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地方自治体で繰り広げられるスタートアップ拠点争奪戦

スタートアップの育成は日本にとって不可欠だ(写真はスタートアップワールドカップ東京予選)

世界的に見ても日本にはユニコーン企業が少ない。それは日本の経済力の鏡でもある。そこで政府はユニコーンを育成するため、日本全国の都市に拠点を設置、輩出を目指すことにした。間もなく申し込みが始まるが、狭き門を目指し各都市がしのぎを削っている。文=関 慎夫(『経済界』2020年2月号より転載)

加速するスタートアップ支援

 スタートアップ支援の動きが加速している。地盤沈下が続く日本経済を再び成長軌道に乗せるには、従来の発想とは違う新しい視点で事業を行う起業家の活躍が不可欠だ。

 そこで経済産業省は、2018年6月に「J-Startup」を立ち上げた。

 これは、世界で戦い、勝てるスタートアップを生み出し、革新的な技術やビジネスモデルで世界に新しい価値を提供するスタートアップ企業の育成支援プログラムで、約1万社のスタートアップ企業の中から、これまでに約150社が認定され、政府の支援を受けている。

 民間企業の支援の動きも激しい。これまで日本経済を支えてきた大企業が、新しい産業革命の波に乗るためには、時にはこれまでの成功体験を捨てる必要がある。

 そこで、スタートアップ企業と組むことで、新しい技術・発想を取り込もうとしている。例えば、メガバンクでは自らを否定することになりかねないフィンテックに対応するため、関連するスタートアップに積極的に投資を行うほか、頻繁にハッカソンを開くなど、新しい企業の開拓に余念がない。

 またCVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)を開設する動きが一種のブームともなっているが、これも、スタートアップに投資することで、将来の利益を買うだけでなく、自らが変わるためのきっかけにしたいとの狙いがある。

 当然のことながら、VCもスタートアップ開拓に熱心に取り組んでおり、今では毎日、どこかでピッチコンテストなどが開かれている。

 19年11月28日には、東京・丸の内の東京国際フォーラムで、スタートアップの「ワールドカップ」が開かれた。

 これは「ペガサス・テック・ベンチャーズ」というVCが運営するもので、1500人の入場者でにぎわった。チャンピオンに選ばれたのは太陽光発電など再生可能エネルギー事業を手掛けるLooopという会社で、同社は20年5月にシリコンバレーで開かれる世界決勝戦に出場する。

スタートアップワールドカップ

スタートアップの育成は日本にとって不可欠だ(写真はスタートアップワールドカップ東京予選)

地方自治体によるスタートアップ争奪戦の状況

自治体にとって最重要課題の1つとなったスタートアップ支援

 国や民間企業と同様にスタートアップ育成に力を入れているのが地方自治体だ。

 今では自治体にとってスタートアップ支援は最重要課題のひとつになったといっていい。新しい企業が生まれれば雇用が生まれる。

 しかもスタートアップの場合、若い人材を必要とする。多くの自治体では若者の大都市圏への流出に頭を痛めている。スタートアップ支援はその対策という側面もあり、地方創生の重要な施策となっている。

 国もそれを後押しする。19年6月に開かれた政府の「統合イノベーション戦略推進会議」では、「世界に伍するスタートアップ・エコシステムの統合形成戦略」が公表された。

 これは企業価値が10億ドル以上のユニコーン企業を多数輩出する都市を日本でも形成することを目的とし、そのために全国に2、3カ所の「グローバル拠点都市」を選定、集中支援を行おうというものだ。

 この都市に選ばれると、域内のスタートアップは起業からイグジットまでシームレスな支援を受けることができる。予定では20年1月から公募が始まり、3月までに選定される。

福岡、東京は内定し残るはあと1枠

 そこで、各自治体はこの拠点都市に選ばれるため、懸命に体制の強化と売り込みを図っている。というのも、「2、3カ所」の都市とはいうものの、2カ所については既に内定済ともいわれているため、実質的には残る1カ所を巡る都市間の争いになっているからだ。

 内定都市のひとつといわれるのが福岡市だ。

 高島宗一郎・福岡市長は、12年に「スタートアップ都市・福岡」を宣言し、スタートアップ支援を施策の柱に据えた。その結果、福岡市の開業率は21大都市の中で1位となり、大都市で唯一、5年連続で7%を超えている。今では「スタートアップ支援に熱心な都市」と言えば、真っ先に福岡市の名前が挙がるようになった。

 「今やスタートアップのトップランナーとして、多くの自治体が福岡市をモデルにスタートアップに取り組むようになっています。スタートアップとその革新性に気づいた既存事業との協業も進み、その本質である、リスクをとって新しい価値やビジネスを創出しようというチャレンジマインドが着実に醸成されてきています」(高島市長、『経済界』20年1月号より)

 それだけに拠点都市に選ばれるのも当然と言えば当然だ。

 もうひとつ、選定が有力視されているのが東京都だ。

 選定を目指している地方都市からは、「東京はVCも集中しているため、東京のスタートアップ企業は地方に比べれば資金調達も楽にできる。また既にIPOをした起業家も多く、その中にはエンジェル投資家となっている人も多い。つまり既にエコシステムができている。なぜ今さら支援が必要なのか」という不平も聞こえてくる。

 しかし、拠点都市にはユニコーン5社以上の育成が求められる。それを勘案すると東京を除外することは考えにくい。加えて拠点都市は「日本を代表する都市」という位置付けであり、そこに東京が入らないのもむしろ不自然だ。

 問題は、残り1枠だ。その座を狙ってしのぎを削っているのが、中部・近畿の大都市だ。

 19年11月末、中部経済連合会の豊田鐵郎会長は、拠点都市に選定されるため、愛知県、名古屋市、名古屋大学と共同で作業を進めると表明したが、以前から愛知県ではスタートアップ支援に取り組んできた。

 18年10月には「Aichi-Srartup戦略」を策定、19年9月には「スタートアップ推進課」を設置した。また中国の清華大学や米テキサス大学オースティン校などと提携し、世界のスタートアップの誘致にも力を注ぐ。

 愛知県は日本最大の産業集積地で、自動車や宇宙・航空機産業では圧倒的な力を持つ。しかしデジタル革命は既存製造業にも大きな変革をもたらしており、スタートアップを育成することで、未来の産業を支えていこうと考えている。そのためにも、拠点都市からはずれるわけにはいかない。

大阪、京都、神戸が手を組み統一戦線

 一方、大阪では、19年10月31日に、「大阪スタートアップ・エコシステムコンソーシアム」が設立された。

 その設立趣意書には、「大阪府、大阪市、堺市、関西経済連合会、大阪商工会議所、関西経済同友会及び大阪産業局は、本主意書に同意いただいた団体等とともに、グローバル市場で活躍できるスタートアップ企業の輩出を目指す」とある。つまりオール大阪で拠点都市選定に取り組むことを宣言した。

 大阪の強みは製造業からサービス業まで、幅広い産業を抱えていることだ。その集積が、バラエティに富んだスタートアップを生む土壌となっている。

 大阪にとってのライバルは、愛知県だけではない。隣接する京都市、そして神戸市も、拠点都市選定を目指している。

 京都の場合、人口当たりの大学生が日本一。スタートアップには産学連携が欠かせないため、その点で優位にある。また神戸市の場合は国際都市であり、16年からシリコンバレーのVCと連携し、実績を上げてきた。

 どの都市もポテンシャルを持っているだけに、どこが選ばれてもおかしくない。しかし見方を変えればどこにも決め手がない。

 そこで19年11月15日、大阪商工会議所、京都商工会議所、神戸商工会議所の3商工会議所は、合同の「要望」を発表した。これは拠点選定に際し複数の地方自治体による共同提案を可能にするよう求めたうえで、「大阪、京都、神戸の拠点間連携の取り組みを選定するように」と要望したものだ。21日に3商工会議所の会頭が揃って、竹本直一内閣府特命担当大臣を訪問し、説明を行った。

 このように関西地区は一枚岩になって拠点都市を目指す。25年に大阪市夢洲で開かれる「大阪・関西万博」のテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」で、未来の新産業の展示の場となる。それだけに拠点都市に選ばれるメリットは測りきれない。

 間もなく、拠点都市立候補の受付が始まる。3月末の選定までほとんど時間がない。果たして選ばれるのは、愛知県か、関西連合か、それとも――。

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