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四輪事業の低迷が深刻化するホンダはどこに向かうのか

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今年6月、F1オーストリアグランプリで優勝したホンダ。F1優勝は13年ぶりとあって、社内は大いに沸いた。しかしその一方で本業はさえない。中でも四輪事業の低迷は深刻で、利益は二輪事業を下回る。自動車産業が大きく変化する中、ホンダはどこに向かうのか。文=ジャーナリスト/立町次男(『経済界』2019年11月号より転載) 

ホンダの4輪部門が苦戦する理由

二輪部門の後塵を拝した四輪部門

 ホンダに元気がない。四輪事業の収益力が大きく下がっているうえ、これまで業績を下支えしてきた二輪事業も海外メーカーの追い上げを受け、安泰とは言えなくなっている。

 税金費用の増加で2020年3月期の通期予想を下方修正するなど、業績に陰りが出てきた。国内では軽自動車「N-BOX(エヌ・ボックス)」の販売は依然として好調だが、利幅の大きな登録車(軽自動車以外)は売れ行きがよくない。かつては自動車メーカーの中でも、自由闊達な社風や革新的な技術で知られていたホンダに何が起きているのか。

 ホンダが今年5月に発表した19年3月期決算では、単価が高いはずの四輪事業の営業利益が2096億円にとどまり、二輪事業2916億円を下回った。

 こうした“逆転現象”は3年ぶり。八郷隆弘社長は、「二輪事業は収益率が高く、ナンバーワンメーカーとして誇りを持っている」と話したが、逆に言えば四輪事業の収益力が下がっているということだ。

 19年3月期の四輪事業の営業利益率は1.9%にとどまっていた。普段、決算発表会見には姿を現さない八郷社長だが、同月の決算発表に合わせて登壇し、四輪事業の改善策について説明。「25年に向けてもう一段、体質を変えていきたい」と話した。

 今年8月2日に公表された19年4~6月期決算も引き続き、四輪事業の“稼ぐ力”に疑問符が付く内容となった。3カ月間の売上収益は2兆7501億円あるのに、本業のもうけを示す営業利益は1203億円。利益率は約4%まで回復したが、二輪事業の3分の1にすぎなかったのだ。

八郷隆弘・ホンダ社長

八郷隆弘・ホンダ社長

経営環境の厳しさと拡大路線の失敗

 もっとも、4~6月期は米中貿易摩擦による世界経済減速の影響などで、トヨタ自動車とSUBARU(スバル)を除く上場乗用車メーカーは軒並み減益となっている。その中でホンダの業績が特に悪いというわけではないが、日本の自動車メーカーでいち早く現地生産に乗り出した米国事業や、世界最大手として利益率も高い二輪事業を抱えるホンダにとっては、物足りない内容と言わざるを得ない。

 背景としては、近年のホンダを取り巻く経営環境の厳しさと、拡大路線の失敗があった。

 主力の米国でSUV人気が高まり、ホンダが得意とするセダン市場が縮小。また原油安で、燃費性能が高いハイブリッド車も苦戦を余儀なくされた。競争環境をみても、現代自動車などの韓国勢が台頭した。こうした中で八郷社長の前任の伊東孝紳社長は「16年度までに世界販売600万台」という大目標を掲げた。このため、余剰生産能力が拡大し、生産・販売体制が非効率化したのだ。

 また、ホンダ首脳も十分に認識しているのが、国・地域ごとの販売現場のニーズをくみ上げるあまり、派生車種を増やし、生産・販売面で効率が下がっていた問題がある。

 八郷社長は5月の説明会で、「グローバルモデルは25年までに派生数を現在の3分の1に削減する」と表明した。グローバルモデルとは、ホンダの四輪事業の中核となる「シビック」「アコード」、「CR-V」「フィット(海外での車名はジャズ)」「ヴェゼル(同HR-V)」の、世界販売で柱となる5車種のことだ。海外を市場ニーズや環境規制が近い6地域で束ね、商品ラインアップの見直しと共有化を進めるという。

 さらにホンダは世界で余剰生産能力の削減を進める。17年に公表した狭山工場(埼玉県狭山市)の閉鎖に向け準備を進める一方、米国のメアリズビル工場(オハイオ州)でも減産を始めた。英国やトルコでは四輪車の生産から撤退する。メアリズビルは北米最大の生産拠点、狭山はホンダ初の四輪車専用工場。「生産の適正化には道筋をつけた」と語る八郷社長の口ぶりからは、“聖域”をつくっていられない厳しい状況が浮かび上がる。

 現に20年3月期の世界販売目標は、前期の実績を下回る516万台に設定。8年ぶりに前の期の実績を下回ることになる。拡大路線からの決別を明確にし、収益改善への覚悟を示した形だ。

ホンダの巻き返し策と将来展望

描ききれないMaaSへの対応

 だが、コスト削減や効率化が着々と進む一方、前向きな収益改善策は道半ばだ。

 5月に八郷社長から説明があったのは、ハイブリッド車や電気自動車に関する目先の戦略。MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)と言われる次世代の移動サービスへの積極姿勢は見えなかった。

 ホンダは昨年10月に米国の自動車大手ゼネラル・モーターズの自動運転子会社GMクルーズホールディングスに出資すると発表した。しかし、ホンダの役割はあくまで自動運転車の車両部分の開発。自動運転タクシーを幅広く展開していくGMクルーズの事業の中で、重要な役割を果たせていけるのかは判然としない。

 また、ホンダはトヨタとソフトバンクが合弁で設立した「モネ・テクノロジーズ」にも出資した。トヨタとホンダが間接的にとはいえ仲間になったことに多くの自動車関係者は驚いたが、もともとソフトバンクとの協力関係にあったのはホンダなのに、トヨタに先を越された格好だ。

 その後、モネにはいすゞ自動車、スズキ、スバル、ダイハツ工業、マツダも資本参加しており、ホンダは埋没しかねない状況にある。八郷社長はMaaSの将来像に関して、「こういう方向で事業を展開していくというものはまだない」と述べ、手探りの状態であることを認めた。

 かつては他社との連携に消極的だったホンダだが、モネへの出資にみられるように姿勢は変わっている。燃料電池分野で提携しているGMと、GMクルーズなどを通して関係を深めるほか、中国の人工知能(AI)開発企業、センスタイムとも自動運転分野で連携する。

 もっとも、トヨタとスズキが資本提携したことで、日本の乗用車メーカー8社がおおまかに3陣営に分かれる構図が鮮明になった。トヨタ陣営がダイハツ、マツダ、スバル、スズキの5社連合を形成し、日産自動車は三菱自動車と組む。その中でホンダはいまだに孤高の存在だ。次世代技術・サービスへの投資がかさむ中、ホンダがGM以外の自動車メーカーとも組んでいくかどうかが焦点になっている。

 次世代技術をめぐっては、7月に埼玉県和光市で開いた戦略説明会で、来年に自動運転「レベル4」の技術を確立することを明らかにしたという。

 レベル4とは制限区域内で運転者ではなく車が主体となって走行するという高い水準の自動運転だ。改正道交法では、一定の条件を満たせば運転席でスマートフォンを操作することなどが認められるという。予定通りに実用化できれば国内メーカー初となる可能性が高いレベル4だが、この機能を搭載した新型車の投入時期は未定で、収益貢献は見通せていない。

 国内事業では、N-BOXやN-WGN(ワゴン)といった軽自動車が好調な半面、登録車がさえない。19年上半期の車名別販売台数では、8位にミニバン「フリード」が入ったくらいだ。ヴェゼルと並ぶ主力スポーツタイプ多目的車(SUV)として昨年、2年ぶりに国内投入に踏み切った「CR-V」の販売を思うように伸ばせていないようだ。今年、3年ぶりに国内で復活したトヨタの「RAV4」相手に苦戦しているとみられる。

 N-BOXは登録車を含めたランキングで2年連続首位となり、圧倒的な強さを誇るのは確かだ。だが、単価の低い軽自動車は利幅が小さいとみられ、手放しでは喜べない。

 今秋の東京モーターショーでは、主力小型車フィットの新型をお披露目する可能性が高い。かつてはナンバーワン小型車だったが、トヨタのハイブリッド車「アクア」や日産自動車の「ノート」の後塵を拝しており、新型で巻き返せるかどうかが国内販売浮揚の試金石となりそうだ。

ホンダ軽自動車

軽自動車は好調だが、登録車の販売は伸びない

PBR1倍割れが「普通の姿」に

 世界首位の二輪事業は、創業者の本田宗一郎氏が「スーパーカブ」を開発して以来、ホンダの成長を下支えした“祖業”で、現在も高い利益率を誇る。4月には研究所の二輪部門全体をホンダの二輪事業本部に統合し、研究開発の効率性を高めた。

 背景にはインドや中国の大手メーカーがホンダを猛追していることがある。八郷社長は5月の会見で、「ナンバーワンメーカーであることを維持していくのは難しい。勝ち残っていくために組織を変えた。2千万台を世界で生産するものづくりの力を生かしていきたい」と述べた。

 こうしたホンダの苦境を、株式市場はどう評価しているのか。18年の始めには4000円程度だったがその後下落が続き、今年の9月上旬には主に2000円台後半で推移。その会社が持っている資産に対して株価がどの程度の水準かを示すPBR(株価純資産倍率)は1倍を大きく割り込むのが、“常態”となっている。

 理論上、会社を解散して資産を分配した方が、株主の受け取る価値が大きくなるわけで、投資家がホンダの成長を相当、懐疑的にみていることが分かる。

 ホンダの独自性は何といっても、四輪車と二輪車だけでなく、パワープロダクツと言われる発電機など多彩な商品群を取り扱うことだ。

 だが、この強みが現在は十分に発揮されているようには見えない。戦略説明会では、MaaSと、着脱式電池などを活用したエネルギー効率利用を組み合わせた「eMaaS(イーマース)」を推進する方針を示した。

 次世代技術・サービスで各社の競争が本格化していく中で、ホンダならではの存在感を発揮できるかが重要になってくる。

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