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中国系資本に買収された日本企業の悲哀

経済界

かつてはレーザーディスクを世の中に送り出したパイオニアが、中国系資本に買われ、上場を廃止した。また、ジャパンディスプレイ(JDI)も中国系資本と協議を続けている。過去に何度も中国による日本企業買収が行われてきたが、果たしてその成果はどうなっているのだろうか。文=関 慎夫

中国企業に買収される日の丸電機メーカー

香港ファンドの子会社になったパイオニア

3月27日、パイオニアが上場を廃止した。パイオニアは1938年に松本望によって設立された音響メーカー。80年代にはレーザーディスクで市場を席捲し、その技術をもとにDVDの規格争いの時も重要な役割を果たした。

ところが2000年以降、他の電機メーカーと同様、業績が急速に悪化する。特に痛手だったのがプラズマディスプレーへの投資だった。

パイオニアは世界で初めて50インチの大型プラズマテレビを発売した。04年にはNECからプラズマディスプレー事業を買収、さらなる拡大を図る。

この買収はソニーにディスプレーを供給することを念頭に行われたものだが、ソニーは液晶テレビに集中し、プラズマテレビからは撤退。パイオニアは突然供給先を失う。

しかも液晶VSプラズマの戦いは液晶に凱歌が上がったことで、プラズマに傾注していたパイオニアの業績は一気に悪化する。

この危機を乗り切るためパイオニアはシャープやホンダ、三菱化学の資本を受け入れる。しかしそれでも業績は回復しなかった。

そして昨年12月、香港のファンドであるベアリング・プライベート・エクイティ・アジアの完全子会社になることを決断せざるを得なかった。

JDIも中国系資本の傘下に入る可能性大

パイオニアに続きJDIも中国系資本が入る可能性が高まった。

JDIはソニー、東芝、日立製作所のディスプレー事業を統合し、2012年に誕生した。

JDIの筆頭株主は産業革新機構。そのため経営計画の策定には経産省の承認が必要など、手足を縛られたこともあり、業績が悪化。それでも18年3月期はようやく黒字を出すことができたが、前3月期はスマートフォンの販売に陰りが出たことで生産停止に追い込まれる。

このままでは債務超過に陥ることから、中国の投資ファンドなどによる中台企業連合が筆頭株主となるべく交渉中だ。

パイオニア、JDI以外にも中国系企業に買収されるケースが増えている。

3年前にはシャープが台湾のEMS、鴻海企業集団の傘下入りした。経営不振に喘いでいたシャープは当初、産業革新機構の下で再生を目指すと思われていたが、鴻海側は産業革新機構を上回る買収額4千億円を提示。さらには①事業の切り売りはしない②従業員の雇用を保証する③経営陣はそのまま存続――を約束したことで買収に成功した。

ほぼ同じ頃、東芝の白物家電事業もハイアール、ハイセンスと並ぶ、中国家電大手3強の一角、美的集団に譲渡された。当初、産業革新機構は、東芝の白物とシャープの白物を統合するプランを描いていた。ところがシャープを鴻海が買収したため東芝の白物は宙に浮く形となり、急遽、決まった相手が美的集団だった。

このほか電機業界では三洋電機の白物家電事業も、中国のハイアールに買収されている。

中国系資本による買収後、日本企業の業績はどうなったか?

買収で生き返ったシャープと本間ゴルフ

買われているのはエレクトロニクスメーカーだけではない。

04年には老舗工作機械メーカーの池貝が上海電気集団に買収された。10年にはゴルフクラブの名門、本間ゴルフも中国資本に買収されたし、同年、アパレル大手のレナウンに対して中国・山東如意科技集団が第三者割当増資に応じ、筆頭株主となった。また09年には家電量販店のラオックスも中国の家電販売最大手、蘇寧電器の傘下に入っている。

問題は、中国系企業に買収されたあとの業績だ。

成功例としてよく挙げられるのがシャープだ。16年に鴻海傘下となったシャープは、17年3月期に624億円の営業利益を上げ、黒字回復する。買収からわずか1年の早業だった。

ただし、当初人員削減や経営陣の交代はしないとの約束だったが、実際には国内だけでも2千人以上を削減、さらには髙橋興三社長以下、大半の役員は退任し、鴻海の戴正呉副総裁が後任に就いた。旧経営陣にしてみれば「話が違う」ということになるが、そうしたドライな判断があったことがV字回復につながった。

前3月期は液晶事業の不振もあり、業績の下方修正を余儀なくされたが、それでも1千億円程度の営業利益を確保したとみられる。

本間ゴルフも成功例のひとつだ。山形県の本間家といえば、江戸時代には「本間様には及びもないが、せめてなりたや殿様に」と謡われたほどの豪商で、日本一の地主でもあった。本間ゴルフはその流れを汲んでおり、パーシモン全盛時代には高い評価を得て業績も好調だった。

しかしパーシモンの時代が終わると業績は悪化。バブル時代にゴルフ場経営などの多角化に取り組んでいたことも裏目に出て、05年に民事再生法の適用を申請、倒産した。

その後、外部から社長を招いて経営再建を目指すが、10年に中国の大手企業が共同出資する持ち株会社であるマーライオンホールディングスに買収された。

これにより本間ゴルフは資金繰りの苦しみから解放され、新製品の開発や契約プロを増やすなど攻めに転じることができた。その結果、15年に7勝をあげ、獲得賞金総額は2億2581万円と、男子を含めて日本ゴルフ史上最高額を記録したイ・ボミやキム・ハヌルが契約プロとなる。男子でも、14年の賞金王である小田孔明や岩田寛、藤本佳則などが契約プロだ。

こうしたプロの活躍で本間ゴルフの業績は伸びており、2014年度売上高155億円、営業利益21億円だったものを、17年度にはそれぞれ189億円、26億円となった。18年度決算は原稿執筆時点では発表されていないが、中間決算が前年比92%増となったことからも、好調な数字となりそうだ。

ラオックスは5年間で売上高が10倍に

ラオックスも、成功例のひとつだ。

1930年に電気器具の行商としてスタートしたラオックスは、戦後、秋葉原に出店したのち、多店舗展開を果たし、大手家電量販店の一角を占めるまでになる。ところが2000年代以降、家電量販店間の競争が激化するに伴い業績は悪化、09年に蘇寧電器に買収され、日本在住の中国人実業家、羅怡文氏が社長に就任した。

羅社長が目指したのは家電量販店からの脱皮だった。家電量販店は寡占化が進み、中途半端な規模の量販店は生き残れなくなっていた。

そこでラオックスは、中国人観光客に的を絞った免税店へと業態を転換する。そこに、空前の日本旅行ブームが到来、中国人の爆買いが始まった。

東京・銀座にあるラオックスの前に毎日、大型バスが何台も止まり、中国人ツアー客がぞろぞろとラオックスに吸い込まれていく風景は日常のものとなる。これによりラオックスの業績は急上昇した。

14年度のラオックスの決算は売上高501億円、当期利益14億円と、14年ぶりの最終利益を計上。さらに15年度には売上高926億円、最終利益80億円とさらに伸ばし、売上高は5年間で10倍に跳ね上がった。

その後、中国人の爆買いが終了したことで、前期は10億円の赤字となった。それでも今期は20億円の最終利益を見込んでいる。

中国系資本の日本企業買収は「死屍累々」

シャープや本間ゴルフやラオックスは買収されることで、経営再建に成功した。しかし過去の中国系企業による日本企業の買収を見ると、失敗のほうがはるかに多い。

1990年代に買収された赤井電機と山水電気は、ともに今では存在しない。三洋電機もハイアールに買収され、「アクア」ブランドで日本市場で戦っているが、成果が出ているとはいいがたい。

レナウンも中国資本のもと、再建に取り組んでいる。かつては「アーノルド・パーマー」ブランドで大ヒットを飛ばし、英国の名門「アクアスキュータム」を傘下に収めたこともある。

しかし1990年代以降、百貨店の地盤沈下と歩調を合わせて沈んでいった。2004年にはダーバンとレナウンダーバンホールディングスを設立したが、それでも凋落に歯止めがかからず、10年に中国・山東如意科技集団が第三者割当増資に応じ、筆頭株主となった。

これにより財務的には安定したものの、業績は一向に改善しない。買収されてから9度、決算期を迎えたが、そのうちの6期で最終赤字を計上している。

前期も40億円近い最終赤字だった。しかも、売上高は減り続けており、長期低落傾向から脱しきれていない。

ではどうすればうまくいくのか。

シャープとラオックスに共通するのは、社長がともに日本に明るく、日本人のメンタリティを知悉していることだ。

シャープの戴正呉社長は、日本への留学経験もあり、日本語でコミュニケーションを取ることができる。またラオックスの羅社長は学生時代、日本に留学し、そのまま日本で20年間ビジネスを行ってきた事業家で、日本語も堪能だ。日本人の心情、日本市場の特徴もよく知っている。だからこそ家電量販店から免税店チェーンへと舵を切る際にも、日本人社員が素直に従った。

パイオニアやJDIの再建はこれからだ。パイオニアは、1月の臨時株主総会で森谷浩一社長が上場廃止を詫びたが、今でも社長の座にとどまっている。

しかし果たしてそれで業績悪化の責任を取れるのか。会社が生まれ変わるにはトップが変わる必要もある。シャープやラオックスに学ぶ必要もあるのではないか。

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