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「“経験知”に勝るものはない」コマツ新社長が語る未来―小川啓之(コマツ社長)

小川啓之・コマツ社長

国内建機メーカーでは売り上げ規模第1位、世界でも米国・キャタピラー社に迫る第2位。「世界の建機メーカーは、キャタピラー社とコマツの2強」といわれるほど圧倒的な地位を築き、グローバルな市場で世界と勝負ができる数少ない日本企業であるコマツ。今年4月、コマツの新社長に小川啓之氏が就任した。前任の大橋徹二社長は小川氏を選んだ理由を「新興国をどう考えるかの時代。アジアの経験を含めて修羅場をくぐってきている」と語っている。小川社長に、社長就任の意気込みと事業の未来について聞いた。聞き手=和田一樹 Photo=山内信也(『経済界』2019年11月号より転載) 

小川啓之・コマツ社長プロフィール

小川啓之コマツ社長

おがわ・ひろゆき 1961年、大阪府出身。85年京都大学大学院修士課程修了、同年コマツに入社。2010年執行役員、16年常務執行役員、18年取締役専務執行役員。19年4月社長就任。

現場で身に付く知見こそ成長の大きな糧になる

―― 新社長就任の率直な感想を教えてください。

小川 2018年12月に大橋徹二・前社長から新社長就任を伝えられました。正直に申し上げると全く思ってもいませんでしたので、たいへん驚きましたが、その場で覚悟を決め、「分かりました」と答えました。

 私はもともと技術者として入社し、約30年にわたって生産調達の現場で仕事をしてきました。若いころから出世欲のようなものはあまりなく、どちらかというと目の前の仕事に打ち込むタイプでしたから、その時々のポジションでとにかくできる限りのことをやってきました。

 会社や上司は私にチャレンジの場を与え続けてくれましたし、その挑戦をすることにやりがいを感じてきたんです。

 経営について考える上で大きな転機になったのは、14年からインドネシアに総代表という肩書で駐在したことです。マーケティング、車体生産、コンポーネント生産、ファイナンスとさまざまな会社があり、幅広く経験を積むことができました。

 景気が良ければ大きな変化をさせなくとも業績は良くなります。しかし当時のインドネシアは需要の底で、厳しい状況の中でお客さまと新たな関係を構築するために必要なことは何か、販売店と在庫の最適な関係はどのような形なのかといったことを徹底的に考え抜いたことは大きな経験でした。

 また、当社は今年度から新たな中期経営計画「DANTOTSU Value-FORWARD Together for Sustainable Growth」をスタートさせています。18年4月から中期経営計画策定担当として、その策定に大きく関わっていました。これもまた、経営ということを意識するようになった経験です。

「コマツウェイ」を深く理解するために必要な経験知

―― 理想とするリーダー像はありますか。

小川 明確な理想のリーダー像はありませんが、できる限り冷静でいたいとは思います。

 それから重要だと思うのは話を聞く力です。コマツという会社は、全社で品質管理に向けて取り組むTQM(トータル・クオリティ・マネジメント)がDNAとしてあります。特に私が育った生産調達畑はその文化が強かった。

 それから、「現場・現物・現実」を重視し、机上の空論となることなく現実的な課題の解決を目指す三現主義が色濃い会社でもあります。そうした文化はこれからも大事にしていきたいですね。

 こうしたTQMや三現主義の文化は、1961年に米キャタピラー社が日本進出を果たしてきた時に、その対策として打った施策から生まれたDNAです。

 こうした文化は昔から受け継がれてきており、それは国内に限った話ではありません。アメリカやインドネシアに駐在しているときも、国内工場とのコマツ文化の差をそれほど感じませんでした。

 もちろん国の文化はそれぞれですが、仕事に対して一貫した共通の価値観はどの国も同じ。そうした価値観や考え方は今でこそ「コマツウェイ」として小冊子にまとまっていますが、10数年前にはまだありませんでした。それでも会社に脈々と受け継がれているものなんですね。

 先人からの教え、経験、価値観を共有するための「コマツウェイ」は、読むだけでは本当の意味で理解できません。そしゃくし深く理解するためには自らの「経験知」が欠かせません。

―― 現場主義にもつながるものですね。

小川 そうです。私は30年以上コマツという会社で仕事をしてきて、新しいチャレンジを推奨する、そんな社風がモチベーションになっていました。

 アメリカにある工場の工場長という立場での駐在という経験も、入社以来、生産技術に携わっていた私にとって大きな挑戦でした。工場長になれば生産技術だけのことを考えているわけにもいかず、品質管理やコスト、デリバリー、さらには社員の健康やコンプライアンスまですべてのことを考え工場経営をしなければいけません。

 こうした実際の経験の中でしか学べないことは数多くあったと今になって思います。ですから部下にもさまざまな経験をさせたいと考えています。

コマツのブルドーザー

農業でも活躍するコマツのブルドーザー

アフターフォローの充実で収益構造の強化を目指す

―― 小川社長が経営上、特に重要だと考える数字は何でしょうか。

小川 重要な数字は数多くあると思います。しかし特に重視するのは利益率です。

 われわれは変動が激しいビジネスです。過去の歴史を見ても建機の需要はさまざまな経済指標に引っ張られる形で激しく変化するのが明らかです。ですから売り上げを指標にしてしまうと正しい判断ができないと考えています。利益率をみて、収益構造を強化していくことが第一です。

 実際に収益構造を強化するためには、販売後の顧客との関係強化が重要だと考えています。製品の費用を、単なる購入価格だけではなく調達から廃棄までトータルでとらえるライフサイクルコストの観点から考えると、建設機械の新車の割合は10%から20%です。それ以外の部分でオペレーター費や燃料費、オーバーホール費などさまざまな費用があるわけです。

 ですから購入後のサービス、ソリューションを向上させていくことで、お客さんにはライフサイクルコストの面で価値を認めてもらおうと考えています。

 初期投資はやや高いとしてもコマツを買うことの価値を実感してもらうことで、変動が激しい市場の中でも安定的な業績に繋がり、結果として収益構造が改善されると考えています。

―― 米中貿易摩擦や英国のEU離脱など世界情勢が非常に不安定です。

小川 政治的なリスクはわれわれがコントロールできることではありませんから、その時々でいかに柔軟に素早く対応できるかが大切だと思います。

 世界戦略を考える時、中国に大きな市場があるのは間違いありません。市場的にはリーマンショック直後の10年に政府主導で4兆元(当時のレートで約57兆円)の公共投資を行った時がピークであり、そこから中国の国産メーカーも力を付け、外資メーカーの比率は減少し続けています。

 そうした中でも、例えば代理店や工場の再編、新機種導入、新たな延長保証プログラムなど、オーソドックスですがやれることをやっていきます。

 ただし、安値競争をするつもりはありません。あまり物量のシェア、台数のシェアは追う必要はないと思っています。ある程度の利益が出る機種にリソースを集中する形でアプローチをしていく。今後、中国国内で外資メーカーの市場が増えるとは考えづらいので、限られたパイの中でわれわれのプレゼンスをどうやってあげていくか、中国市場はそこが重要だと思います。

―― 北米市場はいかがでしょうか。

小川 北米市場は悪くありません。しかしながらいつ悪化してもおかしくない状況にはあります。これまでの経済サイクルや為替の変動を見ても景気の潮目がきているのではと感じられるため、動向は注視しています。

 北米市場の建設機械の需要というのは、過去を振り返ると住宅着工件数にリンクして動いていました。しかし近年、シェールガスやシェールオイルの工事が増加しており、住宅着工件数の変動に加えてインフラ工事の状況も合わせて考える必要があり、先行きが一層予想しづらい環境になっています。

 ですからそういう意味でも、もともと強い東南アジアをさらに強化する必要性を感じています。そのために、農林業など新たな取り組みも進めています。

 林業では、東南アジアはまだ人件費が安いため機械化が進んでいませんが、いずれ必ず機械化は浸透します。ここに明確なオポチュニティがある。

 農業では、例えばインドネシアのような土壌が柔らかいところや湿地帯には、一般的な農業用トラクターでは入っていくことが難しいのですが、われわれの農業用ブルドーザーなら接地圧が低いため入っていくことが可能です。ここにわれわれ農業用建機を販売して行くチャンスがあるのではないかと考えています。

 アジア市場は、前中計(16年度から18年度)でも「アジアダントツナンバーワン」を掲げて注力してきましたが、東南アジアはこれから人も増え都市化率も上がると考えられており、引き続き力を入れていきます。成長する市場をターゲットにしていくのは当然ですので、インドやアフリカ、これらの市場に力を入れていかないと未来のコマツはないと考えています。

コマツ小川社長2

「成長する市場をターゲットにしないと未来はない」と語る小川氏。

地に足のついた現場力を忘れてはならない

―― これからコマツをどんな会社にしていきますか。

小川 3つあります。まず、ステークホルダーから信頼される会社。2つ目が、常に新たな課題を見つけて社員全員が改革改善に自律的に取り組む会社。3つ目が、業界のリーダーとして新しいコンセプトや新しいビジネスモデル、新しい商品群を実現できる会社。新中期経営計画もこういったことをベースにして策定しました。

 特に2番目が重要です。社員それぞれが自律的に改善していく、先ほど申し上げたコマツの文化であるTQMの部分です。「現場力」といってもいいかもしれません。われわれはメーカーですから、課題解決に向けて改革改善を前提とする「ものづくり」が根幹です。その文化をより強固な形にしていきたい。

 昨今はモノからコトヘなど、人々の行動の変化が注目されがちですが、そういう時代だからこそメーカーであるわれわれはモノもコトも大事にしたいんです。これは私が生産調達の現場で育ってきたということもあるのかもしれません。

 もちろんソリューションビジネスとかイノベーションとか、新たな動きにも取り組んでいきますが、地道に地に足をつけたところできちんとやっていかないと、ふわふわした会社になってしまうと思っています。 新しいことをやっていく一方で、今までやってきたこともレベルアップさせていく。これは忘れてはいけないことです。

 不透明な市場の中でスピード感を持って取り組み、これまでの強みを生かすことと、新たな取り組みのバランスをうまくとっていくことが私に課せられた課題だと思っています。これまでどおり、目の前の課題に向けて挑戦していきます。

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