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携帯参入まであと4カ月 国内4番手「楽天」の勝算

三木谷浩史会長

現在は他社から回線を借りて格安スマホサービスを提供している楽天が、10月1日から自前回線でのサービスを開始する。スマホ市場の成長が鈍化する中で、最後発の楽天がどうやって先行3社と戦っていくのか。楽天経済圏を築いた三木谷浩史会長兼社長の勝算やいかに。文=ジャーナリスト/石川 温

楽天が携帯電話事業に参入する理由

6千億円かけて自前の通信網を構築

 今年10月、インターネット通販大手の楽天が携帯電話事業に参入する。日本国内はNTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの寡占状態であったが、ここに楽天が第4の携帯電話会社として風穴を開けることになる。

 既に楽天は「楽天モバイル」という格安スマホサービスを提供している。

 しかし、この事業はNTTドコモやKDDIなどからネットワークを借りてサービスを提供しているだけにすぎない。自社での設備投資はほとんど行わないため、コストがかからず、安価に通信サービスを提供できる。

 今年10月からの携帯電話事業は、自社でネットワークをイチから全国に敷設していく。そのため、楽天では6千億円の設備投資を計画する。

 日本の携帯電話市場は、既にスマホがある程度、普及してしまっており、ここ数年は成長が著しく鈍化している。また、総務省が3社の過度な競争を規制するなど、顧客の獲得合戦も一段落しつつある。

 そんな中、楽天はなぜこのタイミングで携帯電話事業に参入するのか。

 三木谷浩史会長兼社長はIT企業が携帯電話事業に参入する強みを2つ挙げる。

 「まずはネットワークのクオリティ、これに関してはスピードだけでなく、AI機能やインターネットサービスとのシナジーが期待できる。このあたりは構造的に日本企業だけでなく世界の通信業界とは全く違う構造になっている。

 2つ目は顧客獲得。楽天には既存顧客がたくさんおり、ブランドネームも浸透している。その点は有利に展開できるのではないか」と語る。

 三木谷社長は携帯電話事業への参入を事あるごとに「携帯電話の民主化運動」だと語る。大手3社とは一線を画し、「分かりやすくて安価な料金プラン」を実現させる計画だ。

「菅官房長官の肝いり」との噂

 今回の携帯電話事業への参入は、通信業界関係者の間では「菅官房長官の肝いりだ」とささやかれている。

 菅官房長官は、昨年8月に札幌で開催された講演会で「日本の携帯電話料金は高過ぎる。4割値下げできる余地がある」と語り、携帯電話会社に値下げを迫った。

 大手3社に対しては、電気通信事業法を改正し、通信料金と端末代金を分離する「完全分離プラン」の導入を義務化させようとしている。

 一方で、3社だけでは寡占状態となっているため、新たに周波数帯を確保し、楽天に携帯電話事業の免許を与えた。フランスでは4社目が参入したことで、一気に通信料金の値下げ競争が起こった。日本でも同様の競争を促進させようというわけだ。

収益構造の安定化が魅力の携帯電話事業

 楽天にとってみても、携帯電話事業への参入は願ったりかなったりの状況と言える。今の楽天は銀行やクレジットカードなどの金融事業がメインとなりつつある。

 主力であったインターネット通販事業は、アマゾンなどが勢力を伸ばしていることもあり、今後、爆発的な成長は見込めない。インターネット通販は、ユーザーが不定期に購入するため、安定的な売り上げになりにくい。

 しかし、携帯電話事業は、ユーザーから毎月、通信料金収入が期待できる。収益構造の安定化という面で、携帯電話事業は魅力的なのだ。

 NTTドコモやKDDIなどは、ここ最近、インターネット通販事業に積極的だ。もちろん、ソフトバンクも関連会社にヤフーがあり、同じくインターネット通販に注力している。既存の3社が通信事業を軸にインターネット通販事業を強化する一方、楽天はインターネット通販事業から通信事業にシフトしつつある。

 各社とも、ユーザーに対して、IDを発行し、携帯電話サービスだけでなく、インターネット通販や動画や音楽配信、金融など、さまざまなサービスを一手に提供するという「囲い込み」を得意としている。

 楽天にもクレジットカードや銀行、証券、旅行、決済など多種多様なサービスが存在する。ここに携帯電話事業を組み込み、ユーザーに対して楽天のポイントを付与し、「楽天経済圏」の中でさまざまなサービスを使ってもらうという戦略だ。

 まさに既存3社も楽天も最終的に目指しているところは一緒というわけだ。

三木谷浩史・楽天会長

インターネット通販が頭打ちの中、携帯電話事業に意欲を燃やす三木谷浩史・楽天会長

楽天の目指す世界初の「完全仮想化ネットワーク」とは

安価な料金プランが必須

 ユーザーが楽天の携帯電話事業に求めるのは、当然のことながら安い料金プランだろう。菅官房長官の息が掛かっているとすれば、安価な料金プランの実現は避けては通れない。

 楽天が安価な料金を実現する上で、肝となるのが世界初の「完全仮想化ネットワーク」というものだ。

 従来の携帯電話事業者は、全国にネットワークを構築する際、欧州のエリクソンといった基地局メーカーから、携帯電話事業者向けの専用機器を導入してきた。これらの機器は携帯電話事業者しか購入しないため、当然のことながら、価格が圧倒的に高い。NTTドコモやKDDIなどは、今でも年間5千億円前後の設備投資を毎年、継続している。

 一方、楽天が導入する完全仮想化ネットワークは、エリクソンなどが作った専用機器は導入しない。携帯電話事業者が必要とする機能をすべてソフトウエア化し、汎用の機器で運用してしまうのが特徴だ。

 楽天では、インターネット通信事業を運営する際に利用しているコンピューターをそのまま携帯電話事業用に流用するという。楽天では6年間で6千億円の設備投資額しか用意していないが、既存3社よりも圧倒的に安価な設備投資での携帯電話事業が可能になるというわけだ。

 単に安価な料金プランを提供する携帯電話事業をやりたいのであれば、既に展開している格安スマホサービスを強化すればいいように思う。

 ではなぜ、楽天は格安スマホサービスではなく、あえて自社で巨額な設備投資をしてまで、第4の携帯電話事業者になろうとするのか。

 そんな素朴な疑問に三木谷社長は、「日本の格安スマホは、(NTTドコモの)回線をリセールしているにすぎない。技術的な工夫はできないし、使おうが使わなかろうが借りている帯域にコストがかかる。言い方は悪いが、キャリアの奴隷みたいなものだ」と語る。

 つまり、自社で完全仮想化ネットワークを構築し、楽天オリジナルの機能を付加することで、格安スマホでは実現できない高度な携帯電話事業を展開したいというわけだ。

完全仮想化ネットワークへの批判

 ただ、この完全仮想化ネットワークについて、既存3社の関係者からは否定的な声が相次いでいる。

 例えばA社関係者は「完全仮想化ネットワークは汎用品を使うということで、信頼性が確保できない可能性がある。そのため、われわれのネットワークでは導入は見送っている」という。

 またB社幹部は「われわれも完全仮想化ネットワークを試したが、相当、技術的に困難だった。豊富な資金を持ち、人的リソースもある中国メーカーに助けてもらわないことには実現は不可能だ」と語った。

 三木谷社長は「完全仮想化ネットワークは、携帯電話業界のアポロ計画だ」と胸を張る。楽天は、インドで携帯電話事業を成功させた、ネットワーク技術に詳しいタレック・アミン氏を招聘。インドから大量に技術者を日本に集め、完全仮想化ネットワーク実現に奔走している。

 完全仮想化ネットワークは携帯電話事業に必要な機能をソフトウエアで実現しているため、2020年から始まる5Gに関しても、ソフトウエア・アップデートだけで対応できるというメリットがある。

 ただ、ユーザーが携帯電話会社を選ぶとき、「完全仮想化ネットワークかどうか」は関係ない。ユーザーは携帯電話会社を選ぶ基準は料金とともにエリア品質が重要になる。

楽天の携帯電話事業で鬼門となるエリア展開の問題

 どんなに料金プランが安くても「自宅でつながらない」というのでは選択肢から外れることだろう。

 楽天が携帯電話事業に参入する上で、鬼門となりそうなのが、このエリア展開なのだ。

 楽天は25年度末までに全国に2万7397の基地局を建設する計画だ。しかし、ソフトバンクなどは既に20万以上の基地局で全国をカバーしている。大手3社は離島や山間部、地下鉄や新幹線でもネットがつながり、音声通話も可能だ。

 楽天の他社と比べて10分の1程度の基地局数では「どこでもつながる」という状況にはなりにくい。

 そのため、楽天はKDDIとエリア展開に関する業務提携を行った。当面、楽天は東京23区、名古屋市、大阪市だけ自社でエリアを展開し、その他の地域はKDDIのネットワークにつながるようになる。この関係は25年に切れるため、それまでに楽天は全国にエリア展開すればいい。

 ただ、東京23区、名古屋市、大阪市だけでエリアを構築すればいいといっても、10月のサービス開始に向けて半年を切ってしまった。

 競合他社の関係者は、楽天の基地局工事に不安な表情を見せる。

 「基地局を設置できるマンションの屋上は、既に既存3社の基地局が建っており、もうスペースがない。既存3社ですら設置場所の確保に苦労している。工事業者も大手3社で取り合いで、基地局工事をしたくてもできないのが現状だ」と言う。

 楽天の基地局工事を取材したことがあるが、アンテナや無線機をコンパクトにすることで、エレベーターに乗れ、人力だけで屋上に搬入できるようにするなど工夫を行っていた。こうすることで「他社の基地局は大型のため、工事にはクレーンなどが必要となるが、楽天の基地局は小さいので、人力で対応できる。場所も狭くて済むので、マンションオーナーとの交渉もしやすい」(楽天関係者)とのことだ。

 三木谷社長は工事の進捗について「現在の進捗状況はすべての面で、ロードマップどおりに順調に進んでいる」と自信を見せた。

 果たして、サービス開始の10月に、都内でどれくらいちゃんとつながるのか。ここが楽天の携帯電話事業を評価する上での最初の大きな山場となりそうだ。

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