のサントリーにとって、それはビールです。この3月に「ザ・プレミアム・モルツ(プレモル)」をリバイタライズ(リニューアル)しました。これによりプレミアムビール市場の中で圧倒的地位を築き、プレミアムビールの市場がさらに広がることを目指します。これに全社一丸となって取り組み、成功させることが今年最大の目標です。

ビール事業はわれわれのチャレンジの歴史です。何もないところからスタートして、大手と戦いながら今日まで育ててきました。戦い抜くにはさまざまな工夫と努力が必要で、そのかいあってシェアは3位となり利益も出るようになりました。

でも大手は4社しかない市場なのだからシェアは25%を目指さなければならない。まだまだ全然足りません。そこに向かってもっとチャレンジしていきます。

そのためのプレモルのリバイタライズです。ビールが頑張るとスピリッツやワインの人たちも頑張るし飲料も頑張る。全社が盛り上がります。これはやはりビールがサントリーのチャレンジの歴史を体現しているからです。だからこそ、絶対勝たなければいけません。

―― 世の中混沌としています。変化のスピードも速い。こういう先の見えない時代、リーダーが心掛けるべきことは何でしょう。

新浪 常に慢心しないということです。当社の業績は好調ですが、これは実は怖いことです。業績がいいほど、怖くて怖くて仕方がない。これはローソンの時も今も同じです。山があれば谷がある。好調期もいつかは終わってしまいます。

だから業績がいいからといってのんびりしてはいけない。むしろ鞭を入れないと。いい時にどういう経営をするかで、次の谷の深さが変わります。

いい時に、ああでもない、こうでもないと努力をしていれば、谷が来てもそれほど深くない。乗り越えることも容易になる。ですから今こそチャレンジをしなければいけないのです。

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